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4章-8.訪問(1) 2021.9.26

 今日はこの付近の地域で小さな祭りがあるようだ。祭りを目当てに集まった人間達がそこらじゅうにいる。シュンレイは雑貨店のレジカウンター奥の椅子に座り、本を読みながら店番をしていた。

 このような日には、一般人がこの雑貨店にも来て買い物をしていくのだ。カモフラージュのためにも本日は日が暮れるまで店番をすることになりそうだ。


 時折チリンチリンと扉に付いているベルが鳴る。扉が開閉して人間が出入りしていく。基本的に接客はしない。雑貨を購入したい人間がいればレジでやり取りするのみだ。

 大抵の来店者はざっと雑貨を見て何も買わずに出ていく。祭りの雰囲気に浮かれて、怖いもの見たさでこの怪しげな雑貨店に入ってくるだけだろう。滅多に購入する客など居ない。

 外には屋台なども出ており、雑貨店前の道沿いでは買い食いをしている人間が溢れている。普段は殆ど人がいない通りであるため、非常に異様な光景だ。


 チリンチリンと音がして、また一般人が入ってきたようだ。シュンレイは本を読んだまま顔を上げることもしない。しばらくすると、レジカウンターに小さな黒猫の小物が置かれた。購入するということだろう。


「560円でス」


 シュンレイはその小物を小さな紙の小袋に入れ、トレーに置かれた600円を受け取った。お釣りの40円を用意し、購入者へ渡そうと顔を上げた。


「ふふっ。素敵なお店ですね」


 顔を上げて初めて目視した客はそう言って爽やかに笑う。

 白く長い髪が特徴的な12歳程度の少女だった。


 瞳は灰色で色白、全体的に色素が薄い。非常に小柄な上に華奢で、風が吹いたら飛んでいってしまいそうだ。白い長袖のシャツにベージュのカーディガン、灰色の下地に薄いチェック柄の膝丈のプリーツスカート、黒いタイツに黒のローファーを履いていた。爽やかに笑う少女はどこか神秘的で人間離れしているような印象だった。


 シュンレイは深くため息をついた。


「何をやっているんですカ? シラウメさん」

「ふふっ。お祭りのついでにお買い物です」

「……」


 店にやって来た少女、この少女はかつて、ユミの処理依頼をしてきた警察のシラウメ本人だ。直接会うのは初めてだ。電話で話した際に受けた印象より遥かに幼い見た目だった。

 事前情報としては白い髪という事と少女という情報しか無かった。会ってみて分かるが、本当に一般人としか認識ができない。何のオーラもないのだ。白い髪という特徴以外で異質なものは無い。強いて言うのであれば、年齢よりも成熟した彼女の言葉遣いと仕草だろうか。それでも、良い所のお嬢様といえば納得できる範囲だ。


「コーヒーでモ、飲んでいきますカ?」

「はい。是非」


 シュンレイは立ち上がり、シラウメをbarの方へ案内する。雑貨店の方は鍵を閉め、扉にかけられた看板をCLOSEの表示にした。


***

 

「こちらの応接室で待っていてくださイ」


 シラウメを応接室に通し、シュンレイはコーヒーを用意した。まさか突然訪問されるとは思いもしなかった。一体こんな危険な場所へ1人で何をしに来たのだろうか。一般人が安易に近づいていい場所では無い。ましてや力を持たない少女だ。危険すぎる。


 シュンレイはコーヒーを用意し応接室へ入る。シラウメはソファーにピシッと座り微笑んでいる。佇まいは美しくそれだけで絵になる。とても不思議な少女だ。


「今日はどうしましたカ? 何か話があるのでしょウ?」

「はい。ですが、まずはこちらです。手土産です」


 シラウメはそう言って持っていた大きめのカバンをあさり、ローテーブルの上に瓶を1つ置いた。


「ふふっ。パパが持っていけと言うので持ってきました」

「全ク……」


 シュンレイは頭を抱える。そこに置かれたのは自分が大好きな日本酒だった。しかもかなり好きな銘柄である。720ミリリットルサイズの瓶でシラウメが持つには重かっただろうと思う。


「有難く受け取りましょウ」

「ふふっ。せっかく持ってきたので、受け取ってもらえて良かったです」

「それデ。本題はなんですカ?」

「これをお渡ししに来ました」


 シラウメは再びカバンをがさゴソゴソとあさり、ローテーブルの上に大きさの異なる3つの金属製の容器を並べた。


「これはなんですカ?」

「なんだと思います? 是非開けてみてください。処理に困ったというのもありますが、そろそろ必要かなと思いまして」


 シラウメは爽やかに笑いながら答える。

 

「そのまま開けて問題ありませんカ?」

「はい。大丈夫です。容器を開けて問題ありません」


 シュンレイは一番小さい容器の蓋を丁寧に開ける。すると中にあったのは心臓だった。

 赤々とし、まるで生きているかのように見える。これは間違いなく呪詛が施された臓器だろう。大きさの異なる3つの容器という事は、恐らくユミの両親の残された臓器3つに違いない。

 呪詛が施された臓器をこの目で見るのは初めてだ。一年以上経っているにも関わらず朽ちることも劣化することもない。さらに腐敗した臭いもない。にわかには信じ難い物体だった。


「いかがでしょうか?」

「えぇ。確かに確認しましタ」


 シュンレイは3つの臓器を引き取る。まさかの収穫だった。

 フクジュとザンゾーの実験では、この臓器の毒素を解毒薬に置き換えたものを食せば、体内に残る全ての毒に対して解毒ができるという話だった。この臓器を使用すればユミの解毒は一気に完了出来るかもしれない。

 とはいえ、臓器自体が1年経過している事と、ユミが食べる事に抵抗がないかという事、そして同時に取り込んでしまうという呪詛の効果、これらは必ず考慮しなければならないだろう。


「コーヒーいただきますね」

「えぇ。どうゾ。砂糖やミルク必要でしたカ?」

「いえ、ブラックが好きなので大丈夫です」


 12歳程度の少女がブラックが好き等と言うのも面白い。いっそ砂糖でもミルクでもドバドバ入れてくれれば良かったのにと思う。子供らしさの欠片も無い様子に、段々と気持ち悪さを感じてくる。本当に目の前にいる少女は実在するのかさえ疑いそうだ。


 また、話しているとついつい大人を相手にしているような感覚になる。それほどまでに自分はこの少女を侮ることは出来ないと、本能的に警戒しているのだろうと感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて思いましたね。シュンレイさんは大人というか、人生の先輩なんだなって。
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