5章-7.突入(5) 2022.1.13
エレベーターホールに近い北側の階段を降りて37階にたどり着く。階段室の扉を開けると、目の前にはエレベーターの到着を待つ人間が沢山いた。
ユミは無言でチェーンソーを唸らせると、一気に人間の群れを蹴散らした。逃げる人間も流れるような動きで取りこぼしなく処理する。あとこのフロアに残るのは執務室内に隠れている人間だけだ。
「さっきと同じ感じでいいのかな?」
「はい。そうしましょう」
ユミとワサビはそれぞれの部屋に入って行った。ユミは先程と同じ要領で殲滅を行う。なんの問題もない。順調そのものだ。自分の部屋が完全に片付け終わり、ワサビの部屋の気配を確認する。助っ人に行くまでも無さそうだ。あと数人で終わりだろう。
ユミは遠心力でチェーンソーに付いた肉塊と血液を振り払う。そして、近くの死体から心臓を1つ抉りだしかぶりついた。ユミはこの後はラウンジ下の階層のチェックだ。フクジュが通り過ぎた後なので殆ど生き残りは居ないと思われるが、最終チェックを任されている。モミジとワサビは、このフロアからそれぞれ階段を登りながら最上階までを最終チェックする事となっている。
ユミは心臓を食べ終わり、執務室の扉を開けた。そこにはモミジが待っていた。
「ユミちゃんお疲れ様!」
「うん。お疲れ!」
ニコニコと笑うモミジに癒される。あとはワサビが出てくるのを待つのみだ。
しばらく待っていると、ポーンとエレベーターがこのフロアに止まる音がした。
「え? 何で?」
誰か来たのか……?
無作為操作によって勝手にエレベーターが到着した可能性もあるが。
全く状況が分からないため、ユミとモミジは念の為身を隠し様子を伺う。
ユミは、モミジを抱え込み隠すようにしながらもエレベーターの方へと意識を向ける。
ゆっくりと扉が開く音がした。
そして次の瞬間。
ぶわっととてつもない殺気がフロアを支配した。
ユミはモミジを抱きしめる。
これは間違いなく敵だ。それも異常事態だ。
やって来たのは明らかに高ランクプレイヤーだ。その気配に心臓がバクバクと鳴る。
「モミジちゃん、グループチャットに報告をお願い」
モミジは頷いた。
ユミはモミジを物陰に残し、廊下へと躍り出た。するとそこには、化け物化したプレイヤーが5人いた。
それも、Sランク2人、Aランク3人だ。Sランクプレイヤーは、刀身の長い刃物を両手に持った男と、薙刀を持った男だった。Aランクプレイヤーの方は、ナイフを持った男と、銃を持った女、そして、鎖が付いた鉄球を持った男だった。
なぜこんな所に高ランクプレイヤーが配置されたのか、全く意味がわからない。ユミを目視した化け物たちは、立ち止まり、武器を構えた。ユミもチェーンソーを構える。
「ユミさん、これは……」
部屋の殲滅を終えたワサビが合流した。
「援軍……なのかな……? ちょっとまずいね」
「僕が薙刀のSランク1人持ちます。倒せるかは分かりませんが、引き付けておきます。残りをユミさんとモミジで行けますか?」
「そうだね。それが良さそう。私たちだけでやるしかないね」
報告を打ち終えたモミジが合流する。モミジもワサビの提案の通りで良さそうだ。
「♪♪♪〜〜♪〜♪♪〜♪〜♪♪♪〜〜♪〜」
ユミは鼻歌を歌う。モミジも、旋律を取り込んだようだ。
「いくよっ!」
ユミの掛け声と共に3人で切り込んだ。
ワサビは上手くSランクプレイヤーを1人南階段側へ誘導し、1対1に持ち込んだようである。非常にありがたい。
ユミとモミジは共闘し、Sランクプレイヤー1人とAランクプレイヤー3人に対応する。鼻歌で調子を合わせ、連続攻撃を繰り出した。
Sランクの化け物は、もはやSSランクと思われる動きをする。アヤメやアイルほどでは無いが、非常に強い。サシでやり合ったとして、無傷で勝つのは厳しそうだ。下手をすれば負けすら有り得る。
モミジとの連携により、現状化け物達を翻弄出来ている。まずは数を減らしたい。Aランクプレイヤーの方から崩しにかかる。
モミジは短刀を使っているようだ。化け物には打撃が効かないためだろう。モミジの小回りを生かした動きで、銃を持った女のアキレス腱を切断したようだ。 その瞬間、女はバランスを崩す。モミジはすかさず女の首元を切り裂き処理した。
まずはこれで1人落とした。だが、二刀流の男の猛攻撃がユミを襲う。パワーもスピードもある。その上ナイフを持った男の攻撃も避けなければならない。かなり厳しい状態だ。下手に攻撃を受け止めて動きが止まれば、別の人間から攻撃されてしまう。全てを躱しながら攻撃の隙を伺う。
「きゃっ!!」
突然のモミジの悲鳴に、ユミはハッとする。
その声の方に視線をやると、モミジの足に鎖が巻き付き、投げ飛ばされていた。鉄球を持った男の仕業だ。モミジは遥か遠く、北側階段近くのエレベーターホールまで飛ばされている。
完全に分断されてしまった。モミジを助けに行こうにも、目の前には二刀流のSランクの男と、ナイフ使いのAランクの男が立ちはだかる。いよいよ本気でまずいかもしれない。南階段側のワサビもあまり良い状況では無い。少し押されている。モミジの方には鉄球の男が向かってしまった。モミジの方も力量差は拮抗しているだろう。
ユミは大きく息を吐き、目の前の化け物達を見据える。自分がこの2体を処理出来れば戦況は変わるのだ。やるしかない。ユミは意識を集中し切り込んで行った。