睨み合わない
『その日の温度や湿度でそば粉の配合や捏ね方を変えているというタイプの職人さんが作る最高の蕎麦屋』
少し早めの時間だけれどせっかくの出先。
家に帰らず「良い店」はないかと検索したら出てきた店。
有難いことに場所も近い。
「いらっしゃい」
と、女将さんと呼ばれそうな女性が笑顔でカウンター席を勧めてくれ、あれこれとメニューの説明をしてくれる。
カウンターの奥からジロリと見つめてくる白髪の混じる男性。
きっと彼が職人さんだ。
「では、このおすすめを」
女将さんにメニューを返す。
ネットの情報に比べると時間のせいか客足は多くない。
ゆっくり頂けるかもとメニューと共に出てきた熱いお茶を口にした。
うーん、いい香り。
「ごゆっくり」
女将さんが運んできてくれたざる蕎麦。
「いただきます」
割り箸をわり薬味として付いてきた刻みネギやワサビを無視。
お汁の入った徳利のような容器に上に、お猪口のような物が乗っている。
私はお猪口だけを手に取り、お蕎麦を啜る。
お次はお猪口に少しだけカウンターに合ったお塩を振る。
塩が無くなってもそのままお蕎麦だけをすすり続けた。
「あ、お汁使わなかったや」
まぁ良いか、美味しかったから。
私は女将さんにお会計と「美味しかった」と謝意を伝えて店を出た。
女将さんと話していたから席を立った私は気づかなかった。
職人さんがそばつゆを煮込みながら私の事を睨みつけていたのを。




