学園への入学試験
翌日、レヴァンは戦闘試験の会場にいた。
試験会場のアリーナは、広大な円形の闘技場で、周囲には星紋術の力で輝く観覧席が設けられていた。思っていたよりも、観客は多かった。
「対戦者の方は、入場してください!」
試験官の声が場内に響くと、対戦相手となる細身の剣を携えた少年が、アリーナの反対側から悠然と歩み寄ってきた。
その姿は自信に満ちており、洗練された動きからは経験の豊富さがうかがえる。
アリーナ中央に立ったレヴァンは、軽く剣を抜き、刀身を確認するように構える。剣から伝わる心地よい重さは、彼に集中力を与えていた。
「俺はカイル・レイナー。高名なレイナー家の次男だ。」
少年が名乗ると、周囲の試験官や観覧者たちから軽いざわめきが起きた。
レイナー家は星紋術の研究と発展に貢献してきた名家で、その家系の者たちは、高度な技術を有していると評判だった。
「名家出身か…。」
レヴァンはその事実を聞いても特に動じることなく、淡々と剣を構え直した。
その様子に、カイルは軽く鼻で笑う。
「旅人の星紋術士が、俺にどれだけ通じるか見せてもらおう。」
「その余裕、どこまで保てるか試してみろ。」
レヴァンの挑発に、カイルの表情が僅かに引き締まる。
「両者とも、準備ができたようだな。それでは、戦闘試験開始!!」
試験官が開始を告げると同時に、二人は鋭い動きで距離を詰めた。
カイルは手に持った細身の剣を振るい、鋭い一撃を繰り出してきた。その軌道は正確無比で、相手を追い詰めるような圧力を持っていた。
レヴァンはそれを紙一重でかわし、逆に素早い斬撃を返す。
「ガキィン!」
金属がぶつかり合う音が場内に響く。二人の剣撃は激しく交錯し、そのたびに火花が散った。
(速い…だが、これくらいなら対処できる。)
レヴァンは相手の動きに集中しながら、徐々に自分の間合いに引き込んでいく。
しかし、カイルもまたその動きを察知し、一瞬の隙を突いて反撃に出た。
「どうした、旅人の星紋術士!もっと本気を出せ!」
カイルの挑発に、レヴァンは微かに笑みを浮かべる。そして、剣を一瞬だけ下げ、足元から星紋術の光を輝かせた。
「なら、少し楽しませてもらおうか。」
次の瞬間、レヴァンの体が風を纏い、爆発的な速度でカイルの懐に飛び込む。
「ズバン!」という音とともに、その剣撃がカイルの防御を揺るがせた。
「くっ…。」
カイルは後退し、距離を取るとともに手元にエネルギーを集め始めた。
その動きから、剣だけではなく星紋術の発動を狙っていることが明白だった。
「見せてやる、代々受け継ぐ雷の力を!」
「雷撃!」
彼の手元から緑色の稲妻のようなエネルギーが奔流となって放たれる。
それは一瞬でレヴァンを包み込もうとするが、彼は既に星紋術を発動させていた。
「風壁!」
青白い光が渦を巻き、緑色の稲妻を遮る防御壁を形成する。
「ズドォォン!!!」
その衝撃で周囲の砂埃が舞い上がり、場内の視界が一時的に遮られた。
「ほう、やるじゃないか」
カイルが関心している間に、レヴァンは次の星紋術を放つ。
「炎弾!」
「なっ…二つ目の属性だと!?」
驚いている間もなく、直径1メートルほどの10個の火球がカイルを連続して襲う。
しかし、カイルは雷を纏わせた細身の剣ですべてを薙ぎ払う。
流石は名家、戦闘訓練をしっかり積んできたのだろう。
レヴァンは、薙ぎ払われた火の粉に風を纏わせ、さらに追撃をかける。
「まだ終わりじゃない…舞え」
消えゆくはずの火の粉が無数の花びらを形成し、炎を増幅させカイルを追尾して襲う。
身体強化で避け切ろうとしていたカイルだが、追尾性が高い無数の炎の花びらが迫る。
大きさは炎弾ほどではないが、追尾性とその数のせいで、直撃したら勝敗を決する大きなダメージを受けることは容易に想像できる。
「くっ…避けきれないか。この僕が全力で防御しなければならないとは。雷壁!!」
カイルは、自身に宿るほぼすべてのマナを練りだし、雷の防御壁を形成する。
「何とか凌いだか…」
カイルの全力の防御が功を奏し、軽傷であった。
しかし、カイルはほとんどのマナを使い切っていた。
「まさか、二属性使いとはな…しかも、複合して操るなんて…」
カイルが驚きつつも淡々と述べる。
二属性を扱える星紋術士は非常に珍しい存在であり、さらにそれを複合させる者はほぼいない。
その実力を目の当たりにしたカイルの表情には微かに動揺が見えた。
しかし、言葉とその表情とは裏腹に、カイルは戦闘態勢を崩さない。
「まだ勝ち筋があるのか。では、試させてもらおう。」
レヴァンは決着をつけるために再び攻撃を仕掛ける。
身体強化を駆使して、一気にカイルへと突進する。
剣が火炎を纏い、その一撃がアリーナ全体を震わせるほどの威力で放たれる。
「ズバン!」
突然、レヴァンの脳裏に一瞬だけ断片的な記憶が蘇った。
白い光と共に、自分がかつて星喰いと戦っていた映像が過ぎる。
その一瞬の隙をカイルは見逃さず、稲妻を剣に宿し、レヴァンにカウンターを仕掛ける。
「まだ僕は終わりじゃない!!」
「甘い!」
「っ…!」
辛うじてかわすも、その衝撃で体勢を崩したレヴァンは、再び集中を取り戻すべく深く息を吸い込んだ。
「もう隙は見せない。」
レヴァンの周囲に風と火の力が同時に展開される。
風が彼の体を包み、動きを加速させる一方で、火がその剣に灼熱の力を宿している。
「行くぞ!」
レヴァンが高速で繰り出す連続攻撃はまさに嵐のようで、カイルは防戦一方に追い込まれる。
カイルのマナが枯渇し、最後の一撃が放たれる直前、試験官の声が響いた。
「そこまで! 実力は十分証明された。両者ともに、素晴らしい戦いであった。」
鐘の音が場内に響き渡り、二人はその場で動きを止めた。
レヴァンは剣を収め、静かに息を整える。
「筆記試験は、3時間後にこの用紙に記載の場所で行う。それまでは、自由行動とする。」
試験官が試合の終わりを告げ、次の試験の案内を手短に行った。
2人が試験官の案内を受けた後、レヴァンとカイルは少し話していた。
「先ほどは無礼な物言いで、すまなかった。君は優れた星紋術の使い手だ。自分の未熟さと外の世界を知る良い機会になった。また機会があれば、手合わせをしたい。」
カイルはレヴァンの実力を心から認め、先ほどの無礼を詫びた。
「気にするな、慣れている。それよりも、いい試合だった。レイナー家の雷の力、初めて見たが凄まじいな。一時も油断できない試合だった。しばらくしたら是非、また手合わせ願いたい。」
レヴァンも相手の力を認めつつ、本心を述べた。
カイルとお互いの星紋術について軽く話し、そのやり取りの後、レヴァンは休憩を兼ねて肉料理で有名な店「獅子の牙亭」を訪れた。
獅子の牙亭の看板は、鋭い牙を持つ獅子の彫刻が象徴的だ。
扉を押し開けたレヴァンが店内に足を踏み入れると、肉の焼ける香ばしい匂いと、暖炉の炎が織りなす温かな空気が迎えた。
荒くれものたちの笑い声が飛び交う中、女性店員が「いらっしゃいませ!」と声をかける。
レヴァンは静かに奥の席に案内され、腰を下ろした。
彼の剣士として鍛え抜かれた纏う雰囲気は、他の客たちの注目を引くが、彼自身はそれに気づくそぶりもなくメニューを手に取る。
先ほどの女性店員が、「おすすめは『牙王のステーキ』です!
骨付きのまま豪快に焼き上げた一品で、身体が資本の戦士の方に大人気です。」と声をかける。
レヴァンは短く「では、それと水を。食後にコーヒーを頼みます。」と笑顔で返す。
しばらくして、鉄板の上でジュウジュウと音を立てる「牙王ステーキ」が運ばれてきた。
皿の上に鎮座する分厚い肉塊からは、肉汁が溢れ出し、焦げた油の香りが辺りを満たす。
レヴァンは銀製のナイフとフォークを手に取り、一切れ口に運ぶ。噛むたびに溢れるジューシーな旨味に、思わず頬を緩めた。
「…美味い!」
呟く声は女性店員にも届き、近くのテーブル越しに嬉しそうな笑顔を浮かべる。
一通り食べ終えた後、次の筆記試験のことを考えていた。
(正直、少し不安だ…俺の知識量で果たして学園の基準を満たせるのだろうか。)
ステーキと飲み物の会計を終え、街の武器を扱う店を少し見た後、残りの時間は余裕を持って筆記試験の会場近くにいることにした。
筆記試験会場の近くのベンチで待った後、筆記試験が行われた。
星紋術の歴史や理論に関する問題が多く、レヴァンは苦戦を強いられた。だが、持ち前の集中力で問題に立ち向かい、必要最低限の点数を確保できたはずだ。。
試験終了後、講師たちが採点結果を確認する中で、彼が回答した内容が話題となっていた。
「この理論、通常の星紋術とは違う角度から解釈しているようだ。」
「確かに…彼は、星紋術師を代々輩出しているどこかの家の出身なのか?
ん?それにしては、点数はさほど良くないな。彼は一体何者なんだ...」
1時間後の結果発表の場では、合格者の名前でレヴァンが無事に呼ばれた。
「何とか合格できたか…」
レヴァンが安堵して呟いていると、一人の少女が彼に近づいてきた。
「あなたがレヴァンね?私はセリーネ・アルヴェリス。この学園で上位ランキングにいる在籍者よ。あなたの戦いを観戦していたのだけど、なかなか興味深かったわ。」
名家の娘らしい堂々とした態度で話しかけてきたセリーネの姿に、レヴァンは一瞬戸惑いながらも軽く頷いた。
その背後では、他の在籍者たちが彼に視線を送りつつ、次々と声を掛けてくる。
「次はランキング戦だな。そこで会おう。」
(ランキング戦?)
新たな挑戦が待ち受ける中、レヴァンは静かに拳を握りしめ、次の試練に向けて心を固めた。