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5章-5.聖夜(5) 2021.12.24

「ユミさん、白のショートケーキをお願いしまス」

「オレはイチゴの赤いやつにしようかな」

「はい!」


 最後にやってきたのはシュンレイとアイルだった。2人の皿にそれぞれケーキを乗せた。これで一通り皆にケーキを配り終えただろう。

 残りは、イチゴの赤いケーキが2つ、チョコケーキが1つ、白いショートケーキが3つだ。やはりここはアヤメと同じイチゴの赤いケーキだろう。せっかくならお揃いのものを食べたい。ユミは自分の皿にイチゴの赤いケーキを乗せる。可愛らしい見た目に笑顔がこぼれる。


「ユミさん。そのケーキを持って笑ってくださイ」


 ユミはケーキの皿を顔の近くに持ち上げ、シュンレイに笑顔を向けた。


「よく撮れましタ」


 この写真がザンゾーに売られると思うと少し複雑だが、せっかくなら記録に残したいなと思う。

 シュンレイは撮れた写真をユミに見せる。そこに映るのは満面の笑みを浮かべた自分の姿だ。こんなに楽しんでいる自分は久々に見たかもしれない。それこそ、家族写真とか学校の友達と遊んだ時くらいしか見たことが無い程楽しそうな姿がそこにあった。


「私も今日の写真が欲しいです。自分がこんなに楽しそうな顔してるなんて知りませんでした」

「えぇ。もちろン。後で共有しましょウ」

「ありがとうございます!」

「ユミさん、あちらでケーキを一緒に食べましょウ」


 シュンレイが座っていたテーブル席へ案内され、ユミは椅子に座る。正面にはカサネを抱っこしたアヤメ、その隣にシュンレイ、ユミの隣にはアイルとフクジュが居た。どうやらこのテーブルは酒飲みテーブルのようだ。


「ユミちゃんお疲れ様! ゆっくり食べて! ずっと気を回してたでしょ?」


 アヤメはそう言ってニッコリと笑う。シュンレイはユミのグラスにリンゴジュースを注ぐ。


「改めて乾杯しましょウ」

「はい! 是非! 乾杯!」


 ユミがグラスを持ち上げると、皆ビールが入ったグラスで乾杯してくれた。自分も早くお酒が飲めるようになりたいなと思ってしまう。一緒に飲めたら楽しそうだなと思う。


 テーブルの上には取り分けられたご馳走が沢山ある。ユミは促されるままご馳走を食べ進める。やはりどれも美味しい。無限に食べられそうだ。


「ユミちゃんの食べっぷり見てるの良いなぁ。どんどん食べて欲しい」

「へ?」


 アヤメはニヤニヤしながらユミを見ていた。確かに最近沢山食べている気がする。昔に比べて倍以上食べているかもしれない。昔はむしろ少食だったのだ。今では考えられない。


「食べ過ぎ……ですかね……?」

「大丈夫だよ! どんどん食べて!」

「むむむ……。太ったらどうしよう ……」

「あれだけ動いてたら太らないよー。気にせず食べたいだけ食べよう! 私も食べるから!」


 アヤメと一緒にもりもりと食べる。お酒を飲んでいる男性陣はあまり食べていないようだ。お腹は空かないのだろうか。少し心配になる。


「気にせずどんどん食べなさイ。我々の胃袋の心配は不要です。ビールでも入れておけば問題ありませン」


 これはとことん飲ませる気なのだろうなと思う。アイルとフクジュは、今晩逃げられないのだろうと察する。


「シュンレイ! 皆に飲ませすぎちゃだめだよ!」

「えぇ。2人とも強いので大丈夫でしょウ」

「だーかーらー! シュンレイと同じ基準で飲んだら皆死んじゃうから!」


 アヤメが苦言を言うも、シュンレイはあまり聞いていないようだ。


「もぅ……。程々にしてね」

「分かりましタ」


 本当に分かっているのかは不明だ。ふとテーブルの端を見ると、大量のビールの空き瓶があった。もしやこの量を3人で飲んでしまったのだろうか。


「フクジュさんはお酒が結構飲めますネ。よく飲んでいたんですカ?」

「そうですね。よく夜に父と飲みながら研究の話をしておりました。話が熱くなると朝まで飲んでしまうこともあって、よく母に怒られた記憶があります。父が日本酒や焼酎が好きだった事もあり、その辺のお酒をよく飲んでおりました」

「成程。日本酒を開けましょうカ」

「シュンレイ……?」

「……。アヤメさんが寝た後にしましょウ」

「はぁ……。もう知らない」


 アヤメは呆れたように深くため息をついた。本当に飲み明かす気なのかもしれない。


「アイルは最近どうですカ?」

「んー。結構やばいかなー。警察内部が派閥争いで結構荒れててね。盗聴ストーカー野郎は潰せたから一旦落ち着いたけど、本当見ててヒヤヒヤするよ。シラウメもシラウメで売られた喧嘩は全部買うし。暗殺まがいの事もあれば、罠だらけだし。狂ってるよ……」

「警察……?」


 今、アイルは警察と言っただろうか。


「あ。ユミちゃんには言ってなかったね。オレ、警察所属なんだ」

「へ……?」


 警察所属とは……? 理解が追い付かず思考が停止する。殺し屋が警察に所属……?

 

「警察に雇われてる感じ? 一応扱いはレンタルだから、シュンレイさんの店の専属プレイヤーでもあるんだけどね。基本は警察の仕事してるんだぁ」


 アイルはいつもの調子で平然と言うが、中々に信じ難い話だ。長期レンタルで警察にレンタルされているという話なのは分かるが、そんな事があり得るのかと。そもそも、何故警察所属になったのだろうか。経緯も全く想像できない。

 やはり、自分がイメージする警察像とかけ離れているせいか、あまり納得は出来なかった。

 

「アイルってば、可愛い上司見つけて警察に行っちゃったんだよ。信じらんないよね。しかもその上司が幼い女の子なんだもん。心配になるよ」

「え? アヤメさん、オレの事そんなに心配してくれてたの?」

「違うよ。心配なのはその女の子の方だから。アイルみたいなチャラ男に絡まれたら危ないじゃん」


 アヤメはため息交じりで言う。そういえば先ほど、アイルは可愛い女の子をナンパするようなチャラい性格に変わったのだと聞いた。確かにそれを踏まえれば、幼い可愛い少女に付いて行くなんて、少女が危険ではないかと心配になる。

 

「大丈夫でス。アイルはしっかり彼女にコキ使われているようでス。心配いりませン」

「なんか、それもそれで……。何だかなぁ……。私は心配だよ……」


 情報量が多い。

 ユミは頭から煙を出しながらも、理解した。警察所属の幼く可愛い少女に釣られてアイルは警察に行き、現在はその少女の部下となって働いているという事だろう。ユミの中の警察のイメージがどんどん書き換えられていく。

 そもそも、幼い少女が警察に所属しているという部分から意味が分からない。


「オレの近況はそんな感じかなぁ。もう暫くは忙しそうだね」

「そうですカ。真面目に働いているようで安心しましタ」

「えー。オレ仕事は真面目にやってるってー。シラウメのためなら死ねるし」

「こっわ……」


 アヤメはドン引きしている。シラウメというのが、恐らく上司の少女の名前なのだろうなと思う。死ねる程と言うのは理解し難いが、それ程大切にしているということにしておく。

 

「ユミさん。ザンゾーは21時半頃になるそうでス」

「あいつ必死こいて仕事終わらせたんだろうね」

「適当に食べ物など取り置いておきましょうカ」

 

 シュンレイは立ち上がり食べ物が乗っているテーブルへ向かった。ユミも立ちあがり手伝おうとしたが止められてしまった。ゆっくり座っていろという事のようだ。


「この、ビールの空き瓶の量って、皆さんで飲んじゃったんですか?」


 ユミは気になり尋ねてみる。正直どれくらい飲むのが普通なのかユミには分からない。だが、1テーブル丸々空き瓶で埋まるほどは多すぎなのではと思う。


「半分はシュンレイさんだねぇ。もう半分はフクジュさん。オレはあんまり飲んでないよ」


 アイルは呆れたように笑いながら答えてくれた。どうやらフクジュも結構飲むようだ。それにしては酔っている様子がない。

 

「フクジュはお酒強いんだねー」

「そうですね。毒耐性がありますので、アルコールにも強いようです。とはいえ、沢山飲めば普通に酔いますよ」

「酔うとどうなるの?」

「どうでしょうか。酷く酔うと記憶がなくなってしまうので正直どうなるのか分かりません。記憶が無いのは怖いですから、酔わないように気をつけております」

「シュンレイは容赦ないから気をつけてね」

「承知致しました。気をつけますね」


 アヤメとフクジュの会話は何とも和やかだ。そんな様子にもホッコリする。

 確かにフクジュが話してくれたように、アルコールも毒と考えれば、毒耐性のあるフクジュやシュンレイがお酒に強いと言うのは何となく理解できる。そう考えると、自分もお酒に強くなるのではないだろうか。毒の耐性はあるのだから、可能性は高い。20歳になるのがまた少し楽しみになった。

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