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あの夏の海には帰れない  作者: 葉方萌生
第十話 もう二度と届かないとしても

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夢の中

 また夢を見た。

 夢の中で、私は自分のことを、別の呼び方で呼んでいた。実態がなく、ふわふわとして魂だけになった私が、この世界を上から見下ろしているのだ。ディーナスに住む現実からやってきた住人たちを一人一人眺めて、自分の生活ぶりと比べてしまう。みんな、久しぶりの青春時代を謳歌している様子だったけれど、それぞれに人間関係の悩みや将来の目標について悩み、苦しんでいた。みんな同じだ。その中に春樹くんもいた。

 春樹くんは、部屋の中でノートに何かを黙々と書いている様子だった。私は、彼の間近に迫り、その様子をじっと見守っていた。さすがに、書いている内容までは見ることができなかったけれど、どうして春樹くんにはこんなふうに近づけるのか、ちょっと不思議だった。

 けれど、春樹くんが何かを書き終わり、「案内人」と心の中で唱えたとき、私はきゅうっと胸が締め付けられる心地がして、気づいてしまった。

 ああ、そっか。

 そうだったんだ。私って、春樹くんの——。

 気づいた途端、私の意識は急速に引きずられるようにして、眠りから覚めた。目を開けた時、自分の目尻が濡れていることが分かった。


「春樹くん……」


 大切な人の名前を、部屋の中で一人、呟いてみる。愛しい人の名前って、まるで詩みたいだ。あなたの名前と私の名前には両方季節が入っていて、私はあなたに出会った時、大喜びしたのを思い出すよ。今考えると、幼稚で子供っぽかったと思うけど、やっぱり私は春樹くんと繋がっているような気がして、今でも胸がドキドキしている。

 春樹くんを心の底から救いたい。

 大好きな彼のためならば、この命を捨てることだって惜しくないんだから——。



 春樹くんのことを考えながら、私は学校に行く準備を始めた。でも、NPCのお母さんとお父さんがリビングでくつろいでいるところを見て気がつく。そうか、今日は土曜日だった。学校はお休みだ。最近、学校に休むこともあって、曜日感覚が狂っている。こんなんじゃ、また理沙ちゃんに天然だとか笑われちゃいそう。

 目的がなくなった私は、手慰みにスマホを見た。この世界から去るのは、明日にしようと思っている。だからそれまでに、大切な人たちにメッセージを残しておこうと思ったのだ。


「あれ?」


 私はLINEの通知が一件来ていることに気がついた。アプリを開いて、送り主を見て目を瞠る。

 春樹くんだ。

 鼓動が一気に高まった。

 春樹くんからメッセージが来るなんて、いつぶりだろうか。

 ちょうど今日、夢に出てきた彼からの言葉だと思うと、胸の高鳴りが抑えられない。 

 ああ、私、やっぱり彼が好きなんだな。

 メッセージの通知ひとつで、こんなにも満たされていくんだから。


『今日、夕方ごろに海夕で会えない?』


 春樹くんからのメッセージはとてもシンプルだった。海夕は、春樹くんとカラオケに行った街だ。それ以外でも、何度もあの街へは四人で遊びに行った。


『うん、いいよ。二人で?』


『ああ。二人がいい』


 四人じゃなくて、二人。

 それが何を意味するのか、馬鹿な私でもすぐに理解できた。


『了解! 五時ごろ、駅に行くね』


『ありがとう。僕もその時間に向かうよ』


 春樹くんから返事が来たのを確認した私は、もう心臓が胸から飛び出してしまうんじゃないかってぐらい、緊張やら火照りやらで苦しくなっていた。

 春樹くんが私を誘ってくれてくれたという嬉しさと、大好きな彼ともうすぐお別れしなくちゃならなくなる寂しさ。相反する二つの感情が胸の中で大きく膨らんで、互いに溶け合いながら、ぱちんと弾けた。


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