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Roll the Doom : Remains  作者: 幽明界メイ
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-3-

 お茶を飲み、一息つく。あまり片付いていない部屋に女の子を招き入れるのは気が引けたが、じゃあさよならと寒空の下に送り返すのもためらわれる。彼女がここに来るのは初めてではない。とは言ってもノリッピーやユメと撮影の時に一緒に来ることが多いので二人きりというのは少し緊張する。

「で、どないしたん?」

「あ、そうでした。これを届けに来たんです」

 変な青いガラスのアクセサリーがついたカギを渡される。この部屋のスペアキーだ。冬期講習の時、俺が部屋を留守にしているとき入れるようにと英梨に預けていたのだが、すっかり忘れていた。

「ナザールボンジュウなんて珍しいものつけてますね」

「ナ……まんじゅう?」

「ナザールボンジュウですよ。トルコのお守りで目を模したものです。悪意の籠った視線……邪視というんですけど、それから身を守ってくれるんです。ご家族で行ったんですか?」

「いや……親父やな。あいつ旅行が好きやねん。それか、どこかのフリマで買ったのかもしれんけどな」

 民芸品や骨董品が好きでよく買ってくるのだ。俺は興味ないものばかりだが、妹の英梨は面白がって話を聞きたがる。そのたびに彼は嬉しそうに語り、最後には買ってきたものを彼女に渡してしまう。彼女から、最近は受験のせいであまり話せていないのだと最近聞いたばかりだ。

「それにしてもお守りか。受験近いし、英梨に返してやらな」

「渡す時わざわざ付けてたので、多分そのうちで大丈夫ですよ」

「そっか。にしてもお守りなあ。あまり人からもらったことないけど、俺そない辛気臭い顔でもしとったか?」

「お守りは送る相手に何もないことを願って送るものです。英梨ちゃんはコウくんのこと、大事に思ってるんですよ。きっと」

「そうか……」

 俺は向こう側が見える透き通った青いガラスの塊を見つめた。真ん中に描かれた水色と青色の円が目に見えなくもない。

「そういえば玄関で真っ青な顔してましたけど、どうしたんですか?」

 俺は思わず顔をしかめてしまった。できれば流してほしかった。ノリッピーのあの日の帰り道を辿ったとか、その途中で変な声を聞いたとか言いたくない。

「いえ、言わなくて結構ですよ。なんとなく察しはつきますから。あまり危険なことはしてほしくない、なんて言うつもりもありませんし」

「お、おう。なんかすまん」

「でもひとつ覚えておいてください。何か困ったことがあれば言ってくださいね。あまり頼りにならないかもしれませんが、普通の人よりはできることはあると思いますから」

 一度だけ聞いたが、リアの家系は神社の管理や神職についている人が多いらしい。もしかしていわゆる"見える"人なのだろうか?

「そう言ってもらえると助かる。おおきに。ユメもあまり普通の状態やなかったし、俺もアイツが死んで精神的に参っとるのかもな」

「え、ユメに会ったんですか?」

「ああ、ここに帰ってくる30分くらい前やったかな。家におったで」

 彼女は表情を曇らせている。

「私も寄ったのですが、いる気配がありませんでした」

「鍵開いとらんかった?」

「いいえ、閉まってました」

 嫌な予感がした。ノリッピーが死んだ事実が脳裏を走る。だが、仮にユメが死の間際に立ったとして彼女はどこに行く? あの交差点か? 全くその光景が浮かばない。ノリッピーが最後に彼女の言葉を聞きたかったように彼女も彼のことを最期まで感じたいのではないだろうか?

「ノリッピーの住んどった家に行ってみよう」

 歩いて10分ほどの場所にそこはあった。近くなるにつれ、彼との日々が思い出される。撮影の時いつもふざけてはユメに怒られた。俺もその巻き添えを毎回食らっていたし、リアはその様子を苦笑いで眺めていた。あの時間はもう帰ってこないのだ。

「コウ君、あれ」

 リアが辛うじて言葉を絞り出し、現実に引き戻される。彼のアパートの周りは人だかりができていた。こんな閑静な住宅街にこれほど人が住んでいたのか、とどこか他人事のように感じる。周囲には黄色いテープが張り巡らされ、パトカーと救急車が並んでいるのが目についた。

「なんやこれ」

 俺たちは人をかき分け、どうにか最前列にたどり着く。警察が数人、ある部屋のドアの前に立っている。階段を上った二階のすぐ近くの部屋。ノリッピーの住んでいた部屋だ。

「ほら、下がりなさい」

 数人の警官が俺たちを押しのけるようにアパートの門から遠ざけようとする。

「お、おまわりさん、何があったんです?」

 俺が問いかけるが、彼は口を開かない。俺はたまらずそのうちのひとりの腕にすがりつく。

「おまわりさん、俺の友達がいないんです!」

「こら、離しなさい!」

「こ、コウくん。警察の人、仕事中なんだから」

 警官は腕を振り、リアがなだめようとするも俺はなおも食い下がる。

「あそこの部屋、俺の友達が住んでいたんです!」

 すると彼は一瞬悲しそうな表情を浮かべた。俺が戸惑っていると、彼は声のトーンを落とし、言葉を繰り返す。

「いいから離しなさい」

「……はい、すみません」

「今日はもう帰りなさい」

 有無を言わさない態度に俺はそれ以上何も言えなかった。

「……すんませんでした」

 去り際に振り向いた先、ノリッピーの住んでいた部屋の扉は赤黒く見えた気がした。

 俺たちはお互い一言も交わさず帰り道を歩く。足取りは人生で感じたとこのないほど重たい。

「コウくん、大丈夫?」

 結局、彼女は俺の家の前までついてきてくれていた。

「ああ、大丈夫」

「そうは聞こえないんですが……」

「なあ、ユメと会うた言うたやろ」

「はい」

「その帰り道、ノリッピーが通った道を予想したんや」

 住宅街の中の四辻のことを話す。彼女は少し考え込んでいた。

「アイツがその道通った時、俺と同じ声聞いたんかな、って思ってる」

「可能性はありそうですね。あそこの道、あまりいい雰囲気ではないので避けてたのですがちょっと調べてみます」

「それは助かる」

「そんなことより今から言うこと覚えておいてください」

 リアの声色が少し硬さを含む。彼女の表情は今までに見たことがない、真剣なものだった。

「お、おう。何や」

「その声には決して応えないでください。応えたら最後」

「最後……?」

 一瞬沈黙が流れる。頬を伝う汗の跡を冷たい風が舐めていく。

「あの二人と同じ運命を辿るでしょう」

 どうやら俺はロクでもないことに巻き込まれたらしい。

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