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私の大好きな婚約者は何を考えてるのか分からない!

作者: 桃井夏流

いつもどおり短いです。甘さをどぱっとを目指しました。

追記。ちょっと拗らせ要素を一匙プラスしました。

私、アルル・キーミルンにはめちゃくちゃ大好きな婚約者が居る。

二つ年上の彼とは母親同士が親友と言うよくあるお話から婚約が決まった。


私は彼を一目見て恋に落ちた。

銀色の髪はさらさらで。赤い瞳はまるで宝石みたいに綺麗だ。

私は口から先に産まれたの?と産んだ母に言われる程に彼を褒めて褒めて、大好き大好きと好意を何度も伝えてきた。


でもそれって、間違いだったのかもしれないと最近思い始めたの。

だって彼は私が褒めても困った顔をするだけだし、大好きと言えばありがとう、と無難な返事を返すだけ。


それだけなら、まだ夢見ていられた。でも、私の耳は彼の口から溢れた言葉を拾ってしまった。

それはきっとイグルスが、無意識に呟いた彼の本音だと思う。


「最近旦那見かけないじゃないか」

「旦那じゃないよ、婚約者だよ、親の決めたね」


私の言葉に親友のマールはそれはもう露骨に驚いた。


「イグルス殿至上主義のアルルが珍しい事もあったものだな。雷雨か?」

「いっそ雷に撃たれて忘れてしまいたいわ」


マールが何を?と尋ねてくる。

私は口に出したくなかった。言ったらその言葉の重みが増してしまう気がして。けれどいつまでも胸に秘めても居られないわね。もしかしたら私はイグルスを解放してあげなければいけないかもしれないのだから。


私は意を決して口を開いた。


「イグルスがね、言ったの」

「ほう、なんと?」


「…困ったな、って」


いつも通りだった。何もかもいつも通りだった。私がイグルスの腕にしがみついて、大好きよ、って、そう言った、それに対しての言葉が、困ったな、なんて…。


「私、イグルスを困らせるつもりなんて無かったのよ」

「いや、おそらくアルルが思っている事とイグルス殿が思っている事は違うと思うぞ?」

「もう、分からなくなってしまったの。私の好きって、なんだったのかしら…」


私はテーブルに突っ伏した。淑女らしくなく、お母様が見ていたらと思うと震え上がりそう。ため息を吐きながら顔を戻すと、後ろからどしりと重みを感じた。


「何!?敵襲!?」

「ばぁーか、俺がお前の敵ならお前もう死んでるわ」


そう言って憎まれ口を叩いてくるのは何故か異様に私に絡んでくる騎士科のセオリドだ。


「いや、貴方が私の味方だった事があって?あー!私の苺ー!!」


大好物取っとき派の私が残しておいたショートケーキの苺をいともたやすく食べた。許さん。食べ物の恨みは恐ろしいのよ。


「で?イグルスと別れる気になったのか?」

「ならない!セオリド嫌い!苺返して!」

「返してもいいぜ。今なら苺味だろうしな」

「うん?」


顎を指で掬われ、セオリドの顔が近付いてくると咄嗟に突き出した手から魔力が溢れた。


バチッと音がしたけれど、恐れていた反動の痛みが無く、首を傾げると、私はいつの間にか誰かの腕の中に居た。セオリドかと思って暴れると、そんな私を落ち着かせる様に大きな手が私の頭を撫でた。


「…聞いていたの」

「多少」

「どこから」

「僕はアルルの好きを困った事なんて無いし、いつだって僕だけのものであってほしいよ」

「……嘘よ、だって言ったもの。確かに言ったもの」


イグルスは私を抱き抱えると椅子に座り直した。必然的に私はイグルスのお膝の上だ。


「…子供扱い」

「してない。アルルは閉じ込めておかないと変な男を引き寄せるみたいだから」

「変な男じゃねーよ、セオリド・カーリンだ」

「そう。僕の婚約者に近付かないで。とっても不愉快だから」


私が聞いた事もないような冷たい声に驚いて顔を上げた。

するとそれを待っていたかの様にイグルスの唇がちゅっと重なった。


「消毒」


咄嗟に反応出来なかった。あれ?私、今、キスされた…?

理解すると顔がじわじわと熱くなってきた。


「あの、未遂、だったよ…?」


なんとかそう言うとイグルスは私の瞼にもキスを落とした。え、誰ですか?貴方本当に私の知っている婚約者ですか!?


「それでも消毒。僕が君を好きじゃないなんてありえないだろ。僕はアルルしか興味無いよ」


嬉しい言葉のオンパレードに私はイグルスの胸に顔を埋めて、照れくさいのを誤魔化した。


「じゃあなんで今まで言葉返さなかったんです?アルルの親友として正直手のひらくるっくるな様で腹立ちます」


「一度返したよ。僕もアルルを愛してるよ、って。そしたらアルル3日寝込んじゃって。母上とキーミルン夫人から免疫がつくまで待ってあげてって頼まれてたんだ」


「アルル…」

「…面目ない、記憶が、ありません」


「僕のこの血みたいな目を綺麗だって、宝物だって言ってくれるアルルを僕が手放す訳ないじゃないか」

「血!?そんな事思ってたの!?駄目だよ、私の宝物なんだから、イグルスだって大事にしてくれなきゃ嫌だよ…」

「うん。だからアルルもこのふわふわの可愛い栗毛も、エメラルドみたいな瞳も、大事にしてね」


僕の宝物だから、っていきなり甘さたっぷりになったイグルスに正直ちょっとついていけない。

恥ずかしいし、ドキドキするし、嬉しいのだけど、許容量をオーバーしつつある。


「おい。失恋した男の前でいちゃつくなよ」

「セオリド…ん、え、何イグルス?」

「僕以外の男、気安く名前で呼ばないで。妬ける」

「だから!いちゃつくな!!」

「ご、ごめんね…?」

「…どうせなら、ありがとうって言えよ」

「うん、ありがとう。でも苺の事は許さないから」

「おー、上等。ずっと覚えてろよ。幸せになっても苺泥棒忘れんなよ」

「アルル、苺買ってあげるから、今すぐ忘れて」

「ん?ん〜?ね、ねぇイグルス、私、ちょっとキャパシティオーバーで叫び出しそう」

「嫌?」

「幸せ過ぎてちょっと、無理」

「慣れて」

「まさかのスパルタ!?」

「僕だってずっと我慢してきたんだ。そろそろ婚約者らしく居させてよ」



私の大好きな婚約者は。


どうやら私の事が大好きで仕方なかった様です。

困ったなと言ってしまったのは、君への愛しさが溢れて思わず抱きしめてしまいそうだったからだよ。


読んで下さってありがとうございました。

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