4章-7.相談(4) 2021.8.29
「ユミさん。まだ、他にも聞きたいことがありそうですネ」
「はい……。あります……」
今まで気になっていた事を、一気に沢山シュンレイから聞いたものの、実はまだ気になっている事がある。
というより、ここまで相手に思考がバレるものなのだろうか……。
ユミは不安になってくる。
顔に出ているにしても程があるだろう。シュンレイの察する力が凄すぎるだけなのではとも思う。
とはいえ、初めにアヤメ並と言われたのだ。アヤメの考えている事は大抵読み取れる。それと同じように見えてしまっているのだと考えると、やはり自分の顔面の問題なのだなと思い直した。
「えっと……。シュンレイさんってもしかしてなんですが、私の両親の事知っているんですか……?」
「……」
何となくそんな気がして聞いてみたが、シュンレイは黙り込んでしまった。じっとユミの事を見ている。うっすらと瞼が開いており金色の瞳が見えている。このようにシュンレイが目を開けて自分のことを見てくる時は何か胸騒ぎがしてしまう。
「なぜ、そう思いましたカ?」
質問を質問で返されてしまった。なぜそんなふうに思ったのか。自分でも明確には分からない。本当に何となくそんな気がしてしまったのだ。その何となくについて真剣に考えてみる。
「上手く言えるか分からないんですが……。おかしいなって感じたんです。何でシュンレイさんは私にここまでしてくれるのか。初めは分からないことだらけだったから、そういうものなのかなって思って違和感も何も無かったんですけれど、そもそもいきなり店所属の見習いプレイヤーになるというのも何かおかしいんじゃないかなって……」
ユミはチラリとシュンレイの顔色を伺うが、相変わらずのポーカーフェイスだ。一切の反応は見られない。
自分の推測について、全くの見当違いなのか、もしくはあっているのか少しでも分かればと思ったが、案の定情報は得られなかった。
「えっと……。店に所属する事には色々と意味合いがあるのを知って、もしかして私を守るとかそういう意味があったんじゃないのかなって。自意識過剰かなとも思ったんですけれど、赤の他人にここまでするかなって。とても大事にして貰えていると感じていて。何か理由があるのかなって。理由があるとしたら、両親と知り合いだったとかそんな事くらいしか思い浮かばなかったので……」
「その通りでス」
「え……?」
「私はユミさんのご両親を知っていまス」
「どんな関係だったんですか?」
「友人……というのが正しいのカ分かりませんが、よく会話をすル仲でしタ。15年程前の話でス」
15年といえば、ちょうどユミが生まれる少し前くらいの頃ではないだろうか。
「もしかして、私の両親はプレイヤーだった……?」
「……」
シュンレイと関わりがあり、よく話したということは、少なくても一般人では無いのは確かだ。
そして、シュンレイはSS+ランクの実力を持つ人間なのだ。裏社会で生きているからと、簡単に知り合えるような人間ではないだろう。可能性があるとすれば、両親もプレイヤーであったかくらいだ。プレイヤーならばまだ、シュンレイとも関わる機会があるかもしれないと思うのだ。
「ユミさん。ユミさんのご両親の話はアナタが20歳になった時にしましょウ」
「……。分かりました」
「ユミさんの予感は概ね当たっていまス。私はユミさんのご両親と関係があり、アナタを特別に扱いましタ。見習いプレイヤーとしたのモ、アナタが一般人ではなくなってでも生きたイと強く願う姿を見テ、その願いを叶えるために行っタ処理でス。この社会でアナタが生きていくのならば、プレイヤーになるのが最も条件が良いと考えたためでス。とはいえ、アナタが生きるつもりがないのであれバ、あの時に殺していましタ。一般人のまま殺してあげル事も当然選択肢にありましたかラ。むしろアナタに実際にbarで対面するまで殺すつもりでしタ。これ以上一般人として罪を重ねさせルべきでは無いと考えてましたかラ」
まさかそんな考えがあったとは……。
ユミをプレイヤーに育てたのは、ユミが生きていくうえで、可能な限りユミが有利に生きられるようにと考えての措置だったという事だ。
確かにこの社会で武力は非常に有効だ。戦えなければ、理不尽に対して抗議することもできないだろうと簡単に想像がつく。本当にシュンレイには出会った時から特別に扱ってもらっていたのだなと理解した。
また、シュンレイの話をきいて思うのは、自分のルーツは一体どこにあるのだろうかという事だ。
今まで考えたこともなかったが、良く考えれば親戚に会ったことが1度もない。きっと存在しないか、いたとしても一般人では無いのだろう。
そう考えると、両親は自分に沢山隠し事をしていたのかもしれない。騙されていたのかもしれない。
でも、それでも一緒に過ごした時間はかけがえのないもので、楽しかった記憶に嘘なんてなかったと思う。また、自分が両親を大好きな気持ちにも嘘は無い。
隠すことが最善だったのかもしれない。何か思惑があったのかもしれない。考え出すと止まらない。分からない事だらけで不安になる。
けれど、それはきっと20歳になった時、シュンレイから全て聞ける。
ならば、自分はそれを楽しみにしようと思う。
「シュンレイさん。ありがとうございます。20歳になるのが楽しみです」
「えぇ。その時にはお酒でも飲みながらゆっくり話しましょウ」
「はい!」
「随分スッキリしたようですネ。他はなさそうですカ?」
「えぇと、最後にもう1個。オムライスの上に乗せてパカって広げるオムレツの作り方というか、コツが知りたくて……」
シュンレイは何も言わずにスっと立ち上がる。そしてbarカウンターの方へ歩いていく。ユミもその後を追いカウンターへ向かった。
「良いでしょウ。マスターするまで寝られないと思いなさイ」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、シュンレイのスパルタ料理教室が始まった。ユミは気合いを入れる。絶対にマスターしてアヤメを喜ばせたい。アヤメの笑顔が見られるのであれば徹夜もいとわない。シュンレイによる厳しい指導は深夜まで続いたのだった。




