ハンバーグ
放課後の教室には、まだ三人の女子生徒が残っていた。
窓の外では、運動部の掛け声が遠く響いている。
西日が差し込んだ教室は、昼間よりずっと広く見えた。
三人は窓際の席を囲むようにして座っていた。
「ねえ、ハンバーグってさ」
最初に口を開いたのは、窓側に座っていた少女だった。
「なに、急に」
「脂身が多いのと少ないのだったら、どっちが好き?」
「えー」
向かいに座っていた少女が少し考える。
「私は多い方かな」
「私も」
「やっぱり?」
「だって、その方がおいしくない?」
少女は笑った。
「わかる」
「でも脂っこすぎるのは嫌だよ」
「そこは加減じゃない?」
「加減って?」
「ほどよく入ってるやつ」
三人の間で、どうでもいい会話が続いていく。
教室の時計が、かち、かち、と音を立てていた。
「じゃあさ、赤身が多いのは?」
「それはちょっと嫌」
「私も」
「やっぱり?」
「なんかパサパサしてそう」
「わかる」
また笑い声が上がった。
あまりにも普通の会話だった。
放課後の女子高生が、夕飯の話をしている。
「じゃあ、どこのが一番好き?」
「どこのって?」
「部位」
「えー、そこまで考えたことない」
「私は柔らかいところ」
「私も柔らかい方がいい」
「筋っぽいのは?」
「嫌」
「硬いのも?」
「嫌」
「じゃあ柔らかくて、脂がほどよくあるやつ?」
「最高じゃん」
三人の意見が揃った。
「でもさ」
一人が頬杖をつく。
「新鮮な方がいいよね」
「まあ、それはそう」
「古いのって、やっぱり味落ちるし」
「保存状態にもよるんじゃない?」
「でも、できれば新しい方がいい」
「わかる」
窓の外から、校門が閉まる音が聞こえた。
教室に残っている生徒は、もうほとんどいない。
「焼き加減は?」
「私はしっかりめ」
「えー、私は少し柔らかい方」
「私はどっちでもいいかな」
「じゃあ三人で食べるときはどうする?」
「中間」
「それが一番じゃない?」
「そうだね」
少女たちは楽しそうに話している。まるで、どこにでもある放課後の雑談だった?
そのとき、一人のスマートフォンが机の上で震えた。
画面が点灯する。ニュースアプリの通知だった。
『市内で発生している連続事件について――』
画面には、最近この街を騒がせている事件の記事が表示されている。
少女はそれをちらりと見た。けれど、何も言わなかった。
そのままスマートフォンを伏せる。
「でさ、ソースは何派?」
「デミグラス」
「私も」
「じゃあ全員デミグラスじゃん」
「チーズ乗せたい」
「わかる」
「目玉焼きもいい」
「それもう最高」
話は何事もなかったように続いていく。
「あと、量」
「量?」
「一人分ってどれくらい?」
「大きい方がいい」
「私も」
「食べきれる?」
「余裕」
「じゃあ大きめで」
三人は顔を見合わせた。
「決まりだね」
「うん」
「じゃあ、今日はどうする?」
「いつもの時間でいいんじゃない?」
「警察いないかな」
「時間ずらせば大丈夫でしょ」
「じゃあ、少ししてから行こ」
「賛成」
三人が立ち上がる。鞄を肩に掛ける。机の上に置かれていたスマートフォンが、もう一度震えた。
画面には、先ほどと同じニュース記事が表示されていた。
市内で続いている事件。
未解決のまま増え続ける被害。
犯人の手掛かりはいまだ見つかっていない。
しかし、その画面を見た少女は何も言わない。
スマートフォンを鞄にしまう。
「じゃ、行こっか」
「うん」
「今夜も調達しに行きますか」
「そうしよ」
三人は笑いながら教室を出ていった。
夕暮れの廊下を、並んで歩いていく。
その後ろ姿は、どこにでもいる普通の女子高生にしか見えなかった。




