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神々に【欠陥品】と棄てられた俺、最底辺から固有スキル『弱者の共鳴』で英雄たちを喰らい尽くす  作者: number four
第一章 『 最果ての原生林』

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第8話『英雄を喰らう』

2026年1月5日。黎明。


 原生林の朝を告げるのは、小鳥のさえずりなどではなかった。それは空を焼き尽くすような、禍々しくも美しい黄金の余光。

 拠点タワーの魔力障壁がかつてないほどに膨張し、大気を震わせている。聖女オリヴィアが主導する『浄化計画』がいよいよ牙を剥こうとしていた。周囲の酸素が希薄になり、神々の意思が物理的な重圧となって森の全てを平伏させる。


僕は東側の崖にそびえる枯れ木の頂に立ち、冷徹にその光景を見下ろしていた。仮面の下で『真理の眼』を最大出力で活性化させると、美しく輝く黄金の障壁の裏側で、血の巡りのように脈動するおぞましい術式が透けて見える。


【個体名:芥川 アクタガワ・レン

【レベル:47】

【精神汚染度:48%】

【状態:深淵の集中ディープ・フォーカス


「……始まったか」


仮面から漏れる僕の声は、もはや人間の体温を失い、冷たい金属的な残響を帯びていた。右腕を覆う漆黒の鱗が、僕の鼓動に合わせるようにどす黒く明滅する。


 拠点の巨大な石門が開き、武装したプレイヤーたちが列を成して現れた。その光景は、一見すれば魔獣に立ち向かう勇壮な軍勢だ。だが、最前列に並ばされているのは、震えながら錆びた剣を握る八十人の「欠陥品(Eランク)」たち。その後ろを、獲物を追い立てる猟犬のように、アーサー直属の聖騎士たちが固めている。


高台に立ったオリヴィアが、太陽のような慈悲深い微笑みを湛えて杖を掲げた。その声は魔法によって増幅され、森の隅々まで染み渡る。

「神の子らよ! 恐れることはありません。貴方たちの流す汗も、捧げる祈りも、全ては世界の救済へと繋がります。今この瞬間の献身こそが、神々の愛を証明する光となるのです!」


(嘘だ)


僕は内心で吐き捨てた。『真理の眼』は隠さない。オリヴィアから伸びる無数の金色の魔力糸が、Eランクたちの背中に寄生虫のように食い込んでいるのを。彼らが恐怖し、絶望し、そして死ぬ瞬間に放出される生命エネルギーを、露一滴すら逃さず回収するための「収穫の鎌」が、既にその身に突き立てられているのだ。


前進を開始したEランクたちの前に、原生林の魔獣たちが姿を現した。

 『フォレスト・イーター(Lv.52)』。熊の怪力と蜘蛛の機動力を併せ持った醜悪な巨獣たちが、飢えた叫びを上げて最前線に躍り出た。


凄惨な悲鳴が森に響き渡る。肉が裂け、骨が砕ける音が黄金の障壁の内側まで届いているはずだが、英雄たちは微動だにしない。彼らにとって、Eランクが食い殺される時間は、魔獣のスタミナを削り、魔力を効率よく「収穫」するための工程に過ぎない。


「今だ」


僕は佐藤に預けた牙の魔導具を介し、念話を飛ばした。

 最前列で死を待つばかりだった佐藤が、懐から黒い牙を取り出した。瞬間、牙から放たれた負の魔力が、オリヴィアの支配糸を一時的に食い破る。


「逃げろ! 東の崖へ! ここにいても、あの女の養分にされるだけだ!!」


佐藤の叫びに応じ、事前に牙の加護を分け与えられていた二十名ほどの欠陥品たちが、死の行軍を離脱して崖へと走り出した。予想外の造反に、黄金の陣列に動揺が走る。


「……チッ、ゴミ溜めの分際で、勝手な真似を!」


陣列から一際激しい炎が立ち昇った。英雄カイト。レベル65を誇る『火炎の支配者』だ。彼は全身に紅蓮の炎を纏い、逃亡する佐藤たちの背中に向けて巨大な火炎の槍を形成した。


「神に捧げる火種にもなれねぇゴミ共が、勝手に燃える権利なんてねぇんだよ! 塵に還れ!」


放たれた火炎槍が空気を焼き、逃亡者たちの背後へ迫る。レベル差を考えれば、触れるだけで炭化する絶望的な一撃。佐藤が絶望に目を見開いたその時、僕は影から跳躍した。


影移動シャドウ・ステップ


火炎槍が着弾する直前、僕は彼らの背後に滑り込み、漆黒の右腕を掲げた。


「……食らえ、『略奪者プレデター』」

 爆発音はしなかった。


 放たれた業火の槍が、僕の右腕に触れた瞬間、真空へと吸い込まれるように黒い渦へと消えていったのだ。


「な……ッ!? 俺の炎を……喰ったのか!?」


カイトが驚愕に目を見開く。炎を消したのではない。奪ったのだ。

 僕は奪った熱量を右腕で圧縮し、一気に大気へと解放した。凄まじい衝撃波が周囲の樹木をなぎ倒し、カイトの陣営を沈黙させる。


「誰だ、貴様……ッ! ランクEの分際で、何をした!」


カイトが燃え盛る目で僕を睨みつける。僕は銀の仮面を直し、腰の『復讐者の断片アヴェンジャー・シャード』をゆっくりと引き抜いた。


「芥川、蓮。……お前たちが森に棄てた、『ゴミ』の一人だよ。お前のその炎、随分と臆病な味がしたぞ」


カイトの顔が、怒りと嘲笑で醜く歪む。

「あの時の欠陥品か……! どうやって生き延びたか知らねぇが、その化け物染みた力、神々のシステムを汚すバグだな。俺が今ここで、完全に消去してやるよ!」


「『フレア・エクスプロージョン』!!」

 カイトが叫ぶと同時に、僕の周囲の地面がマグマのように赤熱し、巨大な爆発が巻き起こった。だが、僕は一歩も退かない。『真理の眼』で見れば、その爆発の起点も魔力の流れも手に取るように分かる。


僕は黒い刃を一閃させた。

「……断絶」

 刀身が空を裂いた瞬間、荒れ狂う火炎の嵐が真っ二つに割れた。物理的な質量を持たない炎が、文字通り「斬られた」のだ。漆黒の刃は、カイトの魔法を構成する数式そのものを捕食し、無効化していた。


「馬鹿なッ! 俺の極大魔法が……効かない!? 貴様、何をした!!」


レベルという数字を信じすぎだ、英雄。お前の力は借り物。僕の力は、泥を啜り、命を積み上げて奪った現実だ」


 僕は『影移動』で一瞬にしてカイトの懐に潜り込む。

「ガッ……!?」

 カイトの喉元を、漆黒の左手で掴み上げた。


「離せ……離せえええッ!!」


「離さないさ。お前が英雄でいられる時間も、ここで終わりだ」


【固有スキル『略奪者』――深度接続ディープ・リンク開始】


「あ……ああ、ああああああああああああああああ!!?」


カイトの絶叫が戦場に響き渡る。僕の腕を通じて、彼の体内を流れる精製された魔力が、強引に僕の回路へと引きずり込まれていく。

 レベル65。レベル60。レベル50……。

 彼がこれまで弱者たちから搾取し、神々から与えられてきたステータスが、砂の城のように崩れ落ちていく。対照的に、僕の肉体にはかつてない活力が満ち溢れ、背中の刻印がどす黒い輝きを増していく。


涙と鼻水で顔を汚し、無様に命乞いをする「英雄」。

 僕はレベルが40以下まで低下し、抜け殻のようになった彼を、ゴミのように地面へと投げ捨てた。

 僕は視線を上げ、遠くからこちらを凝視しているアーサーとオリヴィアを見据えた。


 二人の顔には、明確な驚愕と、そして初めての「恐怖」が浮かんでいた。



僕は『復讐者の断片』を掲げ、彼らに向けて冷徹に宣言した。

「待っていろ、英雄たち。……次は、お前たちの番だ」


 その声は、かつて森に捨てられた弱者たちの呪詛を孕み、戦場全体を震撼させた。


【戦闘終了】

【レベルアップ:Lv.47 → Lv.50】

【システム警告:個体識別名『芥川 蓮』の危険度を特S級に更新。討伐優先度・最大】


二〇二六年一月五日。

 『浄化計画』の初日に、英雄の一角が墜ちた。

 僕は影へと溶け込み、呆然とする英雄たちを残して崖の奥へと消えていった。

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