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第6話(北壁の白銀狼)


 アイルシアの継母ミイカ・ナイトー伯爵が、帝國政府主催の一大記念パーティーに向かう車内で、夫に対して話題にあげた人物である朱雀公アルダート・ホンジョー公爵。


 2人の話題にあがった時点で彼は、この日パーティーが行われる数階層吹き抜けの巨大な広間である、旧皇宮内の舞踏の間に到着しており、パーティーが行われる一階ではなく、会場を見下せる二階にある貴賓者用個室ブースで、待ち合わせしていた者と面会していたのであった。



 「レオニス、久しぶりだね。 直接会うのは帝都ペンドラ帝國大卒業以来かな?」

 気さくに話し掛ける朱雀公。

 「アルダートも、元気そうで何よりだよ」

 「先日のユニオン連邦との戦争で、レオニスの指揮ぶりは僕の想定を超えていた。 とにかく戦勝おめでとう。 我が国にとって、100年以上前に奪われた領地を奪還出来たことは、重畳の極みと言える戦果だね」

 功績を立てた友人に対して、自身のことの様に嬉しそうな表情を見せる。

 それに対して、

 「アルダートが開戦許可を七公全員より取り付けて貰えなかったら、戦さ自体始められなかった。 礼を述べなきゃいけないのは俺の方さ」

 レオニスという名の男は、朱雀公に感謝の気持ちを素直に述べるのだった。


 「しかし、噂で少し聞いていたけど、あんな秘密兵器が使えるようになっていたとはな〜。 道理で戦いを仕掛ける許可が下りた訳だ」

 「古代人の遺物である浮遊要塞『イーオ』。 我が陣営が彼の要塞を発見して手に入れることに成功していただけではなく、そこに存在するオーバーテクノロジー兵器をも使用出来るようになっていた事実は極秘事項だからね。 ユニオン連邦は軍事大国だという意識が強過ぎて、周囲の国々に戦争を仕掛け過ぎ。 いつかは痛い目に遭わせないと、独裁体制の国で軍事力を背景に小国を威圧して増長する一方だからというのが、同盟諸国の一致した意見だったということかな?」

 「それで、イーオの兵器の実戦投入許可が出たと?」

 レオニスの確認に、頷くアルダート。


 

 海洋大帝國は、面積約35万平方キロメートルと最大の島『央本島』を中心に、海峡を挟んで北方に所在する『北本島』、南西方に所在する『南本島』、西方の『西州島』と、東南方約5000キロ離れた大洋海の中央部に浮かぶ絶海の孤島『オロン諸島』の主要5島を中心に、付随する数千の島々で構成された、この世界で最大の海である『大洋海』の西半分を支配する大国である。

 国の中心である央本島は、七公爵が分轄支配しており、北本島はティアナ公が、南本島は南半分をエヒサ公、北半分をナオシゲ公の2家が、西州島はシータ公が、オロン諸島はオロン公が、それぞれ支配している。


 海洋大帝國約1億3千万人余りの人口のうちの8割は央本島に集中しており、南本島に残りの1割余りが、北本島は5%程度、西州島が約3%、オロン島が1%といった割合で、残りの1%が数千の島々で暮らしている。

 五公が支配する四つの島は、全て半ば独立国家である公国(ノース公国・ヅシマ公国・ナシマ公国・ウエスト公国・イースト公国)となっており、施政権に加えて独自の軍権も各公国に与えられている。

 しかし海洋大帝國は近隣周辺諸国との国交関係が悪く、特にアトラ大陸北方を支配する軍事大国『ユニオン連邦』と大陸東央部の大国『タハン』の両国とは軍事面で事実上対峙状態にある。

 その為、海を隔てて両国と隣接する北本島、南本島、西州島に位置する4つの公国の国防負担は、かなり重い状況にあった。



 ところが近年、ユニオン連邦は海洋大帝國から遥か一万数千キロ離れた西方にあるアトラ諸国連合に加盟する一国へ戦争を仕掛けたものの、目論見が外れて泥沼の長期戦に陥ってしまい、その西部戦線へ東方の兵力の大半を極秘に動かしていたことで、海洋大帝國周辺配置の戦力が張り子の虎と化していたのだ。

 これは、過去100年以上の国際情勢から、

 『海洋大帝國が軍事的に動くことは無い』

と舐めきった態度で決めつけた油断であり、ノース公国の若き軍指揮官レオニス・ティアナは、その隙を突くことを北公国と大帝國に進言し、短期決戦を狙った緊急軍事行動の許可を求めたのだ。

 それが12公会議を経て許可された結果、レオニスは即座に北公国軍を率いて行動を開始。

 見事に電撃戦で勝利を収めて一旦帰国し、軍事行動の結果報告目的で帝都を訪れていたのだった。



 「それで、敵の被害は?」

 「実戦戦力の大半を西方戦線に投入してしまい、侵攻を防げないと覚ったユニオン連邦は警告無く我が国に向けて魔核エネルギー弾を搭載した弾道ミサイル50発を東方に点在する軍事基地から発射。 でもその瞬間、我々が要塞イーオの高出力ビーム兵器で魔核エネルギー弾道ミサイルを全て破壊したことにより、基地に保管していた魔核エネルギー弾にも誘爆して大爆発。 地上にあった構造物の全てが魔核エネルギー弾の連鎖的破裂による膨大な魔核エネルギー流と、それによって生じた異次元空間展開で全て吹っ飛んでしまったよ。 よってユニオン連邦の広大な東方領域は壊滅状態。 それどころか魔核エネルギー弾の副作用が広範囲に発生していて、彼の国の東方地帯600万平方キロ以上に及ぶ領域が異次元空間『闇の規律の世界』に包まれてしまっている」

 「闇の規律の世界......詳しくは知らないけど、そのままにしておくと、非常に不味いことになるのだろ?」

 「異次元空間内での抵抗を討伐して中心部のエネルギー源のコアを破壊しないと、闇の規律の世界は徐々に拡がっていくと言われている。 ただユニオン連邦は軍事大国なので、他国の援助を受け容れないだろうね。 彼等が闇の世界の討伐に失敗し、大きな危機に陥ってから世界各国が支援の方法を考えるってところかな?」

 「何はともあれ、今回の軍事的成功はアルダートの政治力のお蔭だよ。 百島群島とリサ島に侵攻しただけで、いきなり魔核エネルギー弾を発射して来るとは思わなかったからさ」

 レオニスはそう答えると、自身の判断が甘かったことを素直に詫びるのだった。




 ここで少し解説を加えると......

 浮遊要塞『イーオ』とは、地表から約20キロ上空にある、巨大な要塞である。

 これは十数万年前、超高度な文明を持っていた古代人が、この惑星防衛の為に構築した惑星防衛システムの残滓遺物である。

 外宇宙に出た古代人達は、やがてより高度な文明を持つ異星人と遭遇。

 その後対立関係となってしまった結果、最終的に古代人は異星人に滅ぼされ、その際、惑星防衛システムも破壊されたのだが、唯一残ったものが現代人に発見され、浮遊要塞『イーオ』と呼ばれているのだ。

 『魔核エネルギー弾』とは、魔核エネルギーを使った強力な兵器で、『魔核エネルギー』とは異星人達がこの惑星に持ち込んだ特殊なエネルギー源のことである。

 古代人をほぼ滅ぼした際に、この惑星を異星人が住みやすい環境へと変える必要があり、更には古代人達を居住不能とする目的もあって、この惑星上に展開した異空間を『闇の規律の世界』と現代人達が呼んでいる。

 その異空間を維持する為のエネルギーを現代人は『魔核エネルギー』と呼び、それを応用した兵器が『魔核エネルギー弾』である。

 禁忌の兵器、『魔核エネルギー弾』。

 この兵器が発動すると、半径数キロに渡り地上の構造物が全て破壊されるだけではなく、以後魔核エネルギーを使った副作用で地表上が異空間に支配されてしまうのだ。


 この惑星の新たな支配者となったその異星人達は、数万年後、いつの間にか消滅しており、この惑星の地下深く隠れ潜むことでごく僅かに生き残っていた古代人達は、そのことに気付いた後、地表上に拡がっていた異空間を封印することには成功したものの、異星人達からの報復を恐れて再び地底に潜ってしまい、以後その行方はようとして知れない。

 ただ一部の古代人達は、少しずつ現代人の世界に紛れて生活をするようになったことで、その血筋を引く末裔達が、現代人の中にも複数存在するというのが、この惑星世界の真相である。

 

 なお、『魔核エネルギー』と似たものとして『魔力』がある。

 しかし『魔力』とは、古代人達が開発したナノバイオ兵器が持つ固有の特殊な力である。

 その力を現代人達は『魔力』と呼んでいるのだ。

 このナノバイオ兵器は、種々の自然エネルギーを集約し、瞬時に大きな力を発揮することが出来る。

 古代人達が開発したナノバイオ兵器は、自己保存本能と防衛本能を持つことから、自身が生き抜く為に適性者を常に探し続け、寄生して生き延びてきた歴史がある。

 人に寄生しなければ、超高度文明が生み出したナノバイオ兵器と雖も、長くは生き続けられない。

 その為、ナノバイオ兵器に選ばれ、寄生された現代人が、強い適性を発揮出来ると強い魔力を使えるようになるという訳だ。

 ただ、ナノバイオ兵器に選ばれた多くの者が、実は古代人の血を引く末裔である。

 その血はかなり薄まっているものの、現代人の中の一部にも流れているのが実態である。

 また、異星人の魔の手から逃れ、十数万年の時間を生き抜いてきたナノバイオ兵器の生存数は、現在百数十体程度であり、しかも強い適性が有ってその特殊な能力を発揮できる現代人は、ごく僅かしか存在しない。



 話は物語に戻る。

 レオニスは、本名レオニダス・ティアナという。

 ノース公国(北公国)を統治するティアナ公当主の三男で、次兄メロニダス・ティアナと発音が近いことから、省略して周囲の親しい者達からは、レオニスと呼ばれている。

 貴族最高爵位の『公爵』より更に格上の『公』の家の出自であることから、中央貴族社会でも一目置かれる存在の筈だが、家督を継ぐ可能性の無い三男であることや、レオニス自身が上流社会の習慣とウマが合わないことから、舞踏会や社交会に殆ど出席しないので、あまり名前は知られていない。


 そのような理由から貴族としては無名に近いが、レオニスには軍才があり、若干27歳の身ながら、ノース公国の私兵を率いる軍指揮官に抜擢されている。

 今回、見事な速攻戦を指揮して、100年以上前の世界大戦の終戦後の混乱期、ドサクサに紛れて『ユニオン連邦』に奪われてしまっていた百島群島や資源豊富な大島『リサ島』を奪還することに成功したということになる。


 その疾風のような攻撃指揮ぶりに、ユニオン連邦軍の東方地帯に配置されていた防衛部隊は、武器弾薬不足や人員不足もあって1週間でほぼ全滅。

 3週間に渡る電撃戦の結果、当初の作戦の予定を超えて、ユニオン連邦の領域であるアトラ大陸北東岸で最大の都市『バラト』一帯の占領にも成功していたのだ。

 そうした戦果をあげたことで敵からは、レオニスの銀髪に近い髪色を加味して、『北壁の白銀狼』の異名を敵に付けられるほど、恐れられる状況となっていた。



 また、魔核エネルギー弾道ミサイルの完全破壊を契機に、海洋大帝國と同じ同盟機構に加盟する『ハン・シラ連合王国』が、密約に基づいて軍を動かし、ユニオン連邦領東南岸にある都市『ストーク』とその一帯を占領。

 両国の動きに触発された大陸の大国『タハン』までもが長年の盟約を破り、長い国境線から大軍をもってユニオン連邦領内へと『魔核エネルギーと闇の規律の世界対策』を理由として侵攻。

 ユニオン連邦は、悪魔の最終兵器『魔核エネルギー弾』を大量保有していたことが裏目に出て、『闇の規律の世界』が領土の三分の一に渡る広範囲に発生してしまったことで、東方における国土を全て奪われる結果となり、泥沼化していた西方戦線での戦闘も中止し、不利な条件で周囲の国々と停戦条約を結ぶという、屈辱的な結果をもって、国境各地における局地戦は終結となっていた。



 「いつもそうなのよね〜、レオニス様は。 詰めが少し甘いから......」 

 急に貴族ブースの扉が開いて、入って来た若い女性が話し掛けてきた。

 「エウレア......」

 蒼龍公エウレア・シェラス公爵。

 七公の一人であり、海洋大帝國で随一の魔力を有している人物であることから『魔公』とも称される、魅惑的な長身の美女である。

 「今回、12公への根回しだけでは無く、他国との極秘交渉も、要塞兵器使用の許可取り付けまで、結局アルダート様と私が行ったのだからね」

 エウレアは立ったまま、豪奢な椅子に座っているレオニスの背後に移動すると、頭を優しく撫でながら、笑顔で裏事情の説明を始める。

 「もちろん、それはわかっているよ。 2人に迷惑掛けてゴメンな」

 レオニスが素直に感謝の言葉を述べるとアルダートは、

 「エウレア、そんな些事はイイんだ。 結果は最上々で、他の公に対する僕達の発言力が大きく増したのだから。 各同盟国も我が国がユニオン連邦に攻め込んだことを非常に感謝してくれているよ。 大きなリスクを取ったことと、東方での圧勝を奇貨として西方の戦いも有利な条件で終結に持ち込めたからね」

 アルダートは、余計な配慮はしなくて良いのだと、改めて説明する。

 それぞれが、それぞれの役割を果たすことで、成功を掴めたのだと言いたいのだ。


 「積極果敢がレオニス様の長所だものね〜。 これからもアルダート様と私は、影でフォローしてあげるってこと」

 エウレアは、アルダートの反応から少し恩着せがましかったかなと思い、発言を微妙に修正する。

 そして、

 「ところで話は変わるけど、レオニスは未だに恋人が居ないの?」

と質問。

 それに頷くレオニス。

 

 「本来ならば今頃、私がレオニス様に嫁いでいた筈なのに......急遽家を継ぐことに決めてしまったから、ゴメンね〜」

 12公の当主間や後継者間において、婚姻関係を結ぶことは、基本的に禁止となっている。

 それは、ある一族が実質的に数家を支配し、12公会議を牛耳ってしまう可能性を排除する為の措置であった。

 「いえ。 エウレア様が家督を継がれたことと、俺が独身なのは関係ありません」

 少し緊張し、赤らめた面持ちで答えるレオニス。

 エウレアを想う気持ちがまだ残っていることから、そうした心情が表情に少し出てしまったのだ。


 確かに2人が交際していた10代後半、エウレアが家督を継ぐ可能性は低く、レオニスがティアナ公の家から独立することで、2人が婚姻出来るという話が出ていたのだ。

 ただ特別な権力を有する12公は、長幼の序よりも、人物の能力と性質をより重視して、家督を継がせるべきだという不文律がある。 

 その為、とある人物が12公の家督を継ぐ際、他の6家以上から異論が出た場合、再考して12公会議での議論を経る必要が有る。

 エウレアは成人するにつれて、強い魔力を複数有している事実が他の11公にバレてしまい、しかも他の異母兄姉よりも明らかに優れた才幹を持つ人物に成長していった。

 そして、シェラス公爵家だけが抱えていた、特殊で非道なある裏事情が発覚したことで大きな事件が発生した結果、約2年前にエウレアが23歳で家督を継ぐこととなり、レオニダスとの結婚に向けた話は完全消滅したのだった。


 「アルダート様。 今回の武功の論功行賞って、もう決まったのですか?」

 「いえ。 まだですよ、エウレア」

 「レオニス様は、何か希望の褒賞ってあります?」

 「いや。 俺は褒美を貰う為に戦いを仕掛けた訳では無いから......」

 「じゃあ、レオニス様の希望は特に無しってことで〜。 私に良い提案が有るのですが、アルダート様の許可を頂きたいのです」


 イタズラっぽい笑顔を浮かべるエウレア。

 話の流れから、なんとなく察しがついたアルダートも笑い出す。

 そして2人は、ブースから階下を眺め始める。

 広大なホールでは、既に多くの貴族が集まっており、各所で談笑が始まっていた。

 この日、貴族社会における正式な社交界デビューとなる若者達は、一段高いステージに並び、緊張の面持ちを見せている。

 多くの貴族達も談笑しつつ、ステージ上の若者達を品定め。

 目に付く者が居れば、自身や親族との婚姻関係を結ぶ機会になればと、血走った眼で見詰めているのだ。


 そんな様子をオペラグラスで確認する2人。

 注目が集まっているステージ上の若き貴族の子弟をアルダートとエウレアも品定め。

 やがて、レオニスの方を見ると、

 「あのステージに居る若い美女達の中から、レオニス様の婚約者を賜わることにしましょうか? 戦功に対する褒賞として」

と、エウリスが当人の承諾を一応求めておこうと確認する。

 「ちょっと待ってくれ。 俺は27歳だぞ? あのステージに居る子達は、13歳〜15歳。 年齢差を考えたら、凄く可哀想ではないか。 それに俺は軍人で貴族としては爵位もなく無名だし......」 

 レオニスは少し慌てた様子で、他の褒賞をと言い出したものの......


 「レオニス様はOKだそうです。 アルダート様としては、どの子が良さそうですか?」

 「あの子がトザー男爵の娘さんか〜。 その隣の隣はオーノ子爵の一人娘。 2人共噂通りのなかなかの器量良しだし、実家の爵位も財力も低いから、貧乏貴族のレオニスが気を遣わずに済みそうな子だよね? エウレアは、どのが良いと思う?」

 「2列目の真ん中に立っていらっしゃるナイトー伯爵家の双子さんは、女性である私の目から見ても、羨ましいくらいの美貌ですよ」

 「ナイトー伯爵......か〜」

 「あら。 アルダート様はお気に召しませんか?」

 「あの家はご当主の人となりがイマイチだよね? それに大富豪で、お子さん達を贅沢三昧させ育てているから、貧乏なレオニスが困ることになりそうだよ」

 レオニダスの抗議は完全無視して、戦功の褒賞としての婚約話を進めることに超乗り気の2人。

 しかも国のトップである12公のうちの2人なのだから、ここで2人の意見が一致してしまえば、レオニダスとの婚約の儀は決定事項となってしまう。


 「いやいや、当事者たる俺の意向は無視かよ〜。 2人だって、独身じゃん〜」

 なんとか勝手に決められるのを阻止しようと、情けない声を出して阻止を図るレオニダスだが、効果は無い。

 それどころか、2人同時に、

 「独身って言っても、レオニスと一緒にしないでくれるかな?」

 「独身だからって、レオニス様と一緒にしないで」

と逆抗議される始末。

 そして、同時の発声だったので、笑い出す2人。


 「僕はレオニスと違って、ずっと恋人は居るんだよ。 それは知っている筈だよね?」

 アルダートは大笑いしつつ、再確認してきた。

 「もちろん知っているよ。 サクヤ姉さんだろ?」

 アルダートの恋人は、レオニダスの一人しか居ない姉である。

 ただ12公同士が絡むような婚姻関係は結べないので、ずっと事実婚という形式となっているだけなのだ。

 「私も似たようなものよ」

 エウレアは現在、側仕えの若き従者と恋人関係にあるが、結婚するには身分差が大きく、周囲の大反対や12公会議に掛けられるのは面倒だからと、入籍は全く考えていない。


 「レオニスは生活能力が低いし、早く良い人を見つけないと、ルテス子爵が可哀想だよ。 北公国軍のレオニス司令官付きの副官っていうことで、一緒に暮らしてレオニスの身の回りの世話をしてくれているのだろ?」

 「そうそう。 ルテス子爵にレオニス様の奥様代わりをずっとさせ続けるのは、彼の能力の使い道として、間違っているからね」

 アルダートもエウレアも、レオニダス個人の私生活の状況が酷いのに、一向に相手を探そうとしないから、周囲のみんなの為に婚約者候補を褒賞として出すのだと、それらしく理由を説明し始める。

 それを聞くにつれ、抗議する気持ちが萎えてきたレオニダス。

 自身のだらしなさの指摘は、正鵠を射ていたからであった。



 「決めました。 私の推しは、やっぱりナイトー伯爵家の娘さんですわ」

 エウレアの決断に、思わずその顔を見詰めるアルダート。

 エウレアの美しいその瞳には、何か確固たる確信と隠された重要な意図が満ち溢れているようにアルダートには感じられたので、

 「レオニスの元許嫁で元恋人の言だから、尊重することにするよ。 じゃあ、僕も異論無しってことで」

 アルダートの最終決定にエウレアは、

 「私が『魔公』と呼ばれる所以、この度の決定の結末を時間が経ってから振り返った時、アルダート様も、そして当事者たるレオニス様も実感されることになりますよ」

と自信たっぷりに話す。

 その口調を聞き、諦めたレオニダス。

 元恋人として、その性格を熟知しているからだ。


 「わかったよ。 とりあえず、2人がそう決めたのなら、婚約者候補として会うのは構わない。 でも、実際に結婚迄至るかどうかは、俺が決めることだからな」

 そう念押ししつつ渋々承諾したことで、正式な決定となる。

 直ぐに、側近の者を呼び出した朱雀公と蒼龍公。

 すると、流石七公に仕える側近達である。

 何処に控えていたのか、30秒以内に3名ずつ、3人の前に現れたのだ。

 「ご当主様。 ご用件は如何に」

 「ナイトー伯爵家の娘のうち一人と婚約する権限を、レオニダス・ティアナの今回の大きな戦功に対する褒賞として朱雀公と蒼龍公連名で出すことに決めたから。 他の五公に伝えて欲しいの」

 エウレアが6名に伝えると、側近達は直ぐにその場を去って行く。

 その様子をレオニダスは見送りながら、

 『俺も年貢の納め時か〜』

と思いつつ、階下の大広間の雛壇にて、見世物のようになっているナイトー伯爵家の双子の様子を気の毒そうな表情で見詰めるのであった......


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