崩壊する城塞都市と謎の剣士
真昼の空は雲一つなく、太陽は白銀の雪原を照らしていた。
――だが、平和な光景は一瞬にして破壊される。
ズズンッ――!
地響きが轟き、遠くの地平線から異形の群れが現れる。
それは突如として現れ、人類の都市を襲う異形の怪物、星喰いだ。
筋骨隆々な巨獣が雪を蹴散らしながら突進する姿は、まるで動く岩山のように重厚だ。
鳥型の星喰いが頭上に舞い、鋭いクチバシで城壁をつつき破壊する。
小型の星喰いが獣のように走り、人々の間を引き裂いていく。
城壁の防衛は崩壊し、都市の防衛隊は壊滅寸前だった。
城塞の一角で必死に防戦を続ける兵士たち――。
鎧は傷つき、仲間の死体が積み重なる中、隊長格の兵士が叫ぶ。
「もう持たんぞ! 退却だ、退却――!」
兵士たちは恐怖に駆られ、統率はもはや乱れ切っていた。
そこへ――一人の剣士が静かに現れた。
謎の剣士は瓦礫を踏み越え、戦闘を放棄しかけた兵士たちの前に立つ。
マントを羽織り、顔は深いフードで隠されている。
背中には普通より少し長い剣――だが、その目には何の動揺もなかった。
兵士たちが剣士に気づき、混乱する。
「おい、子供だ! こんな所で何を――」
隊長も気づき剣士に対して叫ぶ。
「お前、ここから逃げろ!」
剣士は兵士たちの言葉を無視し、低く響く声で言い放つ。
「逃げるな。まだ凌げる――武器を握れ。」
その言葉に、隊長が憤る。
「貴様、何が分かる! 我々は――」
しかし、謎の剣士は隊長を真っ直ぐに見つめ、淡々と告げた。
「前に出る者は“巨獣”を狙え。弓は上を――空中から襲ってくる敵を落とせ。」
一瞬、場が静まる。
彼の言葉には威圧的な響きも力強い命令もない――だが、その口調は戦場の音を切り裂くように明瞭だった。
星喰いの一体――ひと際、筋骨隆々な巨獣が再び突進を始めた。
兵士たちが慌てる中、謎の剣士は剣を抜いた。
手元にガードの付いた剣の刀身が、青白い光を放つ。
――それは星紋術の光だ。
”蒼閃舞”
体が一瞬、流れるように加速する。
謎の剣士は巨獣の足元に滑り込み、剣を縦に振る。
その動きは鋭くしなやかで、巨獣の腹を切り裂いた。
巨獣が苦悶のような叫び声を上げ、崩れ落ちると剣士が隊長へ叫ぶ。
「今だ! 前へ!」
隊長は驚きながらも、叫びを上げた。
「突撃しろ! このまま押し返せ――!」
兵士たちが奮い立ち、剣と弓を手に一斉に星喰いへ立ち向かう。
弓兵の矢が鳥型の星喰いを落とし、隊列が次第に立て直されていく。
謎の剣士は単身、残った星喰いの群れの中へと突き進んだ。
小型の星喰いが群れをなして彼を取り囲むが、謎の剣士は瞬時にその動きを読み、剣を薙いで振るう。
巨獣の爪が振り下ろされる瞬間、謎の剣士は地を蹴り、足の隙間を抜けるように駆け抜け、首元へ剣を突き刺す。
雪原に次々と星喰いが倒れていく。
兵士たちはその光景に目を奪われながらも、謎の剣士の指揮のもとで動き続けた。
やがて、戦場には静寂が戻った。
残されたのは、星喰いの残骸と、息を切らしながら武器を握る兵士たちだけだった。
隊長が辺りを見回し、思い出したように叫ぶ。
「あの剣士は……どこだ!? 戦場を指揮したあの男は――」
しかし、そこに剣士の姿はなかった。
瓦礫の中に抜け殻のように残された剣跡だけが、彼の存在を物語っている。
隊長と兵士たちは互いに顔を見合わせながら呟く。
「……何者だったんだですかね、あの剣士は?」
「分からん……だが、あいつがいなければ、俺たちはここにいなかっただろう。」
雪原に吹く風だけが、静かに戦場の痕を撫でていく。