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6章-2.卒業(3) 2022.3.17

 barの扉を開けようとすると、室内に複数の人間の気配がある事に気がついた。そのためユミはそーっと扉を開けた。


「ユミさん、おかえりなさイ」

「ただいま戻りました」


 部屋の中にはシュンレイとカサネとフクジュとザンゾーが居た。何かの集まりだろうか。


「ユミさんにお渡しする物がありまス」


 ユミはシュンレイの方へと歩いていった。すると、シュンレイから1枚の厚紙を渡される。


「中学卒業おめでとうございまス」

「へ?」


 渡された厚紙を見た。するとそれは卒業証書だった。『戸塚結実』と、しっかりとユミの名前も入っている。


「正式なものでス。学校から取り寄せましタ。そしてこちらもどうゾ」


 追加でA4サイズの紙も渡された。そこには今まで受けたテストの結果の集計が載っていた。


「成績は優秀でス。頑張りましたネ。おめでとうございまス」


 ハッとして顔を上げると、シュンレイは満足そうな顔をしていた。


「ありがとうございます!!」


 ユミは笑顔で答えた。まさか卒業証書が貰えるなんて思わなかった。確かに今日は3月半ばだ。そのまま中学に通っていたら卒業式の日である。ちゃんと同級生と同じタイミングで卒業できたのだと思うととても嬉しい。頑張ったことが実を結ぶというのはこれ程の達成感を得られるものなのかと感じる。


「ユミちゃんおめでとー!! よくがんばったねー!」


 アヤメが笑顔で祝福してくれている。


「ありがとうございます! 皆さんのおかげです!」


 自分が勉強を続けることが出来たのは皆のおかげだと本当にそう思う。英語と理科はフクジュに教えてもらい、数学はザンゾーに教えてもらった。その他の教科はシュンレイに教えてもらった。皆、ユミが聞きに行くと嫌な顔ひとつせずに教えてくれたのだ。本当に感謝しかない。


「そういやぁ、アヤメは何か教えたのかぁ?」

「え?」

「俺ぁ数学をみたが?」

「私は英語と理科ですね」

「私はそれ以外を見ましタ」

「え? え? え?」


 アヤメがオロオロしている。


「ユミちゃん……」


 アヤメが助けを求めるようにこちらを見る。とても可愛い。


「アヤメさんには……。そうですね……。前向きな気持ちを教えて貰いました!!」

「うん! そう! それ!」


 アヤメはドヤ顔で答える。皆そんなアヤメを見て笑いを堪えているようだ。とはいえ、冗談抜きで自分が頑張れたのはアヤメのおかげというのは間違いがない。心の支えだ。支えがあったからこそ頑張れたと本当に思う。


「こちら、私からの卒業祝いでス」


 シュンレイから紙の手提げ袋を渡される。中をのぞき込むと、いくつかの小分けの袋にラッピングされていた。早速開けてみると、ブックカバーと、お洒落な栞、そして紅茶セットだった。


「今後も読書は続けてくださイ。あとその紅茶は以前美味しいと言っていタものが取り寄せ出来ましたのデ、是非」

「すごく嬉しいです! ありがとうございます!」


 とても素敵なものを貰ってしまった。紅茶を飲むのが楽しみである。また、今後も読書の習慣は続けていこうと思う。


「ユミちゃん! 私からはこれ!」


 アヤメからは、少し大きめの柔らかい生地の袋を渡される。受け取った感じは洋服のようだ。中を丁寧に開けてみると、現れたのはふかふかのガウンだった。白地に薄ピンク色の幅のあるボーダー柄のガウンでとても暖かそうだ。


「ユミちゃんは、こういう色とか素材が好きだって情報仕入れたからね!」


 アヤメは得意げだ。一体どうやってその情報を仕入れたのやら。


「めっちゃ可愛いです! ありがとうございます! 夜冷える時とかすごく良さそうです」


 早速今日から着ようと思う。ポカポカとした陽気の日もあるが、まだまだ冷え込む日もある。夜は特に寒いので重宝しそうだなと思う。


「ユミさん。こちらは私からです。卒業おめでとうございます」


 フクジュからは、小さな紙の袋を渡される。中には小さな縦長の箱が入っていた。箱をゆっくりと開けると、そこにあったのは明らかに高級なボールペンだった。


「今後スケジュール調整や、メモなど何かを書く機会が沢山あると思います。是非使ってください」

「はい! ありがとうございます!」


 ユミの今後を考え、必要なものを選んでくれたのだろう。その時がきたら、大切に使おうと思う。

 そして、残るはザンゾーだ。ユミはザンゾーの方を見る。


「そんなに期待した目で見られると怖いな。ほらよ。卒業祝いだ。おめでとさん」


 ザンゾーはそう言って黒の紙の小さな手提げ袋を手渡した。

 

 中には立方体の形の小さな箱が入っている。何だろうか。期待が膨らんでいく。

 ユミはその箱を手に取り、丁寧に箱の蓋をパカッと開ける。すると中には腕時計が入っていた。ベージュのレザーのベルトにシルバーの長方形の文字盤、インデックスはシルバーのローマ数字だった。シンプルで大人っぽいデザインだ。


「わぁ! 大人可愛い! 素敵じゃん! ユミちゃん付けてみなよ!」


 アヤメに促されるまま、ザンゾーに貰った腕時計を左腕につけてみる。


「めっちゃ良いじゃん! お洒落! 一生使えるデザインだね!」


 確かに、アヤメの言う通りこのデザインであれば子供っぽすぎて付けられなくなるという事は無さそうだ。どんな服装にでも合わせやすく、いつでも身につけることが出来るだろう。


「それにしても、身につけるものばかりユミちゃんにあげるとは……。ザンゾーの独占欲の強さはヤバいね……」

「あぁ? うるせぇな。当然だろぉ」

「うっわ。開き直った。ヤバ」


 言われてみればそうだ。アヤメが言うように身につけられるものを沢山貰っている気がする。そして全て身につけている自分がいる。途端に恥ずかしくなってきた。


「おい。アヤメが言うからユミが自覚して赤くなっちまったぞ」

「え? 嘘。ユミちゃん可愛い!」

「ううぅぅぅ」


 この正直すぎる顔面はどうにかしたい。ポーカーフェイスとまではいかなくても、もう少し感情を抑えられればと思うが全く上手くいかない。ユミは最終手段として両手で顔面を隠す。落ち着くまではこうしておこうと思う。


「ユミちゃん、ごめんって。可愛いから、つい」


 アヤメはユミの頭を優しく撫でて抱きしめる。アヤメに抱きしめられた事で少し気持ちが落ち着いた。本当に勘弁して欲しいなと思う。

 からかわれるのは嫌ではないのだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。ユミは暫く両手で顔面を覆い頬を冷やして気持ちを落ち着けた。

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