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6章-2.卒業(2) 2022.3.17

 今回の仕事は、このエリア一帯の戸建住宅群の一区画全てである。数で言えば90軒もある。一般人にカモフラージュして、物資などを隠しているらしい。倉庫としての役割が大きいようだ。余程大事なものを隠しているのだろう。ここにいる人間は皆レベルが高い。

 周囲の様子を探るに、既に多少警戒されているようだ。 一般人に成りすました作業員と見張り用の住み込みのプレイヤーがいるという情報だ。作業員もそれなりに戦えるため、警戒が必要である。

 アヤメは既に範囲全体にワイヤーを張り終わっている。従って、このエリアからは誰一人として逃げる事は出来ない。あとは狩るだけの状態だ。


「全員まとめてかかってきてくれるとありがたいんだけど……。そうもいかなそうかな」


 アヤメは細かい指の動きでワイヤーを動かし、目視できない場所の情報を得ているようだ。


「建物にこもられてるなぁ……。プレイヤーの何人かは様子見で外に出てきたみたい。手筈通り戸建て住宅への侵入経路だけ作るから、ユミちゃんお願いね」

「はい! さっさと片付けてきます!」


 一般的な住宅街の中にあるエリアだ。晩翠家の時のように派手に建物を破壊することは出来ない。アヤメのワイヤーで玄関ドアや1階のサッシ部分を予め破壊しておいてもらい、ユミが片っ端から侵入しておびき出すか内部で処理する手筈だ。

 対象が屋外に出てしまえばアヤメのワイヤーで簡単に処理ができる。逆に籠られたままだと対象範囲の広さと障害物の多さで、ワイヤーだけだと上手くいかない。その部分を解消するためにユミが動くという事だ。


 ユミは軽快にチェーンソーを唸らせる。この音で十分に敵の注意を引けただろう。アヤメもタンッと足音を響かせ舞うようにワイヤーを操る。すると周囲の住宅の窓や玄関扉が一斉に破壊された。ガラスが砕け散り散乱する派手な音が響く。同時に潜んでいた気配達も一気に動きだす。敵陣は警戒状態から、完全に戦闘状態に移行したようだ。

 ユミは人間の気配がある近くの住戸に侵入していく。その建物には3人固まっているようだ。障害物が多くやりにくい。通りから覗くことができる部屋は、一般的な家庭の内装たったが、奥の部屋に行くと多くのダンボールが積まれている。本当に倉庫として使われているのだと認識する。


 ユミは物陰から順に向かってきた作業員を難なく切り伏せる。動きから見てAかBランクレベルだ。3人の処理が終わると次の建物を目指す。全ての建物に人員が配置されている訳では無いため、気配がある住戸へと入っていく。

 ユミが玄関から入ろうとすると、その瞬間1人の人間が勢いよく割れた1階の窓から飛び出した。ユミに攻撃してくる訳ではなく屋内から逃げようとしているようだ。ユミという驚異から余程逃げたかったのだろう。


「馬鹿だなぁ……。そこはアヤメさんのテリトリーなのに……」


 ユミがそう呟いた直後、外へ逃げた人間は数歩進んだところで首を落とされた。目に見えないワイヤーの位置を捉えることができない人間には、避けるなど不可能だろう。改めてアヤメのワイヤー技術の凄まじさを痛感する。殲滅において、これほど圧倒的な技はないだろう。


 ユミは淡々と処理を進める。屋内に隠れている人間をくまなく探す。アヤメの方にはSランクとAランクのプレイヤーが複数人向かっているようだ。ただ、彼らも直ぐにアヤメには勝てないと悟り逃亡を図ろうとしている。逃げるプレイヤーをアヤメが1人ずつ丁寧に処理しているようだ。

 しばらく同様の作業を行い、屋内に隠れる作業員は全て殲滅できた。残りは屋外にいるプレイヤーのみ。アヤメのワイヤーは逃亡防止用の大きな囲いと、屋内に逃げ込まれるのを阻止するための策に大部分が割かれている。そのため、高ランクプレイヤーを同時に相手するのは流石に大変そうだ。


「あ! ユミちゃんおかえりー! 終わったみたいだね!」

「はい! あとは……。10人ですね」

「うん。こいつらちょろちょろ逃げるの! もうやだぁ」


 アヤメは少し苦戦しているようだ。10人それぞれがワイヤーから逃げることに徹しているようだ。


「囲いの範囲を縮小したいから、遠い奴から優先で処理お願いしていい?」

「了解です!」


 ユミはアヤメの指示通り遠くにいるプレイヤーの方へ向かった。


 対象はワイヤーの外周囲いの際付近に居た。

 どうにかワイヤーの隙間をくぐって囲いの外へ抜け出そうとしているようだ。随時向かってくるワイヤーを躱したり切断するなどしながら、囲いの隙間を探しているといった様子だ。囲いの隙間など実際にはないのだから、気の毒な気がしてしまう。囲いを消すためにはアヤメを叩く意外にない。いくら探しても無駄だ。


 ユミは一気に切り込んだ。ワイヤーに気を取られていたのだろう。対象はユミへの対処など殆ど満足に出来ずに呆気なく倒れた。


 ユミは直ぐに次の目標へと向かう。

 と、その時だった。残りのプレイヤーが一気にアヤメの方へと動き出したようだ。囲いを調べていたプレイヤーを処理した事で何か情報が敵の内部で共有された可能性が高い。アヤメを叩かなければ逃げられないと気がついたのかもしれない。ユミもアヤメの方へと急いで向かう。

 ユミがたどり着く頃には、9人のプレイヤーが一斉にアヤメに切り込んでいた。ユミもその中に飛び込み参戦する。アヤメはユミが合流したのを確認し、囲いの範囲を一気に狭めた。


「ユミちゃんいくよー!」

「はい!」


 アヤメの足音が鮮明に鳴り響く。それに合わせてユミも鼻歌を奏でた。

 Sクラス9人、同時対応だ。ミスは許されない。精神が研ぎ澄まされるような、そんな鼻歌を奏でる。そして、一気に切り込んだ。流れるような動きで次々に対象を処理する。アヤメのワイヤーも良く見える。敵がどう動くつもりなのか、先が見えるようだ。

 そして、5分も経たないうちに、ユミとアヤメは9人のプレイヤーを処理してしまった。確実に連携の精度が上がっている。アヤメの意思が流れ込んでくるようだった。


「ユミちゃんお疲れ! あとは引き継ぎして帰ろっか!」

「はい! お疲れ様です!」


 このエリアから少し離れた所に、今日の引き継ぎのお面の人がいた。今日は2人いるようだ。


「お疲れ様です」


 赤と紫の狐のお面を付けた女性2人がそう言って頭を下げる。

 

「今日もよろしくね!」

「よろしくお願いします!」


 アヤメとユミはお面の女性達に引き継ぎを行った。彼女達はユミ達へ元気に両手を振ると、サッとエリア内へと消えて行ってしまった。


「さてと。帰ろう!」

「はい。なんか今日はどこにも寄らずに帰ってくるようにってシュンレイさんが……」

「うん。真っ直ぐbarに戻ろっか!」


 いつもであれば、午前中の仕事のあとはアヤメとランチを食べて帰る所だ。だが、今日はどこにも寄らずに帰って来いとの事だった。何か急ぎの伝達でもあるのだろうか。詳細は分からないが戻れば分かるだろう。ユミ達は真っ直ぐbarへと戻っていった。

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