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あの夏の海には帰れない  作者: 葉方萌生
第三話 きみの夢

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16/70

カラオケ


 案内された部屋はなぜか大部屋で、夏海と理沙のテンションが上がっていた。宇宙をモチーフにしているのか、壁には星の模様が描かれている。歌っているとこの星が光る仕組みなんだろう。この世界のカラオケ店も、現実世界とほぼ同じ造りだと分かって安心する。


「じゃあ私から!」


 こういう時、率先して自ら場の雰囲気を和ませようとする理沙は、責任感の強い学級委員のようだ。カラオケに行くことを提案したのも彼女だし、歌うのが好きなんだろう。

 理沙が選曲したのは、二年前ぐらいに現実世界で流行っていた女性ユニットの曲だった。


「飛行機雲が〜彼方に消えて〜♪」


 ノリノリで歌い出す理沙は、そこそこ上手く、夏海も龍介もいつの間にか手に持っていたマラカスやタンバリンを楽しそうに鳴らしていた。


「ありがとうございました!」


 スターのようにマイクでお礼を言いながらお辞儀をする理沙。

 続いて歌ったのは龍介で、彼は予想通りそんなに上手ではなかった。それなのに、拳を握りしめて熱唱する様がおかしくて、夏海と理沙がお腹を抱えてきゃははと笑う。僕も込み上げる笑いを抑えることができず、失礼だと分かっていながら夏海たちと一緒になって笑い声を上げた。


「以上、龍介のライブでした。みんな、来てくれてありがとう!」


 龍介の最後の挨拶は、馬鹿みたいに大きくて、マイクはいらないんじゃない、と理沙がつっこんだ。カラオケで、こんなに腹が捩れるほど笑うことになるとは思ってもみなかった。

 次にマイクを手に取った夏海は、緊張した面持ちで歌い出した。聞いたことがない曲だ。女性シンガーのバラードのようだが。夏海の声が震えていて、音程は全然合っていない。僕の目は点になる。


「えっと……もしかして夏海って音痴?」


 ようやく歌い終えて「ふう」と息を吐いた夏海に、僕はすかさず聞いてしまった。


「うう〜これでも頑張った方なのよ? だってほら、六十五点! 私の自己ベストだよっ」


 モニターに映し出された、決して良いとは言えない点数を見て、嬉しそうに笑う夏海。夏海の音痴な歌を五分間たっぷり聞かされた龍介と理沙はげんなりしている。でもまあ、これもいつものことなんだろう。次の瞬間には、夏海から「はい」とマイクを渡された。


「次、春樹くんの番」


 屈託のない笑顔を浮かべる夏海からバトンを受けた僕は、懐かしい重みのするマイクを、恐る恐る口元へと近づけた。「あ」と漏れ出た吐息にエコーがかかり、記憶の中の観客の歓声が脳裏で弾け飛ぶ。

 選曲のためにカラオケの機械を持ち、震える手で選んだのは、現実世界で最近流行っていたとある男性グループの歌だった。

 前奏が始まる。ポップな出だしに、三人がノリノリで「いえーい!」と高校生らしい声を上げる。僕はそんな聴衆の歓声により、さらに緊張感が高まっていく。

 Aメロが始まった。

 エコーがかった自分の声は予想通り震えていて、こんなんで最後まで歌い切れるのかという底知れない不安に襲われる。しかし夏海たちは、僕の歌声を聴いて、瞳を瞬かせて驚いていた。龍介が「おおっ」と感嘆の声を漏らす。女子二人は、僕みたいなどこにでもいるフツウ男子の口から漏れ出た歌声を珍しいと感じているのか、終始驚きの表情を浮かべていた。


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