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あの夏の海には帰れない  作者: 葉方萌生
第七話 誰かの希望の光になって

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解除する方法

 昼休み、夏海が何か言いたげな表情で、僕の席の前に立っていた。お互いお昼ご飯をまだ食べていなくて、夏海の手にはお弁当箱が握られていた。


「春樹くん、二人で、話さない?」


 僕は、先ほどの英語の時間に助けてもらったことに、お礼を言いたかった。本当なら僕の方から彼女に話しかけるべきだったのに、僕はなんて……なんて、臆病なんだろう。

 分かった、という返事をする代わりに、彼女の目を見てゆっくりと頷いた。途端、夏海の顔に安堵の表情が広がるのが見えた。

 ふと、理沙と龍介は大丈夫なのだろうかと二人の方を確認すると、二人とも夏海と僕が話しているのを見守っている様子だった。二人と目が合うと、咄嗟に不自然な笑顔を向けられる。あの海での一件以降、どうやって僕と接するべきなのか、それぞれの葛藤があるに違いなかった。

 僕たちはお昼ご飯を手にし、教室の外へと繰り出した。


「どこへ行く?」と僕は目で彼女に語る。


「うーん、どうしようかなあ。あ、そうだ! 図書室の一階、ラウンジはどう!?」


 悩んで決めたようなそぶりをする夏海だったが、事前に場所を決めていたことは彼女の挙動不審な様子から見て明らかだった。

 僕たちは別館の図書室へと向かう。一階のラウンジは一応図書館の外ということになるので、話したり飲食をしたりすることができる。僕たちは空いている席を見つけ、向かい合って座った。丸いテーブルの上に二人してお弁当箱を広げる。彼女のお弁当には、タコさんウインナーが入っていた。


「いただきますっ」


 話があると言っていたが、ひとまずはお昼を食べようと彼女が手を合わせる。僕も弁当にお箸を伸ばす。彼女が、「これどうぞ」と言ってタコさんウインナーをくれた。


「私、お弁当は自分で作ってるの。ウインナー、おいしいよ」


 夏海のしおらしい笑顔が、僕の心をくすぐった。彼女の、このちょっとした優しさが好きだった。僕はありがとうと言うふりをして、彼女からタコさんウインナーをいただく。こんがりジューシーに焼けていて、確かに美味しかった。

 僕たちは黙々とお弁当の中身を平らげたあと、「ごちそうさま」と再び両手を合わせた。腹が減っては戦はできぬ。彼女の目がそう語っているようだった。


「春樹くん、その、話なんだけどね」


 昼休みは五十分しかない。あまりもたもたしていると時間切れになってしまうことを危惧したのか、彼女は早速話を切り出した。


「海に行ったとき、私のせいで、声が出なくなってごめんなさいっ」


 がばっと、勢いよく頭を下げる彼女。僕は夏海からあの日のことを謝られるなんて思いもよらなくて、大きく首を横に振った。


「そうだよね。春樹くんならきっと、私のせいじゃないって言うと思ってた。うん、でも謝る。私があなたの大切な声を奪ったのと、同じだもん」


 彼女の瞳が、ふるりと湿っていくように見える。僕はスマホを出して、彼女に「大丈夫だから」とLINEを送った。彼女と意思疎通をするのには、これが一番手っ取り早いと思った。


「……ありがとう。それでね、私、あの後案内人に、春樹くんの声を元に戻す方法がないか、聞いたの」


 彼女の口から放たれた言葉に、僕ははっとさせられた。

 夏海は今、なんて言った?

 声を、元に戻す方法だって?

 それに、案内人って……そうか、この世界に連れてこられた住人にはみな、案内人がついているのか。そんなことにも思い至らないなんて、僕は考えが甘い。


「一度罰を受けて失ったものを取り戻す方法が一つだけあるって、案内人が教えてくれた。春樹くんは案内人に聞いたりしてない?」


 僕は再び首を横に振る。案内人に、自分の罰を解除する方法を聞こうなんて、考えもしなかった。僕はただひたすら、絶望に打ちひしがれて新学期が始まるまで自室で心を鎮めていただけだ。それなのに彼女は、僕の声を元に戻す方法を、調べてくれていた。胸がぎゅっと締めつけられる心地がする。

 思えば彼女だって、この数週間、相当辛かったはずだ。

 自分のせいで、僕が声を失ったと思っていたのだから。

 それなのに僕は、自分のことで精一杯で、夏海に連絡をすることもしなかった。

 僕は……僕は、彼女に謝りたい。


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