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神々に【欠陥品】と棄てられた俺、最底辺から固有スキル『弱者の共鳴』で英雄たちを喰らい尽くす  作者: number four
第一章 『 最果ての原生林』

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第2話 『孤独の捕食者』

バイコーン・ウルフの巨体が沈黙してから、どれほどの時間が過ぎたのだろうか。

原生林の濃密な魔力を含んだ熱風が、僕――芥川蓮アクタガワ・レンの頬をなでる。


「はぁ、はぁ……っ……死ぬかと、思った……」


全身の筋肉が断裂し、骨が軋むような激痛が波のように押し寄せる。

だが、その痛みさえも、自分が生きているという絶対的な証明だった。

レベルが1から15へと跳ね上がった恩恵だろうか。傷口からは既に血が止まり、新しい肉が内側から盛り上がるような、不気味なほどの生命力を感じる。


視界の端に浮かぶステータスウィンドウが、静かに明滅していた。


【個体名:芥川 蓮】

【適性ランク:E(特異点として再定義中)】

【レベル:15】

【HP: 45/110(回復中)】

【MP: 12/80】

【スキル:弱者の共鳴レゾナンス・エコー、略奪者のプレデター・アイ


(レベル、15……。たった一匹倒しただけで、これほど上がるのか)


通常、一〇〇万人の選民たちが最初に送られた「光の都」周辺の平原では、レベル1から10に上げるだけでも数日、あるいは数週間の組織的な狩りが必要だと言われていた。

だが、この『最果ての原生林』は違う。

ここは神々が「生存率0%」と断じた、地獄の最前線。

敵が強ければ強いほど、喰らい尽くした時のリターンもまた、理外の数値となる。


僕は震える手で、狼の死体を見つめた。

そこで、新しく習得したスキル**『略奪者の眼』**が自動的に発動する。


【対象:バイコーン・ウルフの死体から抽出可能な要素を検知しました】

【1. 身体能力の一部(恒久化)】

【2. 魔力器官の破片】

【3. スキル:『二重思考パラレル・マインド』の種子】

【抽出(略奪)を開始しますか?】


「……略奪?」


その言葉の響きに、背筋が凍るような冷たさを感じた。

それは神々が定めた「経験値」という綺麗なシステムではない。倒した相手の魂そのものを削り取り、自分の力に塗り替える、まさに禁忌の所業。


(いいさ。神様が僕をゴミとして棄てたんだ。だったら、僕は世界のゴミを拾い集めて、誰よりも醜く、強く成長してやる)


「……実行しろ」


呟きと同時に、狼の死体からドス黒い霧が噴き出し、僕の胸にある灰色の刻印へと吸い込まれていく。

心臓が破裂しそうなほど激しく脈打ち、頭の中に未知の言語が流れ込んでくる。


【略奪成功:身体能力(STR/AGI)が上昇しました】

【固有スキル『弱者の共鳴』に『バイコーン・ウルフ』の波長が記録されました】

【特性:『不屈の生存者』を獲得しました】

脳が二つに割れるような感覚。


これが『二重思考』の種子か。二つ首の狼が持っていた、別々の意識を統制する力。それが僕の貧弱な脳細胞を無理やり拡張していく。


「……あ、ガ……ッ!」


苦痛に耐えながら、僕は錆びた短剣を握り直した。

以前よりも軽く感じる。いや、僕の腕が、狼の筋力を一部「略奪」したことで、怪物に近いものへと変質しているのだ。


その時だった。


(……来る)


『二重思考』のおかげだろうか。周囲の殺気に対する感度が、異常なまでに高まっていた。

森の深淵から、一匹や二匹ではない。無数の「眼」が僕を凝視している。

バイコーン・ウルフの血の匂いが、さらなる上位の捕食者たちを呼び寄せてしまったのだ。


ガサリ。ガサリ。

巨大なシダ植物をなぎ倒し、姿を現したのは、体長五メートルを超える「大ムカデ」の群れだった。

甲殻は鋼鉄のように黒光りし、その脚の一本一本が鎌のように鋭利に研ぎ澄まされている。


【個体識別:アイアン・センチピード】

【推定レベル:Lv.55 ~ Lv.60】

【警告:集団戦闘は推奨されません】


(レベル60……。しかも、群れか)


普通なら絶望する場面。

だが、僕の口角は無意識に吊り上がっていた。

今の僕には、二十人の英雄たち――アーサーやイザベラ、神代のような輝かしい聖剣も、最強の魔術もない。

あるのは、泥水を啜り、敵を喰らって、死線でしか輝かない呪われた力だけだ。


「……ちょうどいい。レベル15じゃ、神様たちの顔を拝むにはまだ足りないからな」


アイアン・センチピードの一群が、鎌のような脚を鳴らしながら距離を詰めてくる。

一匹一匹がバイコーン・ウルフを上回るLv.55超えの怪物。本来なら、Lv.15の僕が太刀打ちできる相手ではない。


だが、今の僕の脳内には、先ほど略奪した**『二重思考パラレル・マインド』**の種子が根を張っていた。


(右から二匹、低空からの突進。背後の樹上から一匹、落下狙い。……全部、視えてる)


視界が二つに分かれるような奇妙な感覚。

一人の僕は敵の動きを冷徹に分析し、もう一人の僕は高揚する魔力を制御する。

それは、かつて大学生として新宿を歩いていた僕には到底不可能な、異質な「感覚」だった。


「キィィィィィッ!!」


先頭のムカデが地を這うような速さで突進してくる。

僕は短剣を構えず、あえて懐に飛び込んだ。


共鳴レゾナンス――同期シンクロ!」


ドクン、と灰色の刻印が脈打つ。

対象をムカデに固定し、その「硬度」と「瞬発力」を強制的に自分の肉体へ引き寄せる。


ガキィィィン!


ムカデの鎌のような脚が僕の脇腹を叩いたが、そこから響いたのは肉を断つ音ではなく、金属同士がぶつかり合うような硬質な音だった。

ムカデの特性『鋼鉄の甲殻』を一時的に身体に纏わせたのだ。


「悪いな。お前たちの自慢の鎧、僕が一番うまく使えるみたいだ」


僕は怯んだムカデの頭部を、魔力を込めた短剣で貫いた。

緑色の体液が噴き出すが、構わず次へ跳ぶ。


樹上から降ってきたもう一匹を、空中で半回転しながら蹴り飛ばす。

『二重思考』のおかげで、背後の死角すらも手に取るように分かる。

着地と同時に、残りの二匹の首を同時になぎ払った。


【アイアン・センチピード(Lv.57)討伐を確認】

【アイアン・センチピード(Lv.55)討伐を確認】

【レベルが上昇します:Lv.15 → Lv.21】


「はぁ、はぁ……っ! まだ、だ……まだ終わってない!」


身体が熱い。略奪した魔力が血管を焼き切らんばかりに暴れている。

僕は倒したムカデの死体に、休む間もなく『略奪者の眼』を向けた。


略奪プレデターを実行します……】

【特性:『鉄壁の皮膚』を抽出しました】

【特性:『毒素耐性』を抽出しました】

【スキル『糸使い』の破片を検知……】


身体が変質していく。

略奪を繰り返すたび、僕の肉体は神々が作った「人間」という設計図から遠ざかっていく。

腕の皮膚は微かに黒光りし、反射神経は獣を超え、脳内には複数の意識が渦巻く。


ふと、僕は自分の手を見つめた。

血と泥に汚れ、怪物の部位を吸収して変質した醜い手。

祝福された「都」にいる英雄たち――アーサーやイザベラ、神代が持っている白く清らかな手とは、もう何もかもが違う。


(……ああ、そうか。これが僕の選んだ道なんだ)


神に棄てられ、英雄に嘲笑された「欠陥品」。

ならば、僕は世界で最も醜いバグになってやる。

神々の定めた美しいシステムを、この汚れた手で、根底から腐らせてやる。


原生林の闇の奥から、さらに巨大な、バイコーン・ウルフすら比較にならないほどの「王」の気配が近づいてくる。

だが、僕の心に恐怖はなかった。

あるのは、次は何を奪い、どう強くなるかという、底なしの飢餓感だけ。


僕は短剣を強く握り直し、原生林のさらなる深淵へと足を踏み入れた。


二〇二六年一月二日。

世界が「更新」されて二日目の朝。

祝福された光の都で二十人の英雄たちが新時代の希望を謳う傍ら、神に見捨てられた最果ての奈落では、一人の「欠陥品」が絶望を喰らい、世界のルールを壊すための牙を研ぎ始めていた。



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