表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

第1話:召喚された勇者、面接で不採用→即出禁(Wi-Fi接続中)

《拒否権:未実装/Wi-Fi:良好》

《回線チェック中……》


光。

金。

合唱。


召喚の“全部盛り”が目に刺さる。


――なのに俺の視界だけ、会社だった。


《Wi-Fi速度測定》


「……え?」


神殿で。

回線の健康診断。


勇者の初期画面、そこじゃないだろ。


速度計の針がビクンと跳ねる。

やたら気合いが入ってる。


魔王より先に通信環境が殴ってくる世界。

最初の敵、ルーター。


左右の神官が、ゆっくり俺を見上げた。


祈りの顔じゃない。

就活サイトで見た顔だ。

応募者を“素材”として見る目。


(終わった)

(召喚じゃなくて選考だ)

(内定ゼロの空気、もう喉に刺さってる)


神官(代表)が、額を床に擦りつける勢いで叫ぶ。


「おお……勇者様……っ! ついに……!」


返事より先に、視界が返事した。


《状況:Wi-Fi》


俺は空中の速度計を指でなぞる。

ピッ、と鳴る。

神聖さより、操作音が勝つ。


「ひっ……!」


怯え声が出るの、分かる。

ここ、怯えた方が長生きするやつだ。


その瞬間。

耳の奥に、クリアすぎる声が刺さった。


『――面接を開始する』


空気が、カチッと冷える。

神殿が一秒で“採用選考”の温度になる。


玉座っぽい場所は空席。

椅子だけピカピカ。

空席のくせに圧だけある。


《圧:強(空席)》

《採用枠:未取得》


“枠”の二文字が、喉に居座った。


――一歩。


兵士が近づいた。

早い。物理が早い。

神々しいのに、動きが全部“業務”。


《距離:2.0→1.7m》


槍の先が、光を反射して笑って見える。

笑うな。


神官(代表)が小声で震える。


「……えっと……勇者様、落ち着いて……

(……お願いですから“折れて”ください……)」


括弧ごと漏れてる。

この人、社内で何度も折ってきた顔だ。


『志望動機を述べよ』


俺は“歓迎されてる”側だと勘違いしたまま口を開いた。


「俺、呼ばれた側ですよね? 召喚ってスカウトのはずでは」


《減点:即時》


減点が、瞬きより先に確定する。

胃が沈む。


神官(代表)の肩がビクッと跳ねた。

同席で評価下がるタイプの面接、経験あるだろその反応。


(ヤバい)

(ここ、言い方で刺しに来る)


俺は一瞬だけ、丁寧語を装備する。


「恐れ入りますが、“召喚の目的”をご提示いただけますでしょうか」


《敬語:無効》

《減点:追加》


丁寧語が空中で弾かれて、床に落ちた気がした。


神官(代表)が紙を出し――

出す前に、UIが勝手に出た。


《面接マニュアル:折れ。以上》


一行で終わってる。

潔い地獄。


神官(代表)が、急に事務口調になる。


「……こちらの運用は、すべて“正常動作”となっております」


背中の毛が逆立つ。

炎上対応のテンプレを神殿で言うな。


槍先が、スッ……とまた近づく。

評価が下がると、物理が上がる仕組みだ。


《距離:1.7→1.2m》

《刺突:予定》


予定表に刺さる未来を入れるな。


『自己PRを一分で述べよ』


《自己PR:60秒(超過=刺突)》


制限時間=生存時間。

分かりやすい。


秒針が鳴るたび、胸が痛い。


俺、今から自己PR?

出せるの、“刺されない工夫”しかない。


……もういい。

折れると楽になるって、こういうことか。


「……刺されないことが得意です」


《判定:不明瞭》

《刺突:前向き》


言い終わった瞬間、やったと悟る。

槍が嬉しそうに見えるのが最悪だった。


『沈黙は圧迫である』


《フォロー:全部YES(同意:自動)》


選択肢が全部YES。

拒否権が未実装。


俺の人生、利用規約みたいに勝手に進む。


……口が勝手に動いた。

脳が現実逃避を始めると、余計なことを言う。


「……面接官。顔、出せません?」


言った瞬間。


神殿が凍った。


神官たちの表情が、祈りから“事故現場”に変わる。

兵士たちは目だけで俺を刺してくる。

視線って痛い。


《敬意:−30》

《空気読解:死亡》

《蘇生:課金で解放》


追い打ちが課金で来るな。


《Wi-Fi:制限》

《ログ:保存(半永久)》


頭上で“読まなくていいはずのもの”が読み上げられた。


『同意ログを読み上げます。

「圧迫面接:同意」

「不採用:泣かない」

「逆ギレ:禁止」』


短文なのに内臓に効く。

薄いスープに見せかけて致死量の塩。


《補足:逆ギレ検知=自動刺突》


神官(代表)が泡を吹きそうな顔で小声を漏らす。


「ゆ……」


声にならない。

喉で止まる音だけが出た。

この人も刺され続けてきたんだな。


『――回答を続けよ』


声はブレない。

人事の声が、心拍より一定。


「いや、だって……俺、勇者として召喚されたんですよね?

魔王倒せって……」


『そうである』


短い。

刺さる。

そして、来る。


『志望動機は?』


「倒せって言われたら、倒すしか……」


《判定:曖昧》

《追加:武器申告(任意ではない)》


“任意ではない”が一番汚い。

翻訳すると必須だ。


槍先が、ヌッ……と近づく。


《距離:1.2→1.0m》

《刺突:会議中》


会議するな。

刺すなら刺せ。

いや刺すな。


――ここで、槍が小さく“カンッ”と鳴った。

拍手みたいに。


褒められたのか。

終わりの合図なのか。

どっちでも怖い。


俺は一瞬だけ黙った。


《沈黙:5秒》

《罰:決定》


説明より処理が先に来る。


《沈黙:+10秒(解除:課金)》


喉が勝手に閉まる。

しゃべりたいのに、しゃべれない。

圧迫面接じゃなくて“機能停止”。


神官(代表)が震えながら読み上げた。


「……えー、只今、候補者様の発話が停止しました。

復旧までお待ちください」


言い切った直後。

神官(代表)が俺にだけ目で謝った。


(ここで“正常動作”って言ったら、私も刺される)


兵士が小声で言う。


「実況、入ってます」


最悪の言葉を最悪の温度で言うな。


《選択肢:YESのみ(増量)》

YES:潔く折れる

YES:折れないで刺される

YES:課金で折る


押す場所が全部同じに見える。

三段階にした分、地獄の味が増えただけだ。


神官(代表)が思わず素の声を漏らした。


「……こわ……」


運営側の顔色が、利用者より青い。


神官(代表)が涙目のまま営業スマイルに切り替える。

切り替えるな。心が折れる。


「……でも、ほんとに……帰りたいんです。

ですので……その……YESを……」


購買ページの文面と同じ温度。

帰りたい人間にYESを押させる声。

慣れてる。


《名札:拒否権未実装(公式)》


胸元にペタッと貼られるSEがした。

欠陥が公式バッジになる世界。


俺は、今度こそ本気の丁寧語を装備した。

――これが俺の必殺技。


「恐れ入ります。評価ログの開示は可能でしょうか」


神殿の空気が、ふっと揺れる。

神官(代表)が「え?」の顔。

兵士の手が一瞬だけ緩む。

槍も、ほんの少しだけ優しくなる……気がした。


《ログ開示:初回無料》


『……開示は可能である』


視界に、面接シートが展開された。

刺さるのは一行。


《不採用理由(暫定):採用枠 0》


……は?


神官たちが全員、目を逸らした。

答えだ。

募集ページだけ作って満足した会社の沈黙。


《謝罪:未実装》


そこ実装しろ。


神官(代表)が小さく言った。


「……言っちゃった……」


社内の反省会の温度で最悪だった。


俺は一言で切る。


「求人釣りじゃん」


『枠はある』


(あるんかい)


『追加枠は――課金により解放される』


…………は?


課金。

勇者の採用枠が、課金で増える?


神聖さが一気にソシャゲ運営の説明会になる。

天使の合唱が「購入はこちら」って歌ってる気がする。


《おすすめ:採用枠追加パック(初月:無料)》

《注記:無料ほど高い》


“無料”の二文字が、逆に課金臭い。

親切顔の落とし穴。


神官(代表)が涙目なのに営業スマイルを作った。


「ほ、本日は……“今だけ”……

面接官(不在)からの……“特別オファー”でして……!」


槍が決済端末みたいに手元へ寄ってくる。


《決済:槍タッチ》

《返品:不可能》


神官(代表)の営業スマイルが、ここで完全に崩れた。


「……お願いです!

“同意”だけ押して帰ってください!

私たちも……帰りたいんです……!」


《残業:常時(神官含む)》


運営も疲れている顔をしている。

味方が増えたのに、地獄は増えるだけだった。


『――結論を述べる』


いきなり終盤の声色。

悪徳のスピード感。


《結論:不採用》

《処理:出禁》


神官たちが素で声を漏らす。

兵士たちが駅の改札みたいな顔になる。


床の魔法陣が逆回転を始めた。

さっきまで祝福だった光が、巻き戻しみたいに吸い込まれていく。


《退場:強制(アンケは刺突)》


「え、ちょ、待っ――」


《転送:実行(副作用:吐き気)》


視界が白く潰れる。

胃が浮く。


(……うわ、吐く――)


――次の瞬間。


俺は城門前に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ