プロローグ 誤差
プロローグ
誤差
白い。
どこまでも白い。
床も、空も、境界も存在しない。 ただ、規則正しく並ぶ光の柱と、 羽の擦れる微かな音だけがある。
そこに、ノアは立っていた。
名を
ノア・フリッグ・スレイプニル。
神族の血統。 完成された造形。 エメラルドの髪は揺らがず、 その姿に無駄はない。
——理論成績、上位一%。
——観測精度、誤差0.03未満。
——共鳴値、E判定。
空間が、わずかに沈黙する。
「実技評価、再試験対象」
一枚の紙が、光の中に浮かぶ。
追試。
ノアは瞬きをしない。
神族に瞬きは不要だ。
「理論値に問題はありません」
事実だった。 計算は完璧。 判断速度も基準以上。
だが実地観測において、 彼女は“揺らいだ”。
共鳴値E。 感情共振の低さ。
対象の“選択”を読めなかった。
それが減点理由だった。
羽の先が、わずかに硬直する。
「再試験、了解しました」
光の束が無数に現れる。
人間界の寿命記録。
数字が並ぶ。
残存時間表示。
03y201d
08y011d
00y124d
淡々とめくる。
合理的に、 効率的に。
その視線が止まる。
01y000d
静止。
「……000d」
迎えの時。
再試験には最適。 終了確認のみ。 揺らぎは発生しない。
ノアは羽を広げる。
白が裂ける。
その瞬間、表示が一瞬だけ揺らいだ。
01y000d
だが、彼女はもう降下していた。
——“1”を認識しないまま。




