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5章-6.作戦(2) 2021.12.28

『皆さんこんにちは。ふふっ。こちらの声は問題ありませんか?』


 テーブルに置かれたスマートフォンからは、若い女性の声が聞こえてきた。


「えぇ。問題ありませン」

『分かりました。では改めて。警察のシラウメです。今回連携するにあたり、簡単に説明させて頂きます。ふふっ。よろしくお願いします』


 シラウメと言えば、確かアイルの上司である少女の名前だ。この電話の相手が、まさにその上司の少女なのだろう。


『今回の呪詛師の拠点制圧作戦ですが、そちらの報復と警察の制裁の目的が一致しましたので共同作戦という方針になりました。計画全体の目的としましては、複数の関連施設諸共全てを一気に制圧し、完全に呪詛師の組織を落とす事です。皆さんにはメインの拠点である、高層ビル1棟を担当して頂きます。拠点には高ランクプレイヤーが多く配置されている事から、警察の武力では困難と判断したため、警察は拠点制圧には関わりません。日時は1月13日午後18時42分。この日は雷雨になる予定なので、落雷を装って付近一帯を大幅な停電にします。これが作戦開始の合図です。また、その停電を利用して攻め込んでください。復旧までには約30分程度掛かるようにしています。もちろんビルには非常電源が備わっていますので――』


 シラウメの怒涛の説明が開始された。どのあたりが簡単な説明なのだろうかと突っ込みたくなる。


 当然ながら、ユミは初っ端から話に置いていかれてしまう。シラウメによる息継ぎすら無いような説明の密度に頭から煙が出そうだ。ユミは少しでも内容を理解しようと真剣に耳を傾けるが、やはり会話ではなく一方的な説明であるため理解するのは厳しい。これは後でシュンレイかザンゾーに教えてもらう場を設けてもらう方が良いのだろうなと判断した。

 とりあえずは日時と目的は把握したので十分だとユミは自分を慰める。そして、ユミは細かい事への理解はこの場では諦め、静かにシラウメの説明が終わるのを待つ。


『それと……。呪詛について。現状の情報から私の見解を述べさせて頂きます。これはあくまで推測でしかありませんが、戦略の参考にしてください。呪詛を扱うのは6歳から8歳程度の少女です。拠点で呪詛師と思われる少女は2名目撃があります。呪詛の仕組みですが、血液を媒体にして他者を攻撃すると考えられます。彼女達の血液には十分注意してください。飛沫などを被ると呪詛をかけられる可能性があります。効果の幅が非常に広く、呪詛を掛けられた後だと対応は非常に困難になるでしょう。にわかには信じ難いのですが、少女が強く念じた効果を血液に乗せて、その血液を相手に接種させ、感染させて効果を発動させる様なイメージです。仕組みは全く分かりませんがルートがそうなっています。そうですね。もし相手に感染させようとするのであれば――』


 次にシラウメは呪詛についての細かい推測を説明し始めた。こちらも最初の方は何となく理解できたものの、その後の細かい説明は殆ど理解できずユミは苦笑しながら聞き流した。呪詛師は2人の少女である事、血液には注意した方が良いのだろうという事は理解できたので良しとする。


『私からは以上ですが、何か質問などありますか?』


 ようやくシラウメの説明が終わったようだ。ユミは妙な緊張感から解放されたことで、安堵から小さく息を吐いた。自分よりも年下の少女がこれを話しているのだと思うと恐ろしくて仕方がない。

 シラウメに質問は無いかと問われたところで、残念ながら質問ができるだけの土俵に自分はいない。ここは大人しく黙っているのが正解だろうと何となく思う。ユミは心を無にして皆の反応を待った。

 

「六色家のザンゾーだ。質問いいか?」

『はい。どうぞ』

「制圧の対象は、拠点内の高ランクプレイヤー全員か?」

『いいえ。もちろん処理できる場合はして頂いて構いません。あくまで警察からのオーダーは呪詛師の組織を落とす事です。研究員、構成員、化け物となった人間、呪詛を扱う人間のみが処理対象です。呪詛師を中心とした組織を壊滅させる事が目的です。なので、雇われたプレイヤーやバックの組織までは範囲に含んでいません。そちらのお店の報復のオーダーの方が高位でしょうから、そちらの方針で動いてください』

「分かった。もう一点。呪詛の仕組み。本当はもっと踏み込んで推測できてんじゃぁねぇのか?」

『……。困りましたね……』


 シラウメはそう言って黙ってしまった。暫く静かに回答を待つと、ゴホンと咳払いが聞こえた。


『ふふっ。失礼しました。シュンレイさんの店には新しいブレインができちゃったんですね。非常に困ります。本当に……。そうですね、お祝いで特別に情報提供しましょう。呪詛の正体は意志を持った生き物です。目には見えないほどの小さな生物です。呪詛師に寄生して生きています。呪詛師に本体が寄生しているのでしょう。強く念じると本体から生まれた子の生物にその意思が宿ります。そしてその意志を持った子の生物を血液とともに他者へ接種させる。そうすると、体内に入った子の生物が効果をもたらす。こういうことでしょう。どこまでコントロール出来るのかは呪詛師のレベルに左右されると思われますが、割と何でも有りのような状態です』


 ユミはシラウメのその説明にビクッとする。呪詛が生き物であるという可能性。にわかには信じがたい。その仮説はユミの想像を遥かに超えており、得体の知れない物として薄気味悪く、嫌悪感を抱かずにはいられない。ゾワリとして嫌な汗が背中に流れるのを感じた。


『各施設でたくさん実験されたようですね。優秀な呪詛師を生み出すために結構な事をしているようです。施設を調べた結果、どうやらこの生物と上手く共存できる人間は少ないようです。実験は順調とは言い難い状況のように見えました。というのも、この拠点近くではたくさんの少女の死体が発見されており、どの死体も血液がなく、また脳がスカスカになっていました。きっと脳みそが寄生先なんでしょう。失敗作の少女がたくさん死んでいる。そして血液は一滴もない。その情報から以上の推測になります。ふふっ。いかがでしょうか? 良い線いってると思うんですよね』

「かははっ! こりゃぁ恐ろしい。ありがとな、警察さん」

『はい。お役に立てたのなら良かったです』

「シラウメさん。私からも1ついいですカ?」

『はい。どうぞ』

「あなたが呪詛師側の陣営なら、攻められた時に何をしますカ?」

『ふふっ! 面白い質問です。考えるとワクワクしますね! 私なら……』


 そこでシラウメは少し言葉を止めた。恐らく思考しているのだろう。


『私ならですが、建物内の化け物を一斉に放ち味方諸共殺します。また、捨て駒の少女を戦わせている隙に退散するか、弱いところを刈り取って人質にしますね。あぁ。この拠点の支配者は呪詛師ではなく鞭使いのラックですからね。ラックの立場での話です。あの人間は一方的な交渉がとても好きで、女子供を苦しめるのも好き、そして意味不明なくらい運がいい。それを考えると……。ラックが取ると思われる行動は、女性か子供を捕まえて人質にし、滅茶苦茶な交渉をもちかけ、ある程度楽しんだらさっさと拠点を見捨てて逃げるという所ではないでしょうか? 運がいいので、シュンレイさんとは絶対に出くわすことなく女性か子供を捕まえると思います。逆に言うと……。ラックに出くわしたSSランク以下の成人男性は全員その場で死にます』

「分かりましタ。ありがとうございまス」

『ふふっ。作戦会議頑張ってくださいね。それでは』


 通話はそこでプツリと切れた。


「アイル。お前の上司はバケモンだな。手汗かいたわ」

「シラウメは天才だからねー。しかも可愛いんだ」

「そうかい。そうかい。ちなみに彼女は今何歳になったんだ?」

「中学1年生になったって言ってたから、12か13じゃないかなぁ」

「マジかよ。末恐ろしいな……」


 本当に恐ろしいなと思う。警察を敵には回したくないと心の底から感じた。

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