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6章-3.交流(5) 2022.4.9

「アヤメさん、こんばんは。荒れておりますね」

 

 フクジュは苦笑いしながら、隣に座ったアヤメに声を掛けた。


「本当に勘弁して欲しいよ。しんどい……」


 スーツ姿のアヤメは、完全に疲れきったOLのようだ。いつもの元気はどこにもない。ユミはそんなアヤメを心配しつつも、アヤメの分のツマミを用意する。シュンレイはビールを用意しているようだ。アヤメには飲んで美味しい物を食べて元気になってもらいたい。


「アヤメさん! セットのおつまみですよ!」

「アヤメさん、ビールでス」


 俯くアヤメの前に、ツマミとビールが並ぶ。


「うぅぅぅぅ。いただきます! 乾杯!!!」


 アヤメはビールが並々と入ったジョッキを持ち、フクジュのホットコーヒーのカップに無理やりグラスを当て鳴らすと、一気にぐびぐびとビールを飲んだ。いい飲みっぷりである。


「ぷはーっ!!!」


 これはCMに出られそうなくらいのリアクションだ。アヤメはポテトサラダをつまみ、肉巻きも黙々と食べる。


「おいちぃ……」


 アヤメはそこでやっとへにゃっと笑った。ユミはその姿を見てほっとする。隣に立つシュンレイを見上げると、相変わらず無表情ではあるのだが、何となくシュンレイもほっとしたような雰囲気だった。


 と、そこへ。

 

「よう! 番長! また来たぜ!」


 豪快な挨拶とともにガタイのいい男が現れた。たしか以前揚げ物パーティの時にも来た人だったとユミは記憶している。今ならはっきりと分かる。この男性はSSランクだ。とても強い。この男性のオーラもフクジュのように実力に見合った強者のオーラだが、威圧されるような嫌な感じはしない。


「お! すげぇのが、沢山集まってるな。アヤメちゃん久しぶり。それと……。お前……、フクジュか!? 生きてたのか!?」


 男はフクジュを見た途端、目を丸くしこちらへ駆け寄ってくると、フクジュの両肩を掴んで激しく揺さぶった。


「ご無沙汰しております」

「晩翠家が全滅したって聞いてどれだけ驚いたと思ってんだ! 晩翠家の鉄壁の要塞を落とすバケモンがいるってぇのも意味分からねぇし、お前まで倒されたなんて信じられなくてよ! どうなってんだ!!」

「バケモンで悪かったわね」

「は?」


 アヤメはムスッとして言う。男はさらに困惑しているようだ。


「おい。フクジュどうなってんだ?」

「そこにいらっしゃる、アヤメさんとユミさんにボコボコにされました」


 困惑する男性とは対照的に、フクジュは落ち着いた様子で微笑みながら回答する。


「というより、嬢ちゃん。前見た時よりかなり強くなったな……。理解が追いつかん。フクジュ、向こうで俺のツレと飲むぞ。いいな!」

「え? ちょっと……」


 男はフクジュの首に腕を回しロックすると、フクジュを無理矢理連れて行ってしまった。相変わらず嵐のような人だ。


「ユミさん。フクジュさんのテーブルへビールを持って行ってあげてくださイ」

「了解です!」


 シュンレイから5人分のビールを受け取り、ユミはフクジュが連れていかれた席へと向かう。


「ビールお持ちしました。店主からです。フクジュさん、せっかくだから飲んでこいとの事です」


 ユミは笑顔で伝言を伝えビールをテーブルに置いた。


「嬢ちゃんありがとな。確かユミちゃんだったか?」

「はい! ユミです」

「武器は何を使ってるんだ?」

「チェーンソーです!」

「かっこいいな!」

「えへへ。ありがとうございます!」

「俺はクマって呼ばれてる。見た目のまんまだろ? よろしくな」

「クマさん、よろしくお願いします!」


 クマと名乗ったガタイのいい大柄な男は、握手を求めるように右手を出す。ユミはその手を握り微笑んだ。やはり手を握った感じでも間違いがない。この男性はアヤメと張り合うくらいの強者だ。


「クマさんが自ら名乗るなんて、ユミちゃんもしかしてめっちゃ強い?」

「ユミちゃんはアヤメちゃんと同じ隠れ強者タイプか?」


 同じテーブルの奥の座席にいる男性達にまじまじと見られる。恐らく自分がオンオフ型のため、周りからは不思議に思われるのだろうなと察する。


「握手させてもらってみろ。腰抜かすぜ?」


 奥に座る男性3人から同時に右手を出されてしまった。これは少し怖い。ユミは1人ずつ丁寧に握手をしていく。全員オーラでも分かっていたが強い。Sランクで間違いなさそうだ。それもSランクの上位だろうなと感じる。


「これは……。予想以上だ」

「ユミちゃん、強いね」

「驚いた……」


 握手をした男性陣は固まってしまった。


「はっはっはっ! barの可愛い嬢ちゃんを守ってあげたいとか言ってたくせにお前らこのザマか! 守られる側にしかなれないんじゃないか? それに、見たか? ユミちゃんの右手の薬指に指輪ついてるぞ? これは彼氏いるだろうな! はっはっはっ!」


 クマは豪快に笑う。そんな大声で言われると恥ずかしくなってしまうのでやめて欲しい。


「え。ユミちゃん彼氏いるの?」

「はい……。います……」

「彼氏強い?」

「強いです」


 食い気味で聞かれる。ちょっと怖い。ユミは助け舟を求めるようにフクジュの方を見る。するとフクジュはいつも通り優しく微笑んでくれた。


「皆さん、ユミさんにちょっかいを出すのはおすすめ致しませんよ。ユミさんの彼氏は六色家の黒の当主です」


 フクジュが笑顔でさらりと暴露していく。その瞬間そのテーブルの空気が凍ったような気がした。特に奥に座る男性3人の顔色が非常に悪い。


「はっはっはっ! ユミちゃん悪かったな! 足止めしちまって。こいつらはただのユミちゃんのファンって事でこれからもよろしくな!」

「はい! 今後もよろしくお願いします!」


 ユミは笑顔で答えると、フクジュとクマがいるテーブルから離れ、カウンターの方へと戻った。

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