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5章-5.聖夜(7) 2021.12.24

 barを出ると一気に真冬の気温に体が冷やされる。空を見上げると雲ひとつなく星がキラキラと輝いていた。周りに音はなくとても静かだ。自分の足音とザンゾーの下駄の音だけが響く。

 やっぱり名残惜しいなと思ってしまう。それほどパーティは楽しかった。また、来年も皆で出来たらいいななんて思ってしまう。来年はもっと事前に準備もして、飾り付けやプレゼントも用意したい。


「ザンゾー今日は来てくれてありがと。お仕事忙しいのに無理して来てくれたんでしょ?」

「ん? あぁ。気にすんな。俺が来たかったから来たんだぁよ。もっと前に分かれば調整できたんだが……。顔出せてよかったわ」


 ザンゾーはそう言ってユミの頭を優しく撫でる。


「えへへ。皆楽しんでくれたみたいで良かったぁ」

「あぁ」

「すごく楽しかったんだよ。今度は最初からいてね」

「あぁ。そうする」


 話しながら歩いていると、あっという間に部屋についてしまった。ザンゾーはまた戻って飲むのだろう。ユミは玄関の鍵を開ける。


「送ってくれてありがと。おやすみ」

「あぁ。おやすみ。ありがとな」

「うん」

「ユミ」

「ん?」

「ハグしてくれ」

「ふぇっ!?」


 ザンゾーは両手を広げている。今まで許可なんて取らずに勝手に抱きついてきたくせに、なぜ今更改まってお願いをするのだろうか。それに、なんだか優しい顔をしている。相変わらずザンゾーは訳の分からないことばかりする。

 ユミはザンゾーに向き直し、ギュッと抱きつく。するとザンゾーに抱きしめられた。とても暖かい。ふわりとタバコの臭いもする。思えば最近はあまりタバコの臭いがしなかったなと思う。以前ほど近くにいることが無くなったからだろう。


「最近はずっと忙しいの?」


 ユミはザンゾーを見上げて尋ねる。


「そうだぁね。やらなきゃならない事がある」

「そっか。お疲れ様」

「あぁ。ありがとな」


 ザンゾーは本当に優しい顔をしている。自分はどう反応したらいいのだろうか。別に抱きつかれるのも嫌じゃない。意地悪をされてムッとする事もあるが、不快ではない。気がつけばそんな状態の自分がいる。


「ユミ。クリスマスプレゼントだぁよ。受け取ってくれ」


 ザンゾーはそう言って両手の平に収まるくらいの小さな紙の袋をユミに手渡した。ユミは受け取り中を見てみる。中には小さな箱が入っていた。


「開けていい?」

「あぁ」


 箱を取り出し蓋を開けると、中には正方形にカットされた黄緑色の宝石が付いたネックレスが入っていた。シンプルなデザインで、宝石がキラキラと光っている。


「綺麗……」

「つけてくれるか?」

「うん」


 ユミは丁寧にネックレスを取り出し、金具を外して首の後ろで止めようとする。


「むむむ……」


 案の定上手くできない。普段ネックレスを付けないため手探りで金具を止めるのが下手くそだ。


「貸してみろ」


 結局上手く出来ずにザンゾーに金具を止めてもった。


「やっぱり似合うな。綺麗だ」

「っ!?」


 そんな事を真正面から言われると照れてしまう。その瞬間顔に熱がこもる感覚がした。まさかこれは、顔が真っ赤になってしまっているのではないだろうか。耳まで赤くなっている気がする。非常に恥ずかしい。今自分はどんな顔をしてしまっているのだろう。全く分からない。

 

「ありがとう……」

「あぁ。渡せてよかった。おやすみ」

「うん。おやすみ」


 ユミは何とかお礼の言葉を絞り出すと、逃げるように玄関の扉を開けて家に入った。

 バタンと扉が閉まる。何だか心臓の鼓動が早い。深呼吸をしても全然落ち着かない。一体どうしてしまったのだろうか。

 ユミは靴を脱ぎ洗面室へ向かう。そこで鏡に映る自分を見た。ザンゾーに貰ったネックレスの宝石が胸元でキラキラと光り輝く。黄緑色の宝石は自分にとても似合っているように見える。とても気に入ってしまった。そして案の定自分の顔は真っ赤だった。こんな顔をザンゾーに見られたと思うと恥ずかしくてたまらない。明日からどんな顔して会えばいいのか分からない。


「うぅぅ……」


 暫くはこの気持ちは収まりそうにない。ユミは温かいコーヒーを入れ、まったり過ごしながら高鳴った心をゆっくりと落ち着けていった。

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