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5章-7.突入(4) 2022.1.13

 エントランスホールに辿り着くと、アヤメが待っていた。


「ユミちゃん、フクジュ、おかえり」

「ただいまです!」


 周囲を見ると、エントランスホールに転がる死体の数が格段に増えている。外部からの応援や、上下階から逃げてきた人間等だろう。


「電力復旧まであと5分程度でしょうか」


 フクジュが腕時計を見ながら言う。もうすぐ突入してから30分が経過するということだ。予定通りの成果である。かなり順調だ。

 

「グループチャットを見る限り、他の皆も順調そうだよね。ただ、ラックの情報が無いね。誰も遭遇していないのかな」

「恐らく、上層階の吹き抜けラウンジエリアで待機しているのではないでしょうか? そこで静観している可能性が高いとザンゾーさんは言っておりました」

「成程ねー。これからエレベーターが一気に動くとなると、敵の移動も読みにくくなるから気をつけないとね」


 エレベーターが動くことで、自分たちの上下階の移動が可能になるのと同時に、当たり前だが敵側も移動可能になる。お互いに戦略の幅が広がるのだ。より一層注意が必要になるだろう。


「ユミちゃんはこの後どこだっけ?」

「上階ラウンジより上の事務所エリアですね。ワサビ君とモミジちゃんの応援です。プレイヤーが配置される可能性が低い方の事務所エリアだって聞いてます」

「雇われプレイヤーもだいぶ片付いたんじゃない? めぼしいSSランクプレイヤーはシュンレイとザンゾーが既に殆ど倒してるみたいだし、それ程残ってなさそうだね」


 エレベーターが復旧し次第、一気に上階に行き、ワサビとモミジに合流する手筈だ。アヤメの言う通り、事前に把握していた雇われたプレイヤーの多くが、既に処理済みなので、重要度の低い事務所エリアには現れないと考えられる。そう考えれば、ユミが向かうエリアは、処理対象の人間の数が多いだけで、比較的安全に処理可能だなと感じる。


「フクジュはどこだっけ?」

「私は上階ラウンジの下階にあるフロアですね。既にSSランク等のめぼしいプレイヤーは処理済みのエリアなので、取りこぼしが無いかを確認しながら進む手筈となっております」

「そのエリアは危険な所だね。まだ強い個体が隠れてるかもしれないから気をつけてね。大規模な毒も使えないだろうし」

「はい。ご心配ありがとうございます」


 間もなく電力が復旧する。フクジュとユミはそれぞれ向かう階に止まるエレベーターの乗り場へ移動する。エレベーターで鉢合わせするのが最も怖い。だが、作戦のため、直通で向かう高速エレベーターを使用する方針だ。

 せめて危険を回避するために、ピンポイントで狙われて鉢合わせする事を避けられるよう、ダミーとして全てのエレベーターを無作為に動かす方針らしい。どういう仕組みなのかは一切知らないが、ザンゾーが事前調査時にエレベーターを細工したそうだ。それを信じて乗り込むしかない。

 グループチャットを見ると、ワサビとモミジがいるフロアの階数が書いてあった。ユミはそこへ直接向かえば良さそうだ。スマホの時計を見ると、電力復旧まであと30秒程度だ。少し緊張する。ユミは静かにその時を待った。


 そして、予定時刻ピッタリ、一気に建物の照明が付く。ポーンとエレベーターが1階フロアに到着した電子音がした。そして、扉が開く。ユミは乗り込んだ。

 いざ38階へ。ユミは目的フロアのボタンを押し、扉はゆっくりと閉まった。

 

 一気に高速でエレベーターは昇っていくが、振動は少なく本当に上っているのか不安になる。不思議な感覚だ。しばらくするとエレベーターは減速し、再びポーンと電子音がした。38階へ付いたようだ。ゆっくり扉が開き、ユミはエレベーターから降りた。


 エレベーターから降りた先は明るいエレベーターホールだった。執務室と思われる部屋への扉と、北側の階段室と思われる扉が見える。まずは合流したいところだ。

 気配や音の様子から、まだこのフロアには手をつけていなさそうに思う。様子を見るべくユミは少し歩く。エレベーターの裏手側にはトイレや給湯室、倉庫などが配置されていた。この辺りに人の気配は無い。全て執務室空間に集まっているようだ。


「ユミさん、お疲れ様です」

「ユミちゃん!」


 廊下の先から、ワサビとモミジが現れた。エレベーターから遠い方の南側階段で、2人はこのフロアに来たところだと思われる。


「35階と36階の吹き抜けラウンジまでは同様の流れです。部屋の構成も変わらないので、機械的に処理できると思います。処理が終わった階には逃げられないようにだけすれば問題ありません」

「了解!」

「執務室は2部屋に別れています。僕とユミさんで一気にそれぞれの部屋を処理し、万が一廊下に逃げた人間をモミジが処理するのが早いかと思いますが、どうでしょう?」

「分かった! 良いと思う」

「電気が付いたので下階のフロアの生き残りが動く可能性があるので急ぎましょう」

「そうだね! 私達はここと下の階さえ終わったら、後は各フロアの、生き残りが居ないかのチェック作業だけだよね?」

「はい。その通りです」


 あらかた殲滅作業は終わっているようだ。今ユミがいる38階とその下の37階の事務所エリアが終われば、ユミに与えられたミッションの殆どが終わる。

 35階と36階の吹き抜けラウンジエリアはラックや強力な呪詛師、特に強化された化け物が待機している可能性が高いという事で、ユミ、ワサビ、モミジの子供組は離脱する方針だ。1階でアヤメと合流してエントランスホールを守る事になっている。ラウンジには、最終的にシュンレイとザンゾーとアイルが集合して制圧するらしい。


「行きましょう」


 ワサビの掛け声と共に、ユミは執務室の扉を開けて侵入した。中にいる人間ができるだけ廊下へ逃げ出さないように処理したい。身動きができないほどの恐怖を与えてしまおうか。

 ユミがチェーンソーを軽快に唸らせると、人間たちが物陰から見てくるのが分かった。ユミはニンマリと笑う。


「ユミちゃんいっきまーっす! 皆殺しだよっ! あははははっ!」


 ユミは狂ったような言動と共に一気に切り込んで行った。人間達は案の定、恐怖で逃げる事すらできなかったようだ。ものの3分程度で200平方メートル程度の部屋の殲滅が完了した。ワサビの方の部屋はまだ少し残っているようだ。ユミは1度廊下に出てワサビの方の部屋に入る。


「助っ人だよー!」


 ユミが扉から入ると、扉から逃げようとしていた人間と目があった。


「惜しかったね。もうちょっとで逃げられたかもしれないのにね」


 ユミはニッコリ笑いながら、逃げようとしていた人間達を切り倒した。ついでに心臓も頂く。体を動かした時には栄養補給が大事な様だ。定期的にチャージすると疲れが出ないという事にユミは気がついてしまった。何とも便利な体である。


「ユミさん、助っ人ありがとうございます。これでこの階は完了ですね。ラスト37階へ行きましょう」


 ワサビは移動しながらグループチャットに経過を打ち込んでいるようだ。ユミもグループチャットのログを見る。ザンゾーから残りの高ランクプレイヤー情報が載せられていた。

 SS+ランクのラック、SSランク1人、Sランク8人、Aランク17人だそうだ。化け物化していれば表示のランクより強いと考えられる。かなり数は減っているがまだ残っているなという印象だ。他の階についてもほぼ制圧が完了しているようなので、要するに残っているプレイヤーはラウンジに固まっている可能性が高いと推測できた。この様子なら大丈夫だろう。順調だ。ユミはほんの少しだけ安堵した。

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