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6章-2.卒業(4) 2022.3.17

「さて。皆さん、お昼ご飯にしましょウ」


 シュンレイはそう言って応接室に隠していた豪華な食事を披露する。真っ直ぐに帰ってくるよう言われたのはこのためだったのかとユミは理解する。

 皆でそれらをbarのテーブルに運び、飲み物なども含め準備を整えた。


「ユミちゃん、これは皆からだよ!」


 アヤメはそう言って花束とケーキを持ってきた。花束はオレンジ色をベースとした組み合わせで、とても元気が出るような配色だった。集められた花も可憐な花と言うよりは力強く元気が出るような花だ。可愛さとパワフルさが伝わってくる。


「この花束、ユミちゃんぽくない?」


 アヤメはニヤリと笑って言う。


「この元気な感じがいいなって! 私が選んできたんだよー!」


 ユミは花束を受け取る。アヤメがユミをイメージして選んでくれたのだという。それだけでもとても嬉しい。アヤメにはこの花束のようにユミが見えているのだろうか。そう思うと素直に嬉しいなと思う。この花束のように、今後も自分らしく元気に笑っていたいなとそう思った。


 テーブルに並べられた料理はどれも手作りのようだ。シュンレイが朝から用意してくれたに違いない。むしろ前日から仕込んでいた可能性も高い。パーティというに相応しい、華やかな料理が並ぶ。かなり手が込んでいるのがひと目でわかる。準備はとても大変だったのではと感じる。料理ガチ勢の本気を久々に見せつけられた気分だ。

 プレゼントだって用意するのには時間がかかる。皆、前々からこの日のために準備をしてくれていたという事だ。なんだか嬉しくて泣いてしまいそうになる。


「めーっちゃおいしそー!! 早く食べよー!」


 アヤメは嬉しそうだ。アヤメはカサネを抱き上げそのまま席に着く。ユミもアヤメの隣に座り、アヤメの膝の上に座るカサネの頭を撫でる。みんなにお祝いしてもらえるなんて、夢にも思わなかった。学校の卒業式には出られなかったが、代わりにとても素敵な場を設けて貰えた。感謝してもしきれない。自分は本当に幸せ者だなと感じる。


「乾杯しましょウ。ユミさん。改めて卒業おめでとうございまス。乾杯」


 シュンレイの掛け声で、皆グラスを鳴らした。そして、ご馳走をとりわけ食べ始める。大皿に盛られたご馳走は、やはりどれも美味しい。無限に食べられそうだ。

 アヤメもへにゃっと笑いながら食べている。カサネも器用にフォークを使って食べていた。アヤメと同じようにへにゃっと笑いとても可愛らしい。笑顔がそっくりだ。やはり親子だなと感じクスッと笑ってしまった。


「このローストビーフやばいぃぃ。ユミちゃん食べてみてよー! ほら! あーーん!」


 アヤメが1口分のローストビーフを箸でつまみユミの口元にだす。ユミはそのままパクリと食べた。


「美味しぃでふ……」


 確かにこれは最高に美味しい。溶けそうだ。噛む度に旨みが溢れてくる。市販のものよりずっと美味しいと感じる。


「ユミさん。今後の抱負はありますカ?」


 シュンレイに問いかけられてユミは考えてみる。中学の勉強には一区切りついた。今後どうしていきたいのか、改めて考えるにはいい機会かもしれない。とはいえ今の所、正直あまり考えていなかった。人として成長したいという思いはあるが、具体的に何をすればいいのかまで描けていない。


「むむむ……」


 勉強面で言えば、高校の内容を続けて学んでいくという選択肢もあるだろう。仕事面で言えば、戦闘能力を高めて皆と肩を並べられるようなプレイヤーになりたい。漠然とした目標はある。


「ユミちゃん、将来の夢とかって小さい頃何考えてたの?」

「将来の夢……。確かに小学校の低学年あたりに、学校で書かされた気がします」

「なんて書いたの? 教えて教えて!」


 アヤメがキラキラした目で見てくる。何を書いたのかあまり思い出せない。ユミは記憶をたどる。自分は何になりたいと考えていたのか。


「あ……」


 唐突に思い出した。だが、これは言いたくない。


「何何ー?」


 ユミはアヤメから目を逸らす。


「ちょっと! ユミちゃん、教えてよ!」

「いや、大したものではないので……。子供の頃なので別に今とは関係ないっていうか……」

「いいじゃん! 子供は子供なんだからさ! その頃なりたかったもの教えてよ!」

「うぅぅぅぅ……」


 アヤメの圧が凄い。


「ほら! 早く!」

「えっと……。笑わないでくださいね……。小学校の1年生の頃の授業で書かされた内容ですが……、可愛いお嫁さんになりたいって書きました……」

「……」


 アヤメはきょとんとしている。誰も何も言わない。ユミは恥ずかしくて顔を隠した。


「だから言いたくなかったのに……」

「ユミちゃん可愛い! 子供の頃から可愛かったのかー。そっかそっか。可愛いお嫁さんになれるよー!」

「うううぅぅぅ」


 恥ずかしくて周りの人の顔を見られない。どんな反応をされているのか見るのが怖い。


「アヤメさんは子供の頃の将来の夢は何だったんですか?」

「えー。覚えてないかなー」

「私にだけ言わせて言わないのはずるいです! 教えてください!」

「あははっ! 何だったかなー。お花屋さんになりたいって思ってたかもしれない。今でもお花好きだし」

「お花屋さん、いいですね! ほっこりします」


 確かに、アヤメが選んでくれたという花束は、配色もきれいでまとまりがあり、花の種別もテーマに沿っている。もしアヤメが一般人だったら、花屋で働く綺麗なお姉さんになっていたのかもしれないなと、想像してしまう。


 それはさておき、現在の自分が将来なりたいと思う自分を考えてみる。


「今思う将来の抱負は、漠然としているんですが、やっぱりもっと強くなりたいです。戦闘能力的にも、精神的にも。私には追いかけたいと思う背中が沢山あって……。アヤメさんと肩を並べて戦えるようになりたいです。勉強面も可能な限り続けたい気持ちがあります。えへへ。欲張りすぎかな」

「いいんじゃないですカ? 欲張りデ。欲しい物は全て手に入れましょウ」

「はい!」


 これからも貪欲に生きていこうと思う。自分で自分が好きでいられるように、自身が持てるように。満足できるまで挑戦したいと思った。


 また、気が付けばもう自分には劣等感は無いようだ。同級生に置いて行かれるという漠然とした危機感や虚しさ、そういったものに苦しめられる事は無い。学校生活にも未練は無いようだ。

 恐らく、今の自分の居場所にとても価値を見出し、充実しているからだろう。自分らしく笑顔で楽しく生きていける場所を手に入れたのだ。何も文句はない。この居場所をずっと大切にしたいと心から思った。

 そして、今この瞬間、大好きな人達に囲まれて楽しく過ごせる幸せを噛み締め、ユミは一生忘れないようにと記憶に刻んだ。楽しいひと時には終わりはあるが、何時でも思い出して幸せになれるように、1秒1秒を大切に過ごした。

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