最悪を更新
「最悪だ…………」
「最近毎日最悪を更新してるよな」
「今日はその中でも一番最悪な日なんだよ」
四時間目の授業を終え、昼食の時間になってしまった俺は、重たい足を無理矢理動かし、断腸の思いで席から立ち上がった。もたもたしていたら戦争に乗り遅れる。そう思うのに体は中々言うことを聞いてくれない。
「あれ? どっか行くん?」
「え、あーちょっと……」
まだ翔に昨日の出来事を言えないでいた。
αとは一生関わらない宣言した同日に、まさかのパシリになってしまったなんて、恥ずかし過ぎて口が裂けても言えない。
パシリと言うには向こうは控えめな態度だったが、結局やらされていることはパシリと同じだ。それもだいぶ古典的な。
俺はあいつの怪我が治るまでの間、戦争に参加してパンを勝ち取り続けなくてはならない。
「ごめん、これからしばらく一人で飯食って」
「えーなんで?」
「ちょっと用事が出来て……」
「用事……?」
上手い言い訳を考えていなかった俺はしどろもどろになる。誰がどう見ても怪しい。
勿論、付き合いが長い翔には俺が何かを隠しているなんてすぐにバレただろう。ただ、付き合いが長い分、直接的に根掘り葉掘り聞いてこようなんて真似はしない。
「用事って……俺なんか手伝える?」
「手伝いはいらな……ん? 手伝い……?」
「うん、手伝い。何すんのか知らねーけど、手伝える事あるかなって思って」
手伝い。その言葉の響きを聞いた瞬間、俺の中に光が差し込むイメージが見えた。
そう言えば、トキに言われたのは『購買でパンを買ってきて欲しい』ということだけだった。誰が、とも、何人で、とも何も言われていない。つまりは、俺と翔が一緒に買いに行ってもなんら問題ないわけだ。
つい、自分がしたことの罪滅ぼしのつもりで、自分一人で行動しないといけないような気になっていたが、全くもってそんなことはない。
一人で会おうとするから気が重いのだ。翔と一緒ならどうにかなりそうな気がする。
「翔……!」
「な、なに……?」
「お前、やっぱり俺の親友だわ!」
「何だよいきなり気持ち悪──うわぁ」
そうと決まれば、俺は翔の腕を掴んで立ち上がらせた。既に少し時間を使ってしまっている。急がないと間に合わないかもしれない。
「事情は後で話すから! とにかく着いてきて!」
「は? え?」
翔は頭の上に大量のハテナマークを浮かべたまま、俺に強い力で引きずられ、教室のドアに肩をぶつけて、ついでにメガネも顔からずり落ちた。