第1話:召喚された勇者、面接で不採用→即出禁(Wi-Fi接続中)
《拒否権:未実装/Wi-Fi:良好》
《回線チェック中……》
光。
金。
合唱。
召喚の“全部盛り”が目に刺さる。
――なのに俺の視界だけ、会社だった。
《Wi-Fi速度測定》
「……え?」
神殿で。
回線の健康診断。
勇者の初期画面、そこじゃないだろ。
速度計の針がビクンと跳ねる。
やたら気合いが入ってる。
魔王より先に通信環境が殴ってくる世界。
最初の敵、ルーター。
左右の神官が、ゆっくり俺を見上げた。
祈りの顔じゃない。
就活サイトで見た顔だ。
応募者を“素材”として見る目。
(終わった)
(召喚じゃなくて選考だ)
(内定ゼロの空気、もう喉に刺さってる)
神官(代表)が、額を床に擦りつける勢いで叫ぶ。
「おお……勇者様……っ! ついに……!」
返事より先に、視界が返事した。
《状況:Wi-Fi》
俺は空中の速度計を指でなぞる。
ピッ、と鳴る。
神聖さより、操作音が勝つ。
「ひっ……!」
怯え声が出るの、分かる。
ここ、怯えた方が長生きするやつだ。
その瞬間。
耳の奥に、クリアすぎる声が刺さった。
『――面接を開始する』
空気が、カチッと冷える。
神殿が一秒で“採用選考”の温度になる。
玉座っぽい場所は空席。
椅子だけピカピカ。
空席のくせに圧だけある。
《圧:強(空席)》
《採用枠:未取得》
“枠”の二文字が、喉に居座った。
――一歩。
兵士が近づいた。
早い。物理が早い。
神々しいのに、動きが全部“業務”。
《距離:2.0→1.7m》
槍の先が、光を反射して笑って見える。
笑うな。
神官(代表)が小声で震える。
「……えっと……勇者様、落ち着いて……
(……お願いですから“折れて”ください……)」
括弧ごと漏れてる。
この人、社内で何度も折ってきた顔だ。
『志望動機を述べよ』
俺は“歓迎されてる”側だと勘違いしたまま口を開いた。
「俺、呼ばれた側ですよね? 召喚ってスカウトのはずでは」
《減点:即時》
減点が、瞬きより先に確定する。
胃が沈む。
神官(代表)の肩がビクッと跳ねた。
同席で評価下がるタイプの面接、経験あるだろその反応。
(ヤバい)
(ここ、言い方で刺しに来る)
俺は一瞬だけ、丁寧語を装備する。
「恐れ入りますが、“召喚の目的”をご提示いただけますでしょうか」
《敬語:無効》
《減点:追加》
丁寧語が空中で弾かれて、床に落ちた気がした。
神官(代表)が紙を出し――
出す前に、UIが勝手に出た。
《面接マニュアル:折れ。以上》
一行で終わってる。
潔い地獄。
神官(代表)が、急に事務口調になる。
「……こちらの運用は、すべて“正常動作”となっております」
背中の毛が逆立つ。
炎上対応のテンプレを神殿で言うな。
槍先が、スッ……とまた近づく。
評価が下がると、物理が上がる仕組みだ。
《距離:1.7→1.2m》
《刺突:予定》
予定表に刺さる未来を入れるな。
『自己PRを一分で述べよ』
《自己PR:60秒(超過=刺突)》
制限時間=生存時間。
分かりやすい。
秒針が鳴るたび、胸が痛い。
俺、今から自己PR?
出せるの、“刺されない工夫”しかない。
……もういい。
折れると楽になるって、こういうことか。
「……刺されないことが得意です」
《判定:不明瞭》
《刺突:前向き》
言い終わった瞬間、やったと悟る。
槍が嬉しそうに見えるのが最悪だった。
『沈黙は圧迫である』
《フォロー:全部YES(同意:自動)》
選択肢が全部YES。
拒否権が未実装。
俺の人生、利用規約みたいに勝手に進む。
……口が勝手に動いた。
脳が現実逃避を始めると、余計なことを言う。
「……面接官。顔、出せません?」
言った瞬間。
神殿が凍った。
神官たちの表情が、祈りから“事故現場”に変わる。
兵士たちは目だけで俺を刺してくる。
視線って痛い。
《敬意:−30》
《空気読解:死亡》
《蘇生:課金で解放》
追い打ちが課金で来るな。
《Wi-Fi:制限》
《ログ:保存(半永久)》
頭上で“読まなくていいはずのもの”が読み上げられた。
『同意ログを読み上げます。
「圧迫面接:同意」
「不採用:泣かない」
「逆ギレ:禁止」』
短文なのに内臓に効く。
薄いスープに見せかけて致死量の塩。
《補足:逆ギレ検知=自動刺突》
神官(代表)が泡を吹きそうな顔で小声を漏らす。
「ゆ……」
声にならない。
喉で止まる音だけが出た。
この人も刺され続けてきたんだな。
『――回答を続けよ』
声はブレない。
人事の声が、心拍より一定。
「いや、だって……俺、勇者として召喚されたんですよね?
魔王倒せって……」
『そうである』
短い。
刺さる。
そして、来る。
『志望動機は?』
「倒せって言われたら、倒すしか……」
《判定:曖昧》
《追加:武器申告(任意ではない)》
“任意ではない”が一番汚い。
翻訳すると必須だ。
槍先が、ヌッ……と近づく。
《距離:1.2→1.0m》
《刺突:会議中》
会議するな。
刺すなら刺せ。
いや刺すな。
――ここで、槍が小さく“カンッ”と鳴った。
拍手みたいに。
褒められたのか。
終わりの合図なのか。
どっちでも怖い。
俺は一瞬だけ黙った。
《沈黙:5秒》
《罰:決定》
説明より処理が先に来る。
《沈黙:+10秒(解除:課金)》
喉が勝手に閉まる。
しゃべりたいのに、しゃべれない。
圧迫面接じゃなくて“機能停止”。
神官(代表)が震えながら読み上げた。
「……えー、只今、候補者様の発話が停止しました。
復旧までお待ちください」
言い切った直後。
神官(代表)が俺にだけ目で謝った。
(ここで“正常動作”って言ったら、私も刺される)
兵士が小声で言う。
「実況、入ってます」
最悪の言葉を最悪の温度で言うな。
《選択肢:YESのみ(増量)》
YES:潔く折れる
YES:折れないで刺される
YES:課金で折る
押す場所が全部同じに見える。
三段階にした分、地獄の味が増えただけだ。
神官(代表)が思わず素の声を漏らした。
「……こわ……」
運営側の顔色が、利用者より青い。
神官(代表)が涙目のまま営業スマイルに切り替える。
切り替えるな。心が折れる。
「……でも、ほんとに……帰りたいんです。
ですので……その……YESを……」
購買ページの文面と同じ温度。
帰りたい人間にYESを押させる声。
慣れてる。
《名札:拒否権未実装(公式)》
胸元にペタッと貼られるSEがした。
欠陥が公式バッジになる世界。
俺は、今度こそ本気の丁寧語を装備した。
――これが俺の必殺技。
「恐れ入ります。評価ログの開示は可能でしょうか」
神殿の空気が、ふっと揺れる。
神官(代表)が「え?」の顔。
兵士の手が一瞬だけ緩む。
槍も、ほんの少しだけ優しくなる……気がした。
《ログ開示:初回無料》
『……開示は可能である』
視界に、面接シートが展開された。
刺さるのは一行。
《不採用理由(暫定):採用枠 0》
……は?
神官たちが全員、目を逸らした。
答えだ。
募集ページだけ作って満足した会社の沈黙。
《謝罪:未実装》
そこ実装しろ。
神官(代表)が小さく言った。
「……言っちゃった……」
社内の反省会の温度で最悪だった。
俺は一言で切る。
「求人釣りじゃん」
『枠はある』
(あるんかい)
『追加枠は――課金により解放される』
…………は?
課金。
勇者の採用枠が、課金で増える?
神聖さが一気にソシャゲ運営の説明会になる。
天使の合唱が「購入はこちら」って歌ってる気がする。
《おすすめ:採用枠追加パック(初月:無料)》
《注記:無料ほど高い》
“無料”の二文字が、逆に課金臭い。
親切顔の落とし穴。
神官(代表)が涙目なのに営業スマイルを作った。
「ほ、本日は……“今だけ”……
面接官(不在)からの……“特別オファー”でして……!」
槍が決済端末みたいに手元へ寄ってくる。
《決済:槍タッチ》
《返品:不可能》
神官(代表)の営業スマイルが、ここで完全に崩れた。
「……お願いです!
“同意”だけ押して帰ってください!
私たちも……帰りたいんです……!」
《残業:常時(神官含む)》
運営も疲れている顔をしている。
味方が増えたのに、地獄は増えるだけだった。
『――結論を述べる』
いきなり終盤の声色。
悪徳のスピード感。
《結論:不採用》
《処理:出禁》
神官たちが素で声を漏らす。
兵士たちが駅の改札みたいな顔になる。
床の魔法陣が逆回転を始めた。
さっきまで祝福だった光が、巻き戻しみたいに吸い込まれていく。
《退場:強制(アンケは刺突)》
「え、ちょ、待っ――」
《転送:実行(副作用:吐き気)》
視界が白く潰れる。
胃が浮く。
(……うわ、吐く――)
――次の瞬間。
俺は城門前に立っていた。




