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あの夏の海には帰れない  作者: 葉方萌生
第十一話 春を待ち焦がれる

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浜辺でひとり



 来る週末の日曜日、背中にギターを背負って千葉から東京まで移動し、航空券を買って、羽田空港から福岡空港へと僕は飛び立った。 

 ひと席だけだったので直前でも格安飛行機の席が取れたのはラッキーだった。

 Harukiのファンはそれなりに多かったが、幸い周りの人たちには気づかれていない様子だったのでほっと胸を撫で下ろす。

 福岡へ飛び立つ前に、母には連絡を入れておいた。春木夏海に会えるかもしれないと言うと、母も「いってらっしゃい」と僕の背中を押してくれた。

 僕と両親にとって、春木夏海は命の恩人だ。

 どうか、彼女に会えますように。

 心の中で何度も祈りながら、飛行機の中では終始落ち着かない心地で窓の外から地上の景色を眺めていた。

 福岡空港に到着したのは、午後二時四十分。羽田を出発してから一時間四十分しか経っていない。九州なんて遠い異国の地のような気がしていたのに、すんなりたどり着いてちょっと驚いた。

 福岡空港は福岡市内に位置していて、市街地からのアクセスが良いのだと事前調べで知っていた。

 夏海が福岡市に住んでいることは、SNSに書かれていた。

 福岡市に住む高校生の彼女が、毎月行くほど気軽に訪れることのできる海はどこだろうか。

 僕はまたネットで検索をして、福岡市民が行きそうな海を調べる。


百道浜(ももちはま)、か」


 福岡市早良区という街にある浜辺。それほど大きくはなさそうだが、都会のオアシス的な役割を果たしているのだろう。スタイリッシュな形をした福岡タワーがすぐ近くにある百道浜は、博多駅からバスで三十分ほどで行けるそうだ。

 そうと分かると、僕は早速地下鉄で博多駅まで向かった。

 事前に調べてはいたが、そのアクセスの良さに驚く。博多駅まではものの数分で着いてしまった。

 バスターミナルへと移動し、百道浜の近くまで行く西鉄バスに乗る。びっくりしたのは、バスの数だ。電車移動が当たり前の僕にとって、福岡のバスの多さには驚かされた。

 バスの揺れの心地よさにうとうととしながら運ばれること三十分。僕は目的のバス停で降りると、浜辺へと歩いていく。

 二月という寒い季節に、わざわざ浜辺で遊ぼうという市民はほとんどいないらしい。僕は、人気(ひとけ)のない道を、海風を浴びながら歩いた。

 幸い天気は晴天で、傾きかけた太陽が、冷たい風の感触を打ち消してくれた。いつかディーナスで見た、夏の夕暮れのようだ。

 少し歩くと、視界いっぱいに広がる浜辺が僕の目に映った。


「綺麗だな」


 日本海の海の水は決して綺麗とは言えない色をしているはずなのに、日の光が反射する誰もいない海は、壮大な自然の恵を思わせる。


「いないよなあ」


 周りを見回して、自分以外には誰一人として存在しない浜辺で、ひとりごちる。

 僕はぎりぎり波が当たらないとこで浜辺に胡座をかき、遠くの海を眺めた。

 ギターが水に浸らないように、最大限注意をして。

 この海と、ディーナスの海が繋がっていたらいいのに。

 そうすればまた、彼女に会えるかもしれない。

 白いワンピースの裾をはためかせ、榛色の瞳をキラキラと輝かせるきみに。

 僕はずっと、憧れていたんだ——。

 海を見ると、どうしても感傷的な気分に浸ってしまう。

 僕はもう、二度と彼女には会えない。

 その事実が、急にリアリティを持って僕の胸を襲った。

 これまで、心のどこかで、またいつか別の世界ででも夏海に会えるのではないかという気がしていた。

 でも、冷静に考えてそれはありえない。

 僕は自らの意思で、夏海のいる世界から退場することを決意したのだから——。


「笑っちゃうな」


 乾いた笑みが、湿り気を帯びた海の風に掻き消される。

 夏海のことを想いながら、自分でも分からなくなるほど、長い間そこに座っていた。いや、実際は十分くらいだったのかもしれない。たった一人で過ごす冬の浜辺は、冷たいのに綺麗で、泣きそうだった。


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