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2章-2.趣味 2020.8.21

「もどりー!」


 アヤメは元気にbarの扉を開ける。一旦部屋に戻り買い物した荷物や武器類を置いてきた後、2人はユミの初仕事の報告のためにbarへと戻ってきた。

 barにはカウンター奥にいるシュンレイしかいない。時刻は24時を過ぎていた。アヤメのあとに続いて、ユミもカウンター席に座る。


「こちらが今回の報酬でス」


 カウンターテーブルに茶封筒が置かれる。ユミの目の前に置かれたそれは、かなり厚みがあるように見える。一体いくら入っているのだろうか。ユミは封筒を受け取り中を覗いて見た。約20万くらい入っている。


「アヤメさんのは振り込み済みでス」

「おっけー!」


 アヤメの分の報酬は直接口座振込か何かなのだろう。見習いでついて行っただけの自分がこの金額なのだ。アヤメにはいくら入っているのだろうか。気にならないと言ったら嘘になる。


「シュンレイおなかぺこぺこだよ~。何か食べ物を~」

「アヤメさん。ここは見た目がbarなだけデ、barではありませン。従って食べ物は出ませン」

「でも、そこにキッチンあるじゃん! それに、シュンレイはいつもおつまみ食べてるじゃん!」


 カウンターの内側を覗き込むと、アヤメが指摘するようにキッチンセットが置かれていた。幅2メートル以上ある立派なキッチンだった。調理道具も揃っているように見える。

 これは絶対料理している。しかもかなり料理が好きな人間のキッチンだ。食事を出せないのではなく出さないのだろうとユミは察した。


「ご自身デ作る分にはかまいませんかラ、どうぞこちらへ。材料もありますかラ」

「うううううううううう」


 シュンレイがアヤメにカウンター内側で料理をするよう促すが、アヤメは悔しそうに唸っている。この様子からアヤメは料理が苦手か嫌いなのだろうと推測できる。


「ねぇ! ユミちゃんもお腹すいたよねぇ!? ねぇ!?」


 圧が凄い。確かに、夜ご飯は食べたとはいえ小腹がすいてしまったなとユミも感じる。


「そうですね。少しお腹は空いてます」


 自分はもともと少食なので、食べなくても平気ではあるが、食えと言われれば1人前程度は十分食べられるだろうなと思う。

 初仕事で緊張したからだろうか、カロリーを消費したのかもしれない。


「もし、キッチン使ってよければ、私が何か作りましょうか? とはいえ、簡単なものしか作れないですけれど……」


 ユミは提案する。他人に勝手にキッチンを使われるのはあまりいい気はしないだろうし、ダメ元で聞いてみる。

 これだけのキッチンセットだ。かなり使用されているにもかかわらずとてもきれいに保たれていることから、勝手に使ってはいけない代物だとわかる。


「構いませン。お好きに使ってくださイ。裏に冷蔵庫もありまス。食材も自由に使ってくださイ」

「ほんとぉ!!!? ユミちゃん料理もできるの!? 天才!! 神!!」


 ユミはカウンターの内側に入れてもらい、キッチンセットの前に立つ。何を作ろうか。調理道具は十分だ。コンロも3口あり、流し台も大きい。材料があれば何でも作れるだろう。


「リクエストありますか?」

「パスタ食べたい!」


 軽食ではなくがっつりご飯を所望されている。相当お腹がすいているのだろう。


「シュンレイさんも食べますか?」

「えぇ。お願いしまス」


 3人分のご飯を作ることになり、ユミは裏にあると言われた冷蔵庫を見に行った。裏手にあったのは、立派な家庭用の冷蔵庫だった。

 扉を開けると食材がきれいに整頓されて収納されており、使用者の几帳面さがひしひしと伝わってくる。また、作り置きもある。

 これは温めるだけで食べられるはずなのに……。ユミは見なかったことにした。


 ユミは必要な食材を調達しキッチンセット前に戻ると調理にとりかかる。久々の料理だ。ちょっと楽しみである。

 アヤメが元々住んでいたという現在ユミが使う部屋には、調理道具が一切なかった。幅90センチメートル程度のミニキッチンはあるが、使われている様子もなかった。


 アヤメのこの様子だと調理など一切しなかったに違いない。他の生活必需品はまんべんなく揃っていたのだからそういう事なのだろうと察した。


「ユミちゃん、料理得意なの~?」


 アヤメは興味深々で尋ねてくる。


「そうですね。よく家族の食事を作ったり、毎日お弁当を自分で作るぐらいには。ママと一緒に作るのも楽しくて。趣味みたいなものです」

「へぇ~。もう、料理ガチ勢じゃん! 凄いなぁ」


 アヤメはニコニコしながら聞いてくれる。その間もユミは料理をする手は休めず、同時並行でいくつもの工程を進めていった。


***


「食器はどれでも平気ですか?」

「えぇ。好きなのを使ってくださイ」


 ユミは戸棚から適当な食器を探す。シンプルなものを選んでパスタを盛りつけた。視界の端に、ユミでも知っているくらい有名なメーカーのカラフルな食器も目に入ったが、今回は使わず、これもまた見なかったことにした。絶対料理ガチ勢は自分じゃなくて奴だ。と確信を持つ。

 片手間で作ったスープもカップに盛りつけし、ユミはアヤメが待つカウンターテーブルへ料理を出した。


「お待たせしました」

「わぁぁ!」


 アヤメは目を輝かせている。カルボナーラとコンソメスープを出してみた。おいしいと良いのだが。せっかくみんなで食べるのだからと、アヤメの提案でカウンター席ではなくテーブル席の方へ料理を運んだ。

 ユミも軽くキッチンを片付け、テーブル席に向かう。


「いっただっきまーす!!」


 相変わらず元気な声だ。ユミとシュンレイもそれに続いて、静かにいただきますと言い食べ始めた。


「めっちゃうま~。幸せ~」


 アヤメは本当に幸せそうに言う。へにゃっと笑う笑顔は見ていて癒される。作って良かったなと自分でも思った。


「おいしいでス。ユミさんありがとうございまス」


 料理ガチ勢からもお褒めいただいた。素直に嬉しい。思わず笑みがこぼれた。

 誰かのためにまた料理ができて良かったなと、ユミは満たされた気持ちになり、3人での食事を楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユミはきっといいお嫁さんになるでしょうね。 彼らは彼らで、知らず知らずの内に胃袋掴まれてる感じだし(*_*)
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