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三話

放課後、教室の窓から差し込む夕日が机を赤く染めていた。

純平が椅子をガタガタ鳴らしながら、にやっと笑う。

「なぁ、海斗。今日のバイトさ、ラーメン屋だっけ?」

「そうだよ」

「うわ、いいなぁ!まかないでラーメン食えるんだろ?俺、そっちの方が羨ましいわ」

「お前、食うことしか頭にないのかよー」

後ろから透羽(とわ)が呆れた声を飛ばす。

純平は机に突っ伏しながら振り返り、透羽に言う。

「だってさぁ、腹減るじゃん!海斗、俺も一回まかない分けてくれよ」

「いや、無理だろ。店の人に怒られるって」

「ちぇっ」

そのやりとりに、クラスの数人もくすっと笑った。

「なぁ海斗、バイト終わったらゲーセン寄らね?俺と勝負!」

「明日も朝からバイトだろ?体力残しとけよ」透羽が呆れながらも笑って言う。

「......まぁ、ちょっとなら」

海斗が答えると、純平は机を叩いて喜んだ。

「よっしゃー!今日は勝つぞ!」

くだらない会話。

それがただ、心地良かった。


耳をつんざくような電子音が脳を支配する。日中なのに薄暗い店内だけど、蛍光の光があちこちで輝いていた。色取りどりの光と楽しげな音楽は勧誘するように心を踊らせる効果があり、ふわふわとした夢心地になる。

「あー五月蝿(うるさ)い!耳がおかしくなりそうなんですけど。何で放課後にゲーセンに行かないと行けない訳?」

「嫌なら帰れば良いのに」

「は?何か言った?」

「別に」

「おぉ〜!やっぱゲーセンってテンション上がるなー!」

「俺はこういった場所はあまり来ないけど......すごい賑わいだな」

「みんな着いてきてくれて、ありがと〜!」

反応は三者三様(さんしゃさんよう)

予想道り純平と太一は目を輝かせ、透羽は特に反応なし。琉稀(りゅうき)がついて来たのは意外だったが、割と面倒見が良いところと言うか、付き合いの良いところがあるので、今回もそういうことだろう。

彼らとの関係は保育園の『おでん組(年中さん)』からの腐れ縁......?みたいなものだと、今日一日過ごして分かった。

純平は、一つの箱の前に止まった。

透明なケースの中には、色とりどりのぬいぐるみやお菓子が山積みにされている。

(何だ......これは?)

「UFOキャッチャーってさ、取れそうで取れないように作ってあるんだよな。無駄金使うだけ」

「はぁ?夢がねぇなぁ!」純平が叫び、百円玉を投入口に滑り込ませる。

「見てろよ、俺がクマのぬいぐるみ一発で取ってやるから!」

アームがぎこちなく動き、ぬいぐるみの耳をつまんで持ち上げる。

......が、穴の上であっさり落ちた。

なるほど、そのUFOキャッチャーとやらは、アームを動かして中の商品を取る遊びみたいだ。

「ちっくしょー!やっぱ操作感がシビアすぎんだよ!」

「だから言ったろ」琉稀が笑い、透羽はスマホを眺めながら「無理無理」と小さく呟く。

どんどん投入口に滑り込むお金達。

「海斗も一回やってみろよ〜」純平が振り向き、百円玉を押し付けてくる。

「いや、俺は......」

「良いから一回!一回だけ!!」

(すが)るようにせがまれ、渋々コインを投入し、操作レバーを操った。

右、奥。丁度良いとこで止める。僅かに震える手でボタンを押した。

アームはぬいぐるみの足を掴み、ほんの一瞬だけ浮かせたが、そのまま落下。アームは元の位置に戻っていく。

「惜しい!あー、もう一回やる!!」純平が声を上げた。

前世で賭け事から中々抜け出せない人は知っているが、彼もこういった感じだったのだろうか?

「んで、何が欲しいの」

純平に問いかける。

「これのぬいぐるみが出てて、推しだから絶対に欲しい!」

「あ、この漫画読んだことある。面白いよな」

琉稀が口を挟む。

「え、琉稀知ってんの......?今度語ろ......」

「オタクの愛に付いていける気がしないんですけど......」


俺達が訪れたゲーセンは学校から自転車で三十分以内にあるショッピングモール?の中にある。店内にはかなりの数のゲームが鎮座(ちんざ)しており、ぬいぐるみを諦めた純平は次に、比較的小さめのショーケースの中にお目当てのアクスタが入っているのを発見する。三本爪のアームで、制限時間内ならアームの位置を調整出来るタイプのものだった。

「あった!」

「はいはい良かったね。さっさと取ってこんなとこ早く出よ」

「百円玉ある?良ければ俺のを使えば良いよ。いつの間にか増えてしまって」

「海斗、甘やかさなくて良いよ。こんな時の為に両替機があるんだから」

純平は近場の両替機で泣く泣く五千円を千円札五枚に崩し、その千円を百円玉と両替する。

三千円分を両替して、みんなの待つゲーム機へと戻った。

「よし、やるぞ!」

「クレーンゲーム得意なの?」

「いや全然」

「このタイプは一定の金額入れたら確率くるやつじゃない?」

「お前、そういうテンション下がること言うなよな〜」

「純平の活躍、動画撮ってやるからなー」

太一が自慢のビデオカメラを構える。

(本確的だな......)

やいやいと盛り上がりながら見守る。百円玉を入れるとピロンと音が鳴り、ゲームスタート。レバーを動かし、狙いを定めてアームを下げると位置が良く、がっちりとアクスタを掴んだ。が、持ち上げる途中で転げ落ちてしまう。当然だが、ぬいぐるみと同じように一回で取れるようには設定されていないみたいだ。

「当たり前だよね」

「見どころまだか〜」

「もうちょい奥じゃない?」

「海斗しか優しくない!」

その後も何回かプレイするも、アクスタを持ち上げては落とし、持ち上げては落としの繰り返し。

多少の覚悟はしていたが、これは長期戦になりそうだ。だが、純平本人もここで引く訳にはいかないだろう。そこそこの金額を使っているので、もはや意地になっている。

「誰かクレーンゲーム得意な人いる?」

「オレ得意」

「こういうのは自分で取ることに意味あるから、手出し不要なんだよ」

「太一、もういない」

あれだけ動画を撮ると言っていた太一はいつの間にかいなくなっていて、気付かない程ゲームに夢中になっていた。どうせ気になるゲームでもやりに行ったのだろう。みんなも純平のゲームに前のめりになって見守るようになっていた。

純平は念を込めるように百円玉を入れ、プレイを再開する。慎重にアームを運び、ボタンを押した。回転したアームがアクスタの端を掴み、上手い具合にアクスタを固定させた。

「あ、ちょっと取れそうじゃない?」

「お、上手く引っかかってる」

「うおぉっ!取れる!?」

アームで運ばれたアクスタは、そのまま落とされることなく景品獲得口に運ばれる。喜びのあまり、純平は小さく飛び跳ねた。

「しゃぁ!!」

「はいはい、良かったね」

「おめでとう」

その後、子供達に埋もれていた太一を発掘してゲーセンを出る。

「あー、喉乾いた。奢るからジュース飲みに行こ、付き合ってくれたお礼ってことで」

「じゃあ、おれはブドウ炭酸」

「オレは、お汁粉(しるこ)が良い」

「俺は牛乳」

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