二重人格?いいえ、三重人格です。
この世には2種類の人間がいる。
現実にて形を持った人間。前者の持つ空想にて形を持った人間。
空想での人間は主に『人格』と呼ばれ、『人格』を生み出す人間はとある共通点があると言われている。
その共通点が何かとは、まだ解明されていない。
『人格』を生み出す人間を馬鹿にするような人間もいれば、守ろうとする人間もいる。
世界での影響力は現実での人間の方が強いが、『人格』に乗っ取られた人間は、
それのの手足となり動く。
「乗っ取られた人間は、死ぬまで人格に操られるんだってぇ・・・」
教室の隅で話し声が聞こえる。
どうやら『解離性同一障害』について話しているようだが・・・
どこで尾ひれがついたのだろうか。話がなんだか盛られている気がする。
(失礼ではないのだろうか・・・)
苦しんでいる人もいるというのに、意味のわからない物語にして楽しむのは、趣味が悪いと思う。
正直、不快だ。
三人で話しているようだが、こちらをちらちらと見ている人が一人。
クラスのリーダー的存在、酒井智也だ。
聞き耳を立てていても聞こえないくらいの声で何か二人に耳打ちする。
その間にも何度かこちらを見ているのだが、その視線は気持ちのいいものではない。
(私の噂でもしているのか?)
何故だろう、残りの二人もこちらを見ている。目が合わないようにしなければ。
次の授業は理科、休み時間は残り8分。
今日の日直は私のため早く鍵を閉めたいのだが、三人がいるせいで閉められない。
「早く行ってくださいよー。今日は移動教室ですから。」
そう言って片方の扉の鍵を閉める。
三人は慌てたように教室から出て行った。
電気を消し、鍵を閉める。
(準備もあるってのに、時間がねぇ。)
少し小走りで階段を駆け下りた。
ー授業中
「それでは、30分後にプリントを提出し、片付けを始めること。」
今日の授業は【微生物の観察】
中学一年生である私たちにとっては初めての観察だ。
アオミドロ、ミドリムシ、ツリガネムシ、ミジンコ、ゾウリムシ・・・
一番好きなボルボックスがないのが少し残念だが、久しぶりの顕微鏡。すごく楽しみだ。
今回の授業は、これらの微生物のスケッチをしなければならないらしい。
ー20分後
(よし、あとはツリガネムシだけ・・・)
思ったよりもスムーズに観察は進み、残り一つとなった。
そのとき、頭上から誰かの声がした。
「あのさー、松尾ってもしかして、『二重人格』ってやつ?
お前たまに、サイコっぽくなったり、頭おかしくなったりするし。」
そこには、酒井智也が立っていた。
(今じゃない、今じゃないし・・・何より失礼!!
そんな偏見を持たれてる二重人格の人にも失礼だし、そして私にもしっかり悪口言ってる!!)
私が返事に戸惑っていると、酒井は少し目を細めた。なんだか苛立っているように見える。
まあ、失礼なことを言っているとはいえ、固まってばかりいては無視されたように見えるだろう。
「いや、今授業中ですよ?しかも席そんなに近くないですよね?時間間に合うんですか?」
話をそらさねばと思い、遠回しに早く戻れと伝えてみる。
「全部描き終わったし、他にも立ち歩いているやつはいるだろ。」
と、決して上手いとは言えないスケッチをひらひらさせている。
何より、線が太すぎる。そしてミジンコが縦に長すぎる。これではまるで宇宙人ではないか。
笑いをこらえながら質問の答えを返す。答えない限りは帰ってくれそうにはない。
「私は二重人格ではありませんよ。それに、あんまり人に聞く事ではないと思います。」
本当のことは言っていないが、嘘をついている訳でもない。
嘘だとばれたときに面倒なことになるため、嘘は極力つきたくはないのだ。
特に何か言う訳でもなく、酒井は席へと戻っていった。
うるさい野郎がいなくなって清々する。本人の前では絶対に言えないが。
最後のツリガネムシを描き終わり、軽くのびをする。
後数分で授業が終わる。次の時間は確か英語だ。
(面倒なことに巻き込まれないといいけど。)
酒井のほうを一瞬だけ見て、一人小さいため息をついた。
ー次の日
今日は初めての委員会がある。
一応私はクラス委員だ。
『こんな陰キャがクラス委員に?』となる気持ちはとてもわかる。わかるが!
やりたい事はしっかりやろう。中学校生活はそう決めた。
『あなたがクラス委員?向いてないんじゃない?』
『どーせただの足手まといだろ。』
『意味ある?あんたが委員会に入る意味よ。』
今日は悪い夢を見た。昔のことを思い出す。
学校で吐かないことを願おう。
一呼吸置き、教室のドアを開ける。
「おはようございま・・・」
教室に入った瞬間、7人ほどの人の目が集まる。
今ここには10人ほどしか居ないため、約7割がこちらを見ているということになる。
少し不気味に感じたのは私だけだろうか。
正直、今すぐにでもここから逃げ出したい。だが、行動よりも先に思考回路が動いてしまう。
(何かしたか・・・?それとも、何か良くない噂でも・・・)
そんなことを考えているうちに、その七人が集まってひそひそと話をする。
ふと昨日のことが頭をよぎる。
酒井は居ないが、私を見ていたのは全て酒井とよく話している奴らばかりだ。
ふつふつと脂汗が流れる。
嫌な予感がした。
(理科の授業の事、今話しているメンバー、私が教室に入ったときの反応・・・)
忘れたかった、古い記憶。
話を聞いて楽しそうに笑うあの子。
頬が引きつるあの感覚。
悪いことをしていなくとも、「ごめん」の言葉が出てくる喉。
ああ、そうなんだ。
きっとみんな。
そうだよね。
きっと_______も。
期待なんてするんじゃなかった。
思い出した。
私はいつもこうだったや。
目から流れてくるものを抑えつつ、私は廊下へと出た。
「やっぱり、そうだよね。」
小さな声で漏らした言葉。
きっと君らには届くだろう。
段々歩くスピードが速くなってゆく。
ーだって、君らは・・・
一刻も早くここから離れたくて、走り出す。
周りの目など、気にしない。もう、気にしたくない。
ー今くらいはいいだろ。
そのまま人気の無い廊下に行き着いた。壁に右手を当て、目を閉じる。
剥がれかけの壁紙が指に触れる。少し痛い。
「やっぱり、そうだよね。」
少し間を空け、次の言葉を発する。
「少し話そう。三人きりで。」
ー私たちの胸中で。
最後まで読んでくださりありがとうございます!!
りんごとラーメン、科学と物理を愛する理科オタク、あおりんごです。
初めての作品で、ぐだぐだなところも沢山あると思いますが、これから頑張っていきたいです。
この話はほんとの出来事を元に書きました。
※この話は多重人格の方々のことを馬鹿にしているわけではありません。
酒井の偏見がやばいのは本当にあった話だからです。
他の作品も見ていただけると嬉しいです!!
ありがとうございました。