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第3話(顔に傷跡のある美少女)・第4話(アイルシアの秘密)

書いていたら長くなり過ぎたので、2話に分けました。

読みにくくて申し訳ありません(・・)


【第3話・顔に傷跡のある美少女】


 現代の地球と良く似た、とある惑星の世界。

 その惑星上に所在する海洋大帝國は地理的に、現代の日本とかなり似通っている。

 しかし、その政治体制は大きく異なる。

 国の名称が示す通り、帝政国家である『海洋大帝國』。

 少数の貴族階級と大多数の平民という二段階の身分制度が存在する。

 ところが、この惑星の世界にも民主化の流れというものが発生しており、過去に比べると現代において、身分の差による差別はだいぶ小さくなってきているのではあった......



 海洋大帝國の帝都ペンドラ。

 その中心部から少し離れた、遠くに海を見渡せる風光明媚な高台に広がる超高級大邸宅が並ぶ一帯。

 ミイカ・ナイトー伯爵はこの日、非常に大事な賓客をその一帯の一角にある豪奢な大邸宅に迎えていたのだった。



 「公爵様。 わざわざ当家に迄お越し頂き、誠にありがとうございます」

 その賓客に丁寧な挨拶をして、玄関先で出迎えた伯爵の年齢は、間もなく四十歳になろうとしていたが、着飾った姿はまだ三十代前半に見えるというところである。

 「いや、出向くと言ったのは私の方です。 今日は良い交渉になることを期待しておりますよ」

 公爵と呼ばれた中年の男は、乗ってきた超大型高級車から降りるなり、出迎えたミイカと握手を交わすと、伯爵家執事の案内に従って、ミイカと共に大邸宅内へと入っていくのだった。


 シューン・エード公爵。

 この大帝國に7家しか存在しない公爵家の当主である。

 更に、帝國政府を実質的に動かしている12公のメンバーにも名を連ねており、この大帝國における高い政治的実権を持つ人物であった。


 七家しか存在しない公爵家の中でも、最も富裕な4人の公爵家を『四龍公』と尊称している。

 この4人の公爵のうち、四龍公筆頭の『蒼龍公』を除く3人は、貴族として例外的に領地が無いものの、代々帝都の最中心部『大皇宮』の一角に広大な土地を皇帝より与えられていたことが幸いし、皇帝と帝室が存在しなくなった現代において、旧大皇宮内であったその土地とその上に建てられた構造物がもたらす膨大な賃借料収入によって、帝國貴族内でもダントツの大富豪なのである。

 その資産は数兆通貨単位にも及ぶと言われているのだ。


 一方のナイトー伯爵家。

 こちらは現当主から遡って3代前の曾祖母が当主の代に創業した飲食業がやがて大成功を収め、以後3代に渡り資産を飛躍的に伸ばして大富豪の仲間入りをした、どちらかといえば成り上がりの貴族である。

 世界展開にも成功した飲食業を中心に、その他の分野にも一定程度進出した複合企業体『ナイトー・カンパニー』の価値と、同社がもたらす莫大な利益により、伯爵家としては異例の大富豪となっており、その資産は数千億通貨単位以上と言われ、帝國内でも指折りの大富豪貴族となっていた。

 


 ミイカの案内で、邸宅内の応接間へと足を運んだエード公爵。

 別名『雪龍公』とも呼ばれる現当主は、四十代半ばのイケオジ。

 生まれつきの大貴族かつ大富豪の出であるが故に、その所作は非常に優雅で洗練されている。

 この日は、エード公爵家が所有する帝國内外の物件内でナイトーカンパニーが運営するカフェ等の多数の店舗に対し、今後三年間における賃借料を決定する目的で、伯爵家を訪問したのであった。



 「この邸宅は確か、ブランブルク侯爵家の本宅だったものですよね?」

 応接間で豪奢な椅子に腰を掛けるなり公爵がしてきた確認的な質問に頷くミイカ。

 「現在ブランブルク侯爵家は、破産状態というところの様です。 ですから、帝都にあるこの邸宅を維持する費用が非常に重荷となり、切羽詰まっていたので、数年前から『買ってくれないか?』と私を含めた数家の貴族に話が持ち掛けられていました。 その後、他家の出方や長い交渉の結果、最終的に当家がここを新しい本宅にすると決めて購入した次第です」

 「なるほど。 しかし侯爵家ならば、人口30万程度の中規模都市を所領とされている筈で、にわかに資金繰りが行き詰るとは思えません。 地方債を発行すれば、当面は乗り切れると考えますが......」

 「その膨れ上がった地方債の償還に窮した結果と聞いております。 ブランブルク侯爵家は歴代に渡る放蕩によって、近年地方債の引き受けを各金融機関から拒否され、そこで資金不足解消の為に領地の税率を上げたことが裏目に出てしまい、領地の人口減少が進み、収入も暫減状態で、仕方なく帝都に残っている資産を随時処分していると聞き及んでおります」

 ミイカの説明を聞き、渋い表情を見せた公爵。

 為政者に連なる一人として、帝國を支える大貴族の一部が破産状態にあることを常日頃から苦々しく思っていたからだ。


 「我がエード公爵家は、皇帝陛下直属の重臣という出自。 かつては代々数百年間に渡り、帝國内の過半に及んだ帝室直轄領統治の代理人をしていた経緯から、貴族としての固有の所領が無いので、帝室が廃止となった現代において、領地の統治の労苦を実感出来ないのです。 しかし、侯爵家でも行き詰る家が出て来ていることに関しては......帝國政府中枢の末席に連なる身として、没落したことを笑い事や馬鹿にする噂話では済ませない事実ですな」

 エード公爵の溜息混じりの感想に、

 「かつてのように移動の自由が無い時代では、領地に一時的な重税を課し、臨時収入を得ることでその場を取り繕うことも出来ましたが、現代ではそうもいきません。 税率を上げれば、領民は他の地に流出するだけの厳しい時代です。 私から見ますと、領地を持たない代わりに、世界都市に発展した帝都ペンドラの超一等地を広範囲に保有する公爵様が羨ましい限りですわ」

 「いやいや、嫌味を言わないで下さい。 ところで事業展開で大成功を収めているナイトー伯爵様は、所領を国に返納せず、代々受け継いで保有したままですよね?」

 恵まれた家門であることを自覚している公爵は、風向きが悪くなったので少し話の趣旨を変えようと、伯爵に対して、所領の有無の確認を一応したようであった。



 海洋大帝國では、領地があるから貴族なのであって、基本的に破産したり断絶したりで所領を国に返納した貴族は、貴族の籍から外れることになる。

 ただ一部の富裕な貴族は、莫大な返納金と共に所領を帝國に返して、民衆の統治という迂遠な作業から免れるという方法も認められているのが、現代社会における帝國貴族の実態である。

 貴族階級であれば、国庫に対する低い税率や刑罰の一部免除等、その他多くの優遇措置が講じられていることから、自ら好んで貴族の地位を手放す者はそれほど多くないが、その格を維持するのに膨大な費用を要するのも事実である。

 自国だけではなく世界の国々から、民衆に対する不適切な扱いを批判される時代となり、領民に過酷な重税を課すことが出来なくなったことで、収入不足からその格を捨てる貧乏貴族も増えているというのが、現代帝國貴族の厳しい現実なのであった。



 「当伯爵家にも所領はありますが、これと言った産業も資源も無い地方の小都市なのです。 実収入は多くありませんので、事業による収入からの補填でなんとか領地の平穏を維持している次第...... 曾祖母が事業を興して成功していなかったら、今頃領地に引っ込んで細々と生活していたことでしょう」

 「貴族といえども、代々当主の才幹次第で行く末も変わるということですな。 これは耳が痛い」

 公爵はそう答えると思わず苦笑い。

 男爵や子爵という下位貴族は所領が小さく、実収入も非常に限られているので、領地からの収入だけでは生活が苦しいということに対しての苦笑いでもあった。



 経済的に飛躍的な発展をした現代。

 蒼龍・炎龍・雪龍・黒龍の四龍公は、かつて存在した大帝國皇帝と帝室を支える最側近の重臣だったが故に、巨大な大皇宮内の超一等地を所領として分け与えられていたことが功を奏し、皇帝と皇室が消滅したことで皇宮が大幅縮小された現代において、その旧皇宮内の広大な土地が莫大な収益を産む源泉となっている。

 四龍公と一纏めに総称されている四人の公爵家は、それぞれの有する極めて資産価値の高い帝都中枢部における土地を元手に不動産カンパニーを設立しており、巨大なオフィスビルや商業施設等を幾つも建設所有することで、膨大な収入を得ているのだ。

 しかも、経済的にほぼ同規模の四家が競い合うことが相乗効果となって、それぞれが飛躍的に発展し続けており、四龍公が運営する不動産業を生業として設立されたカンパニーは、不動産以外の他の分野にも進出し、例外無く成功を収めていて、帝國内の四大企業グループと呼ばれる程の存在となっていた。




 大富豪の貴族同士の、他愛のない会話から始まったミイカ・ナイトー伯爵家とシューン・エード公爵家がそれぞれ展開する事業に関する今回の交渉の席。

 話が少し盛り上がっていたところで、『トントントン』と応接間のドアをノックする音が室内に響いた。

 それに対して、

 「お入りなさい」

 公爵との談笑時とは明らかに異なる、冷たい感じのトーンでミイカが発した言葉が部屋に響くと、ゆっくりと扉が開く。


 「ご歓談中、失礼致します」

 伯爵家の若い使用人の女性が、会合中の両当主にティーセットを提供する為、超高価な食器を載せたワゴンと共に、応接間に入って来た。

 両者が相対して座る大理石製のテーブル前で、鮮やかかつ華麗な手つきで、ナイトー伯爵家使用人の女性は、ティーを作ってみせる。

 そして、先ずは賓客である公爵の目の前のテーブル上に、アフタヌーンティーセットを置き、カップに淹れたばかりのティーを配膳しようとした瞬間であった。

 超高級絨毯の長い突起物に、履いていた靴が少し引っ掛かり、躓いてしまったのだ......

 使用人の女性が手に持っていた、淹れたばかりで芳しい香りを漂わせている熱々の超高級ティーが、躓いた拍子でカップから溢れ、公爵の着ている服に掛かってしまいそうになった時......

 そのすんでのところで、この使用人の腕が急速かつ不自然に伸び、そのままでは公爵が負ってしまったであろう火傷の被害を自身の腕で庇うことに成功したのだ。

 その代わり、公爵に掛かりそうになった熱い液体は、使用人の着ていた服に掛かったことで、この女性は腕に火傷を負ってしまっていた。


 「アイルシア...... なんという不始末なの?」

 ミイカの甲高い声が、大事な大事な賓客の前で大きな粗相をした使用人を強く叱責したものの......

 公爵は伯爵に対して制止するような仕草を見せ、それを遮ったのだ。

 すると直ぐにアイルシアと呼ばれた女性使用人は、火傷した腕の痛みに耐えながら、頭を深く下げて謝罪するのであった。

 「公爵様、伯爵様。 私の不注意で不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。 直ぐに作り直します......」

 そのアイルシアの言葉を聞き、

 「私には一切掛からなかったから、気にすることは無い。 それよりも、貴女に熱湯が掛かったようだが、大丈夫か?」

 エード公爵は顔色一つ変えずに、アイルシアの動きや顔を見詰めたまま、怒った様子は一切無く答える。

 大貴族らしくない想定外に優しげな公爵の仕草や言葉を聞き、一度はその場でアイルシアを思いっ切り引っ叩くつもりであったミイカも、思わず立ち上がってしまった自身の怒りの感情を抑えながら、

 「公爵様。 私からも当家の使用人の不手際を深くお詫び申し上げます」

と深々一礼しながら答え、大事な会合の場がこれ以上殺伐とした雰囲気にならないよう、公爵の前で使用人に折檻を加えることを自重したのであった。


 アイルシアは、ミイカの血相をチラリと見て少し慌てた様子を見せたものの、直ぐに気を取り直すと、テーブル上に少し溢れてしまったティーを丁寧に拭いてからテーブルを磨き直し、予備の食器に改めてティーを淹れ直して、その後はテキパキした手並みで2人の前に並べ終えたのだった。

 最後に、

 「お待たせして申し訳ありませんでした。 また不手際の件、重ねて再度お詫び申し上げます」

 深々一礼してから述べると、速やかに応接間を出て行く......



 2人の視線がアイルシアの後ろ姿を追い続けると、扉の前で深々と御辞儀をした後、

 『パタン』

と静かな音を立てて扉が閉まる。


 「公爵様。 お茶はお召し物に掛かりませんでしたか?」

 ミイカの再確認に、

 「あの子の咄嗟のリカバリーの動きで、全く掛からなかったよ。 でも、どうしてだろうね。 絶対に掛かったと思ったから、火傷に対して身構えたのに......」

 少し不思議そうな表情を浮かべながら、エード公爵はそんな返事をしたのであった。

 「何でもこなしてしまいそうな華麗な見た目とは異なり、ちょっとそそっかしいところがある使用人なので......」

 ミイカは、心の底からの申し訳なさそうな顔をして答える。


 それに対して、

 「あの子が、噂になっている子かな? 知っていますか、伯爵様。 頬の下部に大きな傷跡があるものの、若くて非常に美しい使用人だと一部の貴族達の間で評判になっているのですよ」

 公爵の返答に、少し驚いたミイカ。

 七公爵家とは、ビジネス以外での付き合いが無く、一族で他に有力な貴族も皆無なことで中央政界との繋がりが弱いナイトー伯爵家のイチ使用人のことが、帝都の貴族の噂になっていることをミイカは知らなかったからだ。

 「伯爵様は女性当主だから、耳に入っていないのは当然でしょう。 噂になっているのは男性貴族の間でだけですから」

 含みのある笑顔と笑い声を交えながら説明した公爵の口調で、ようやく意味を理解したミイカ。

 貴族当主の形式張った正妻とは異なる存在として、色々な意味で自身の意のままに扱える妾や側女を手元に置きたいと、若い美貌の使用人を欲しがる男性貴族が非常に多いからだ。



 「アイルシアは、高校を卒業したら当家をお暇することになっております」

 「噂通りで、やはりそうなんですね。 でも伯爵家の一族の使用人なのに、どうして?」

 「アイルシアは夫の連れ子なのです。 当家とは血縁関係が一切無いので、高校卒業までは当家で生活させるけど、以後は自身の力で生きていきなさいという約束を交わしてから、夫以外身寄りの無い幼かったあの子を当家に招き入れたという次第でして......」

 その答えを聞きながら、

 『伯爵は血縁関係の無い旦那の連れ子に、莫大な資産の一部をすら分け与えたく無いから、養子にしなかったのだな......しかし、あれ程の美貌を兼ね備えたのだから、その判断は間違いだったということになる。 養女としておけば、婚姻関係をテコに高位の貴族と強い繋がりを作ることが出来たであろうに......どちらかと言えば守銭奴的で先見の明は無いご当主ということか......』

と、少し考えを巡らしていたエード公爵。



 「貴家のアイルシアのことは私も、甥のダーテ伯爵から聞いて知ったのです。 でも、噂に違わぬ美貌の使用人ですな」

 公爵が自身の考えていたこととは全く異なる返答をしたことをミイカは知る由もない。

 それどころか、アイルシアが入室してから、退室するまでの間、公爵の視線はアイルシアの美貌に釘付けになり、好色な部分をくすぐられているものと判断していた。

 そして、使用人としての所作もチェックしていたように、今になるとミイカには思えたのだ。

 「もし、お気に召したのならば、エード公爵家にお仕えするよう、あの子に厳しく申し向けますが......」

 ミイカの変な気遣いに、笑い出す公爵。

 「帝國を牛耳る12公に名を連ねる私が、既に大きな噂となってしまっている他家の使用人を、訪問時にその美貌が気に入ったからと、地位や権益、権力を嵩に仕えるよう求めたらしいなんて噂が流れると、いささか不味いですからな。 世の中に美女はあの子だけではありませんし」


 「では、ナイトーカンパニーが公爵家からお借りしている店舗の賃借料を、今回の交渉においても今までの料率で据え置きとする代わりに、アイルシアが公爵家に仕えるよう約束させるということで、どうですか? あの子は当家を辞するとは言え、まだ次の仕える家も決まっていないのですから、アイルシアの実父である我が夫から公爵様のご意向を強く言い聞かせれば、約束させられることは確実ですが......」

 公爵は、粗相があったにも関わらず、アイルシアを相当気に入り、逆に機嫌がすこぶる良くなったように見えることから、ミイカが交渉材料として畳み掛けたのだ。

 「魅力的な条件ですが、今回の交渉結果は、四龍公全てに影響するので、私の感情だけでは決められ無いのですよ。 伯爵様の有り難い申し出ですが、申し訳無い」

 公爵はこの様に答えたことで、四大カンパニーとして、ナイトーカンパニーに対する賃借料の一律値上げの方針と、その料率も概ね既に決まっているのだと裏事情を明かす。

 その上で、

 「先程のアイルシアなる使用人の可憐な姿と華麗な所作に免じて当公爵家だけは、四家ほぼ一律で決定されることになる新たな料率から0.1%減額するってことでどうです? もちろん、あの子を当家に差し出す必要はありません。 先程からの伯爵様の言い方からすれば、そもそもあの子を特定の家に仕えさせるという権限、伯爵様には無いと思われますので、無理な約束は必要ありませんよ」

 公爵は事前にある程度アイルシアのことを下調べして、交渉に現れていた。

 それは、ダーテ伯爵から、

 『出来れば、ナイトー伯爵家の使用人であるアイルシアなる女性の引き受けを約させて来て欲しい』

という願望を聞かされていたからであった。



 アイルシアは、生まれてからずっと母アーシヤの願いから母方の姓を名乗っており、アイルシア・グドールという。

 ミイカは、アイルシアの父と結婚する際、アイルシアはあくまで他人という原則を突き付けたことで、伯爵家が保護者にならなかったことから、法律上、18歳になり成人した彼女の今後の人生に何ら関与することが出来ないというのが真相だったのだ。



 結局、エード公爵は終始機嫌が良く、交渉はすんなりと決着した。

 事前に四龍公が運営するそれぞれのカンパニーから提示されていた賃借料よりも、最終的に幾分低めの数字が公爵から持ち掛けられたので、ミイカはその条件を飲んだのだ。

 しかし、賃料の値上げされたことに変わりはなく、ご機嫌な様子の公爵と異なり、ミイカは心の中で少し渋い表情を見せていた。



 「本日は御足労頂き、感謝に耐えません」

 ミイカは見送りつつ、最後の挨拶を交わすと、公爵は軽く手を上げ、迎えの車両に乗り込む。

 そして窓を開け、笑顔を見せながら、玄関先で見送っているナイトー伯爵以下の人々に手を振ってみせる。


 やがて、車両が大邸宅の門扉へ進むと、窓を閉めた公爵。

 『あの時、確かに私に、熱湯が掛かる筈だった......でも、溢れた液体の軌道が空中で変わった様に感じた......それに、アイルシアという子のリカバリーの動きは、まるで失敗を少し予知していたかのようだ......あの使用人、もしかして魔力を持つ者なのでは?』

 公爵は、アイルシアが粗相をした時の一部始終を再度思い出して考え込み、車内で真剣な表情を見せていた。


 車両の豪奢な後部座席で、腕組みをしながら怖い表情をしている公爵の様子に、交渉に同行していた側近達は困惑しており、声を掛けることを躊躇っていた。

 『伯爵様と会合中はご機嫌だったのに......』

 『何か、わからないところで、気に障る出来事が有ったのかも......』

 同乗している側近達は、固唾を飲みながら、そんなことをそれぞれが考えていた。


 雪龍公は、経済面だけではなく政治的にも高い地位にあることから、他者には柔和な表情を見せることが多いものの、身内にはかなり厳しい態度を取ることで有名な人となりであり、側近達にとって仕え易い人物では決してないのだ。


 「ルトワール」

 「はい、旦那様」

 「ナイトー伯爵家の使用人、アイルシアなる若い女性について、改めて至急調査するように」

 側近達は、考えていたこととはだいぶ異なる公爵の言葉に、きょとんとなって顔を見合わせている。

 その様子に気付いた公爵。

 「お前達、何か勘違いしているようだから一応釘を刺しておくが、あの美貌の使用人を我が物にとか甥の元へとかということでは無いぞ。 少し気になった出来事が有ったので、12公の一人という立場から、調査を命じたのだ」

 「12公......ですか?」

 「念の為の調査だ。 魔力を有する者か否かという。 もちろんこのことは極秘だぞ。 ナイトー伯爵家の者達には絶対に知られてはならないし、ここに居ない当家の者達にも知られてはならん。 もし、この話が漏れた場合、ここに居る全員に対して厳しい処分をするからな」

 公爵の説明と厳しい指示に、ようやく得心がいった側近達。

 国内で数名しか存在しない魔力保有者の可能性を感じたという説明を聞いたことで、険しい表情をしていた理由がわかったからだ。

 それは勿論、エード公爵家の最大のライバルである『蒼龍公』シェラス公爵家のことを念頭に置いての調査指示ということなのだ。

 帝國経済の要石である『四龍公』と政治面での中枢を担う大領主である『四神公』(朱雀公・玄武公・白虎公・蒼龍公と称される、大きな領地を持つ四人の公爵家当主の総称)の双方に名を連ねる『蒼龍公』の当主エウレア・シェラス公爵は、七公爵家筆頭という実力だけでは無く、魔力をも有する特別な人物である。

 その為、雪龍公が魔力を持つ人物を手中に収めることが出来れば、付けられた大きな差を少しでも埋めるチャンスになり得るからであった。



 因みに、この世界における魔力とは、摩訶不思議な力というものではない。

 今から十数万年前。

 この惑星には古代人達が居住しており、超高度な文明を築いていた。

 その古代人達は、軍事用のナノバイオ兵器として、人々に特殊な能力を付与することが出来る代物を開発しており、やがて外宇宙に出て行ったのだ。

 そのナノバイオ兵器がもたらす特殊な能力とは、個々人に治癒力や自然エネルギーを意のままに操れる力等、多種多様に富んだ能力を後天的に付与させる究極の兵器であった。

 ただそのナノバイオ兵器には、寄生する人を自ら選択する権限が有ったので、当時の古代人達の全ての人々が、このナノバイオ兵器を装備出来る訳では無かった。

 やがて、古代人は外宇宙で異星人と遭遇し、大規模な戦いが発生。

 異星人達は、異次元空間を自在に展開する超高度な未知の技術を有しており、この惑星を発祥とする古代人達は戦いに敗れて、ほぼ滅亡したというのが現代人達が知らない、この惑星の過去の歴史であった。

 そして、究極のナノバイオ兵器もその殆どは、寄生した古代人達と共に姿を消していた。


 ところが、戦いを生き延びた少数の古代人が存在しており、その者達に寄生していたナノバイオ兵器が、この惑星で存在し続けていたのだ。

 それが現代人達に寄生し生き続けていることで、その寄生された者達は、それぞれのナノバイオ兵器が持つ特殊な能力を程度の差はあれ、扱うことが出来る様になっていた。

 これを現代人達は、『魔力』と呼んでいるという訳なのだ。




【第4話・アイルシアの秘密】

 「不味ったな〜。 この力のことは他人に絶対見せてはならなかったのに......」 

 2人の貴族の前で、粗相をしてしまってアイルシア。

 思わず、折檻される罰を恐れてしまい、粗相をカバーする為、与えられた能力の一部を使ってしまったのだ。

 「キツく忠告されていたのに......私って馬鹿〜」

 調理場に戻ってから片付けをした後、一人になったところで、独り言をブツブツ呟くアイルシア。

 やがて、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな表情を見せる。

 能力を授けられた時の出来事を思い出したからであった......



 今から約1年前。

 放課後、高校から伯爵家の屋敷に帰る為、正門を出たところで、アイルシアはある女性に呼び止められていた。

 「貴女が、アイルシア・グドールさん?」

 「はい、そうですが......」

 怪訝な表情を見せるアイルシア。

 声を掛けてきた長身の美女に、全く見覚えが無かったからだ。

 「ごめんなさい、突然声を掛けてしまい...... 私は、リュウ・シェラスと申します。 シェラス公爵家の一族の者でして」

 シェラス公爵と聞いて、アイルシアは驚いた表情を見せる。

 海洋大帝國で、最も地位の高い貴族の家名であったからだ。


 「あの〜、私に何か用でしょうか?」

 警戒心全開の表情に変わったアイルシアを見て、リュウは笑い出す。

 「アイルシアさん、そんな表情をしないで。 連れ去ったりしないので大丈夫ですよ。 私は側近も連れずに一人でしょ?」

 確かにそう言われれば、その通りだ。

 公爵家一族の若い女性が、警護の者すら連れずに、外を出歩くなんて、通常考えられないことであるのだから......

 「私はアイルシアさんの亡き御母堂様のエリシア様と、縁が有った者なのです。 アイルシアさんは知らないことでしょうが......」

 「エリシア......私の母の名はアーシヤですが?」

 「家族の前ではアーシヤと名乗っていたのでしょ? 本当の名はエリシア・グドールなの。 アイルシアさんは知らないことかもしれないけど、戸籍を取り寄せて確認して貰えばわかることだから。 それにアイルシアさん、貴女はエリシア様とよく似ている美貌だわ。 だから見間違える筈はないの」

 「アーシヤがエリシア......」

 亡き母の名前を、父以外の他人の口から聞くのは久しぶりのことであった。

 やがてアイルシアは、懐かしい母の名前を聞いたことで今までの辛い人生のことを思い出してしまい、泣き顔へと変化してしまう。

 帝國騎士だった実父の再婚した相手が、ナイトー伯爵家の当主、ミイカ・ナイトーであったことが、それまでの貴族階級の最下層ではあるものの、大事に育てられていた一人娘という立場から、大貴族の使用人へと転落してしまい、特に幼少期は苦難の日々の連続だったからだ。


 「思い出させてしまってゴメンね。 エリシア様亡き後のアイルシアさんは辛い日々を送って来たということを」

 リュウと名乗った女性の言葉に頷くアイルシア。

 「少し話をしたいのだけど、場所を変えない?」

 高校の正門の脇で立ち話をする、美女リュウと美少女アイルシアの様子は、周囲の通り過ぎる者達の注目を浴び過ぎていたからだ。

 「わかりました」

 涙声でアイルシアが答えると、リュウの合図を期に直ぐにシェラス公爵家の者が、超高級スポーツカーを回してやって来た。

 ところが逆にあまりにもカッコイイ車両で目立ってしまい、人集りが大きく出来つつある状況へ。

 「乗って。 ここを早く離れましょう」

 リュウの指示で、アイルシアが乗り込むと即猛スピードで高校の正門前から離れたのであった。



 スポーツカーが十数分も走らないうちに、シェラス公爵家が所有する屋敷の一つに到着し、邸宅内へと案内されたアイルシア。

 リュウという女性が普段使っているという部屋に入ると、寛ぐように言われ、特別感の少ないごく普通な感じの部屋の雰囲気に、ようやく少し緊張が解けたのだ。

 その後リュウは、アイルシアの微かな記憶にしか残っていない、実母エリシアの写真や映像を見せながら、昔話を少ししてみせたのであった。

 それによると、アイルシアの母は10代の頃からシェラス公爵家の分家において、住み込みでの侍女をしており、リュウなる女性が幼い頃に世話係りをしていたことから、強い縁があるのだという説明だったのだ。


 そして、

 「今、アイルシアさんがかなり厳しい境遇にあることは知っています。 そして高校を卒業するまで解除出来ないということも」

 「はい、そのとおりです。 契約書みたいな書面も有るので」

 「本当は今直ぐにでも、エリシア様への恩返しの為に、貴女を当家で雇ってあげたいけど、相手は大富豪のナイトー伯爵家ということで、金銭面での譲渡を持ち掛けることが出来ないわ。 それにアイルシアさんをシェラス公爵家が欲しがっていることが伯爵の耳に入れば、ミイカ・ナイトー伯爵という人物の性格から、吝嗇家としての血が騒いで逆に縛りが厳しくなって、高校卒業後も理由を付けて手放そうとしなくなる可能性が高いのよね......」

 その説明に頷くアイルシア。

 リュウなる女性の言う通り、ミイカはそのような性格の持ち主であり、他人が欲しがれば欲しがる程、手放さなくなる筈だ。


 「そこで、あるモノを今からアイルシアさんに差し上げておこうと思うの」

 リュウはその様に曖昧な説明すると、アイルシアを強く見詰め始める。

 その表情に、ドキッとするアイルシア。

 暫く経つと、

 「アイルシアさんって、本当に可憐で可愛いわね」

 リュウはそう言いつつ、アイルシアの顔を触り始める。

 そして、左頬の下部に残る大きな傷跡に触れる。

 「なんと痛々しい傷跡......マイカ・ナイトー、許せる存在では無いわ......」

 ごく一部の人しか知らない、その傷を付けた人物の名前。

 それを聞いて、驚いた表情をアイルシアが見せた時......

 リュウなる美女はアイルシアの唇を奪うのであった。


 長い長い時間のキス。

 アイルシアのファーストキスは、女性に奪われたのだ。

 しかもディープキス。

 アイルシアはトロンとなって、暫くすると堕ちてしまうのだった。

 

 気づくと、アイルシアは豪奢なソファーで横たわっていた。

 それを眺めているリュウ。

 「目覚めたようね。 突然あんなことをしてゴメン〜」

 そう言うと、アイルシアに笑顔を見せる。

 「あれっ......私......」

 「ちょっと、気を失っただけよ。 まだ幼気な美少女に、私からのディープキスは刺激的過ぎたかな?」

 リュウの言葉に、思い出して赤面するアイルシア。


 「リュウさん。 私へのプレゼントって......」

 「もう、あげたわよ」

 「えっ」

 「絶世の美女のキス」

 「......」

 思わず絶句するアイルシア。

 話の流れから、もっと違うものを想像していただけに、動揺を隠しきれない。

 「もちろん冗談よ。 ところで、もしかしてアイルシアのファーストキスだったのかな?」

 その質問に、より真っ赤な顔になってしまったことで、無言の返事をする形に。

 「図星か〜。 まあ、これだけ可憐な美少女なら、いずれ多くの人とすることになるだろうキスのうちの一つになるだけのことよ」

 そう言われても、少し性的な快楽的感覚を引き摺ったままのアイルシアであった。


 そのような様子を見ながらリュウは、

 「鏡を見てみて」

 その言葉に従うアイルシア。

 部屋内の鏡に、傷跡がある自分の顔を半ば嫌々な気持ちで写し出し、改めて見詰め直してみる。

 すると、その顕著な変化に気付き、

 「あれっ......傷跡が薄くなっている......」

 コンプレックスにもなっていた左頬の下部にある大きな切創の傷跡が、今までに比べて少し目立たなくなっていたのだ。

 「背中や太ももも確認してみたら?」

 リュウは笑顔で次の指示をする。

 その指示に、再び驚いた表情を見せるアイルシア。

 他人が知る筈もない、無数の折檻の傷跡が実は残っているからだ。

 そこで断りを入れてから、制服を脱いで確認してみると......

 幼少期からの伯爵家における長年の折檻のせいで消えることの無かった、鞭や棒で叩かれ続けたことで出来た黒っぽい皮下出血の強い打撲痕が殆ど消えていたのだ。

 「ウソ......どうして、綺麗になっているの......」

 思わず絶句しながら、呟いたアイルシア。


 「私は魔女なのよ。 魔力って聞いたことある?」

 リュウの悪戯っぽい表情を見ながら、頷いたアイルシア。

 「その魔力を、アイルシアさんに少し分け与えたの。 これが私に今出来る、エリシア様に対する恩返しかな?」

 そう答えたリュウの表情は、ものすごくはにかんだ笑顔であった。



 それから色々と注意事項を聞かされることになったアイルシア。

 『治癒の力』と呼ばれるこの力を当面、絶対他人に見せてはイケナイこと。

 顔の大きな傷跡は、急に消えてしまうと不審に思われるので、暫くは少し薄くなる程度で我慢して貰うこと。

 治癒の力の影響で、少し念力みたいな能力が付与されてしまうこと等々を。

 そして、

 「本来はエッチしないと能力の全てを移譲させられないのよ。 今回はディープキス止まりだから、四分の一くらいの能力しか移せていないからね。 それとも、今アイルシアは下着姿だし、全部移してあげようか? 私は構わないよ〜。 アイルシアは美少女だし私の好みだからね〜」

と、再び突然抱き締められながら、本当なのか、嘘なのかよくわからない説明を受けたのであった。




 そんな出来事を思い出していたので、赤面していたのだ。

 しかし、遠くから、ある声が聞こえてきたことで我に返るアイルシア。

 その声は、マイカ・ナイトー。

 ナイトー伯爵家の現当主ミイカの長女の声であった。



 「あら、こんなところで油を売っているの? アイルシア」

 マイカは使用人達からアイルシアの居場所を尋ね回った挙句、わざわざやって来たのだ。

 ということは、既にエード公爵の前で粗相をしたことを聞きつけたということである。

 直ぐに察したアイルシアは、暗い気持ちになると、

 「何か御用でしょうか? マイカお嬢様」

 その抑揚の無い言葉を聞き、笑い出すマイカ。

 「アイルシア。 大事な賓客の前で大粗相をしたのに、罰が無いなんて、あり得ないでしょ〜が〜」

 その嬉しそうな様子に、

 『やっぱり......本当に屑お嬢様だな〜』

と改めて思うも、貴族が侍女や使用人に折檻を行うのは、傷害罪や暴行罪にならないという優遇措置のある世界。

 しかも、マイカはその中でも、性格の悪さはピカイチというお嬢様なのだ。

 「アイルシア。 まさか、罰が無いって思っていたの〜。 馬鹿じゃな〜い?」

 マイカは意地悪な表情で続けると、既に鞭を持って来ていたのだ。

 しかも、高圧電流が流れる体罰専用の鞭を。

 「大帝國を支える七公の一人である、エード公爵様の前で粗相をしたのだ・か・ら〜」

 そこで言葉を切ると、益々意地悪な表情を見せる。

 高圧電流の電気鞭を見せびらかし、その痛みを思うと、自然と体が硬直し、怯んでしまう表情を見せたアイルシアを嬉しそうに確認しながら......


 「50叩きかな〜」

 「......」

 「それとも、100叩き〜」

 そう言うと、まだ身構えていないアイルシアに、いきなり一発目の電気鞭を撃ち込んだのだ。

 「い......」

 思わず、強烈な痛みに、言葉が出そうになるが、グッと堪える。

 もし泣き叫んだりした場合、益々エスカレートするのが、意地の悪いマイカの性格なのだから。


 その後は、黙って打たれ続けるアイルシア。

 マイカは、痛みを堪えるだけで、何のリアクションの反応も見せないアイルシアの様子を見ているうちに、段々と飽きてくる。

 鞭を打つのも徐々に疲れて勢いが無くなる。


 30発程打ち込んだところで、当主のミイカともう一人のお嬢様であるレイカの声が近付いて来たのだ。

 『ヤバイ......もしかして3人揃い踏み?』

 アイルシアは、鞭を打つ力が弱くなったマイカの折檻だけなら耐えられそうであったが、3人が代わる代わる打ち込んできたら、途中で気絶してしまうかもと考え始めざるを得なくなった時だった。


 「マイカお姉様......何しているの?」

 公爵を見送って以後も、機嫌がまあまあの母ミイカに、交渉中のエード公爵の様子を尋ねていたレイカが、わざとらしい少し驚いた表情で姉の行動を確認してきたのだ。

 「レイカ、何って、アイルシアの粗相の件、聞いてないの?」

 「聞いたわよ。 でも、それは不問に付してくれって、公爵様から呉れ呉れも言われて......」

 そこまでレイカは話すと、既に手遅れだと大袈裟な態度で気付いてみせる。

 既にマイカが独断で、アイルシアに折檻を加えていたことが、直ぐにわかったからだ。

 しかも、電気鞭を使ったので、アイルシアが着ていた来客対応時用の使用人の服に、電流が流れた焦げた跡までもが付いていたのだ。


 レイカの言葉を聞いて、一気に不機嫌な様子へと変化した伯爵。

 エード公爵から

 『アイルシアの粗相を罰しないように』

と交わした約束が有ったのに、マイカの暴走で反故にした形となってしまったからだ。

 「マイカ、アイルシア。 今、貴女達の行っていることは、私と公爵様の会談とは一切無関係の出来事。 イイわね」

 非常に厳しいミイカの言葉に、それまで調子に乗りまくっていたマイカが一気にシュンとなってしまう。

 その姉の姿と、電気鞭で打たれ続けて、ボロボロになっているアイルシアの姿を見比べて、ほくそ笑むレイカ。

 当主の意向を聞く前に暴走した無思慮なマイカと、見た目は美しいが、心の底まで使用人根性に染まっているアイルシアという、間抜けな姉2人の姿に、大きな優越感を感じたからだ。

 「そういうこと。 それとも2人にはSM趣味でもあるのかしら?」

 レイカが放った冗談に、険しい表情だった母ミイカも、少し機嫌を直したようで、 

 「それなら、屋敷内で無分別に行うのは止めて頂戴。 お互いの部屋でね」

と言うと、呆れた表情でマイカを一瞥し、アイルシアのことは完全無視という態度を見せてから、レイカと共に屋敷内の奥へと去って行ったのだ。


 既に、当主付きの筆頭執事アシナからマイカ付きの執事モガミや侍女達が厳しく叱責され始める始末となり、マイカは項垂れた様子でその場を立ち去る。

 アイルシアは、打たれ損というだけの結果に、少し胸を撫で下ろしたが、痛みの激しさでその日は眠れないまま、翌朝を迎えることとなっていた。

 リュウに分け与えられた魔力、即ちナノバイオ兵器の治癒力をもってしても、痛みは直ぐに無くなるものでは無く、激しい感電した傷跡が治癒するまでには、一定程度の時間が必要なのであった......

 

 

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