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5章-9.共有 2022.1.16

『はい。シラウメです。こんにちはシュンレイさん。折り返しお電話ありがとうございます。まずは感謝の言葉を言わせてください。事前にそちらの報告書を送付頂きありがとうございます。大変貴重な情報でした』


 電話口の女性、シラウメはいつも通り爽やかに受け答える。シュンレイは自室のデスクでパソコンの画面を見ながら電話をかけていた。

 

『私からの要件としましては、先日の呪詛師制圧の件で、情報共有が出来ればと思い、連絡しました』

「えぇ。よろしくお願いしまス」

『では早速。警察側の状況としましては、特に問題もなく全ての関連施設の制圧に成功しました。全23ヶ所全て破壊済みです。拠点にプレイヤーが集中していたようなので、こちらには出来損ないの呪詛師と低ランクプレイヤーがいる程度でした。呪いを受けてしまった人間もおり、死者は計3名出ました。体が朽ちていくような呪いのようです。呪詛の経路ですが、傷を付けられ、その傷口に呪詛師の血液を打ち込まれたと聞いています。警察としては未知の薬品を被ったという事で処理しました』


 優秀だなと思う。全23ヶ所を同時制圧し、死者が3人だけなど脅威だ。シラウメが警察のトップになる日はすぐそこだろうと、シュンレイは思う。


『次に、シュンレイさん達が制圧した拠点の事後調査報告です。処理漏れは無し。完璧でした。心臓がない個体が複数いたのは……。ふふっ。彼女が食べてしまったんでしょうか? 適当に誤魔化しておきました』

「えぇ。彼女は食いしん坊なのデ。処理ありがとうございまス」

『いえいえ。大したことではありません。という訳で、呪詛師は完全に制圧出来たと思われます。それで、気になるのはバックに付いていた組織ですよね?』

「えぇ」


 問題はシラウメが言うように、呪詛師の組織のバックにいた大規模組織の方だ。この大規模組織がスポンサーとなり、呪詛師の組織が短期間で規模を拡大した事が分かっている。元々呪詛師達はここまで大きな集団ではなかった。ほんの数年で爆発的に規模を広げたのだ。


『スポンサーとなっていた大規模組織にラックがいます。大規模組織内でのラックの立ち位置は分かりませんが相当力を持っていると推測しています。今回の化け物化計画の主導者はラックで間違いがなく、呪詛師達を取り込んで技術を利用し、莫大な資金で計画を進めたといった所でしょう。呪詛師達の関連施設を調査する限り、呪詛師達もラックに利用された被害者のようにも見えました。多くの呪詛師達の子供が実験されています。より優秀な呪詛師を生み出すための実験は非人道的と言えました。彼らに同情するつもりはありませんが、ラックの行動には憤りを感じます』


 シラウメが自身の感情を示すような言葉を使うのは非常に珍しいと感じる。それほどまでに惨い実験がされていたということなのかもしれない。


『大規模組織所属の研究員などは、呪詛師の施設からは随分前に撤退済みでした。恐らく欲しいデータは揃ったのでしょう。そう考えると、化け物化計画は今後も続けられるのではと考えています。化け物を量産するための呪詛師の組織が持つ施設は全て破壊したため、量産のスピードは落ちるとは思います。ただ、大規模組織の研究員が撤退していたという事実を考えると、もしかすると呪詛以外の方法で化け物化が可能になったのではと。その可能性も視野に入れてます』


 呪詛の仕組みを解き明かし、原理を利用して、呪詛師無しで化け物化を可能にする方法を見つけたか……。

 それが事実だとすると、ラックはまだ何も失っていないし諦めてもいないという事だ。呪詛師を叩かれたことは大した痛手になっていないのだろうと思われる。トカゲの尻尾切りをしただけの状態だろう。


『警察では引き続きラックの動きに注意していきますが、結局のところ一般人への被害がなければ大きくは動けません。大変もどかしいところではありますが、警察としての立ち位置や、現状の均衡を崩す事は出来ないので暫くは静観します』


 警察は一般人のために存在しているという立ち位置だ。そこから逸脱するような行動は出来ないのだろう。たとえ悲惨な事件が起きようとも、そこに一般人への被害がない場合は手出しが出来ないということだ。


『今後のラックの動きについて。シュンレイさんから頂いた報告内容とこちらでの調査情報より、私の推測を言います。私に出来る事はこれくらいですので……。参考にしてください』

「分かりましタ」


 シラウメからすれば、今後も問題を起こしそうなラックは早々に潰しておきたいのだろう。しかし、手出しができない状態だ。ラックは上手く隠れたなと思う。


『今後ラックが狙うのは六色家ロクシキケでしょう。そこの子供たちを使うと考えています。既に六色家の当主側の陣営はその狙いに気がついて動いたようですが、あまり状況は良くなさそうです。六色家の一部とラックがどのような関係かまでは分かりません。完全にラックに主導権を握られているのか、対等な立場で話をつけたのか。どちらにせよ、六色家は勢力を分断されたことで裏社会は荒れるでしょう。また、頂いた報告書から思ったのですが、もしかするとラックの目的は、単純に化け物を量産して武力を得るということでは無い可能性があります。武力を売って資金を集めるというのは副産物に過ぎないのではと……』


 シラウメはそこで言葉をとめ、思考しているようだった。シュンレイは静かにシラウメの次の言葉を待つ。


『なんと言いますか、何となく程度の推測ではあるのですが、ラックは自分と同じ仲間を集めたいのでは……と。ラックは化け物になること無く恩恵だけを受け取ったとの事でしたよね? ユミさんを非常に手に入れたがっていたという事や、ザンゾーさんに呪詛が掛けられた臓器を食べさせようとした事を考えると、自分と同様の状態の人間を手に入れたいのではと。仲間集めでもしたいのかと。もしそれが正だった場合、そうした力を得た人間の組織を形成して1つの勢力になる事を企んでいるのではないでしょうか。そんなふうに私には見えました。私は生まれていないので詳しくは分からないのですが、かつては1つの大きな組織が裏社会全てを牛耳っていたとか……。今のように5つの組織が拮抗してバランスを取るのではなく、一強だったと聞いています。それと同じような状態を狙っているのではと考えました』


 確かにその推測はかなり良いところまでいっているとシュンレイも思う。現状の情報から最も考えられる憶測であると。その推測が正しければ、今後もユミは狙われるだろうし、裏社会は大荒れする。当然店も全く被害なしとは行かないだろう。事前に打てる手は打っておくべきだろう。


『1つ、気になる事があります。聞いてもいいですか?』

「えぇ。答えられる範囲なら答えましょウ」

『ありがとうございます。えっと……。シュンレイさんはラックと深い関わりがありますか?』

「……」


 相変わらずとんでもない質問をしてくる。シュンレイはコーヒーを一口飲む。動揺する訳にはいかないだろう。


「なぜ、そう思いましたカ?」

『そうですね。理由を説明します。私は、明らかにラックの行動がおかしいと思っています。ユミさんがシュンレイさんの店の所属プレイヤーだという事実を知った上で、なお喧嘩を売っているのが非常に奇妙です。シュンレイさんの店を驚異と認識し潰したいと考えているか、単純に無知でやっているのか、それともシュンレイさんに深い恨みがあるのか……。色々と考えましたが、個人的な恨みの線が強そうだと思えました。流石に大規模組織と言えども、シュンレイさんの店から攻撃対象とされるのは避けたいはずです。店を脅威だと思うのであればつつかないのが1番です。シュンレイさんの店のスタンスであれば、触れなければ無害ですからね。それに無知でやっているとは考えられません。従って、個人的な恨みの線が濃厚だと思いました』

「成程。分かりましタ。シラウメさんの推測通り、私はラックと約20年前頃に関わりがありまス。その頃の事をアナタに教えることは出来ませんが、ただひとつ言えるのは、恨みを買うような事をした記憶はありませン」


 シラウメはシュンレイの回答を聞いて、また考えているようだった。


『20年前……? まさかそんなはず……』


 シラウメはポツリとそんな言葉を漏らす。何か気がついてしまっただろうか。変なことに気が付かなければ良いと思う。


『失礼……しました……。回答ありがとうございます。少し調べようと思います。私からは以上です。シュンレイさんからは何かありますか?』

「そうですネ。1点だけ。もし、昔の事が知りたければアナタの父親に聞きなさイ。1番詳しいでしょウ」

『分かりました。ありがとうございます。それでは失礼します』


 通話を切る。シュンレイは椅子に深く座り直し、パイプタバコを吸った。

 少し甘すぎただろうか……。

 そんな事を考えつつ、今後に備え事務作業を再開した。

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