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5章-5.聖夜(4) 2021.12.24

「あ! やっとユミちゃんあいたよ~。こんばんは。今日はありがとう!」


 アイルと入れ違いで、今度はシエスタがやって来た。隣にはフードの少年もいる。


「シエスタさん、こんばんは。メリークリスマス!」


 ユミはグラスを当てて鳴らす。皆主催のユミの所へ順番に挨拶しに来てくれているようだ。


「ユミちゃん凄いねぇ。即席だったのにこんなに人を集めて場所を作り上げちゃうなんて。流石だね」

「いえ、シュンレイさんに買い出しを手伝ってもらっていますし、メンバーもシュンレイさんが集めたので、私は何も……」

「いやぁ、そうでも無いと思うなぁ。シュンレイさんは、()()()()()()()のクリスマスパーティに来るか? って聞いてきたからね。俺はユミちゃんだから人が沢山集まったと思ってるよ」

「ふぇぇ。それが本当ならちょっと嬉しいかも」


 まさかシュンレイがそんな風に声を掛けているとは思わなかった。シエスタが言うように、自分の影響で集まってくれたのであったら、本当にありがたいし嬉しい事だなと感じる。

 

「こっちの人はさ、クリスマスとか祝う習慣あまりないし、よく知らない人も多いからね。ユミちゃんが取り入れてくれた文化は興味深いよ。それに、こんな機会がなきゃ、こんな化け物だらけ1箇所に集まらないって。メンツが豪華すぎだよ。ここにザンゾーさんもいたらカオスだったね」

「確かにそうかもしれません。ザンゾーは今日は外に出ちゃってたらしいです」

「そっか。残念だね。ザンゾーさん悔しがってそうだなぁ。ユミちゃんの事あんなに大好きなのに、()()()()()()()()()()()()に出られないなんて気の毒だなぁ。あ。そうだ。せめて写真撮ってあげなよ」

「写真ですか?」

「アヤメさん、ユミちゃんの写真沢山撮ってあげてよ」


 シエスタは、ユミの横でミートボールを頬張っていたアヤメに声を掛ける。アヤメは暫くもぐもぐしていたが、ごくりと飲み込むとポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「確かにね。それくらいはしてあげてもいいかも。ほら! ユミちゃん、笑って!」

「え? え?」


 ユミはアヤメにスマートフォンのカメラを向けられ、咄嗟にニッコリと笑った。


「うん。可愛い。最高。この調子でどんどん撮ろっと」


 アヤメはニコニコしながらスマートフォンの画面を見ている。ユミはそっと横から覗き込むと、アヤメのカメラフォルダには、ユミやカサネの笑顔が溢れていた。アヤメらしいなと感じてホッコリする。


「またユミちゃんコレクション増えちゃった!」

「私もアヤメさんコレクション有りますよ?」

「えっ!?」


 アヤメの驚く顔が可愛くて思わずクスっと笑ってしまった。

 

「何やら面白そうな事をしてますネ」

「わぁっ!?」

「ひゃっ!?」

 

 突然だった。背後からシュンレイの声が降ってた。

 ユミとアヤメは驚いて肩をビクッとさせる。音も気配もなく突然真後ろで声がしたら驚く事なんて分かっているだろうに。

 ユミはゆっくりと振り返るとシュンレイは少し満足そうな顔で立っていた。

 

「シュンレイ、何!? 音も気配もなく後ろに立たないでよー。びっくりするじゃん……」


 アヤメが文句を言うも、シュンレイに悪びれた様子は一切無い。この様子からも、わざとユミ達を驚かせて遊んでいるのだろうなと思う。


「私もユミさんの写真撮りましタ」


 シュンレイはそう言ってスマホのカメラロールを見せてくる。ユミが準備を行っている様子や、乾杯の挨拶をしている様子等、沢山写真に取られていた。ユミは撮られている事に全く気がついていなかった。


「え、このユミちゃんめっちゃ可愛いじゃん」

「額縁に入れて飾りますカ」

「うん。そうしよう」

「え、ちょっと……」


 額縁に入れて飾るのは恥ずかしいのでやめてもらいたい。冗談だと思うが、2人とも真顔で言うので恐ろしい。


「後でこれらの写真をザンゾーに売り付けましょウ」

「いいじゃん、それ! 良い小遣い稼ぎになりそう! あいつ無限に課金しそう」

「えっと……」


 アヤメとシュンレイは悪そうな顔をしている。ユミは助けを求めるようにシエスタをみると、シエスタはいつも通りニコニコと胡散臭い笑顔をしていた。


「ユミちゃん大丈夫だよ」

「……」


 どのあたりが大丈夫なのか全く分からない。

 シエスタの笑顔は相変わらずだ。きっと適当に言っているのだろうなと思う。


「ユミさん、そろそろケーキを出しましょウ」

「は、はい! 了解です!」


 どうやらシュンレイはケーキを出すためにユミを呼びに来たようだった。

 

 ユミはシュンレイに続いてbarカウンター内に入り冷蔵庫からケーキを取り出す。ホールケーキは3つある。アヤメのリクエストのケーキを含め多めに買ってきたようだ。

 ユミはそれらをシュンレイと共に丁寧にテーブルへと運んだ。ケーキ用の取り皿とフォーク、取り分ける用のナイフなども用意する。すると周りからの視線が集まる。皆ケーキを待っているようだ。

 箱からひとつずつ慎重に取り出し並べる。ふと顔を上げるとアヤメが目を輝かせている。六色家の子供達もケーキがとても気になるようだ。また、甘党のフクジュからも熱い視線が注がれている。


「ユミちゃん! こっち向いて笑ってー!」


 アヤメは笑顔でスマホのカメラを向けている。ユミは3つのホールケーキと一緒に写真を撮ってもらった。


「シュンレイさん、これはそれぞれ6等分に切って好きなものを取ってもらうのが良いでしょうか?」

「えぇ。そうしましょウ」


 ユミはケーキにナイフを入れる。できるだけ均等に切断したい。大きさに差が出たら喧嘩になるかもしれない。ここは、真剣勝負だ。

 皆に見守られる中、ユミは慎重に切り分け、無事にミッションをクリアした。我ながら均等に切断できたなと思う。


「切れました! 取り分けるので、お皿を持って並んでください!」


 皆が様子を見る中、アヤメがカサネと一緒に我先にとユミの前に現れた。


「イチゴのやつですね?」

「うん!」

「カサネちゃんは?」

「これ!」


 カサネが指を刺したのはチョコレートケーキだった。ユミは取り皿にそれぞれケーキを乗せてアヤメに渡した。

 次に現れたのはフクジュだった。


「イチゴですね?」

「はい。お願い致します」


 ユミはフクジュの皿にイチゴのケーキを乗せて手渡した。フクジュはとても嬉しそうだ。ケーキをじっと見つめてニコニコしていた。

 その後ろには六色家の子供達がいるようだが、どうやら遠慮しあっているらしい。


「皆、好きなの選んで! 全部美味しいよ!」


 ユミが声をかけるとモミジが笑顔でトコトコとやってきた。


「モミジちゃんはどれがいい?」

「チョコ!」

「了解!」


 モミジが先頭でくると、他の子達も近づいてきた。


「ワサビ君は?」

「白いケーキをお願いします」

「はーい。ユズハちゃんは?」

「イチゴの赤いケーキをお願いします」


 ユミは2人にそれぞれケーキを乗せた皿を渡す。後の2人はほぼ交流のない浅葱アサギ千草チグサだ。

 アサギとチグサはどちらも10歳だったはずだ。アサギは筋肉質の体格で身長は160センチメートル位ある。ユミよりは小さいが歳の割には大きい方だろう。肩下まである長めの黒髪は緩くひとつに三つ編みにしてまとめている。耳元には青色のピアスをつけていた。ワサビのピアスとは色違いのもののように見える。服装は黒のパーカーにジーパンを履いていた。

 一方でチグサは非常に細身の体型だ。かなり痩せていて心配になる。身長はアサギと同じく160センチメートル位ある。ウルフカットの髪型で部分的に青色のメッシュが入っている。また、フチなしのメガネをかけている。服装は白いオーバーサイズのシャツに薄いベージュのベスト、黒いパンツを履いていた。


「アサギ君とチグサ君は?」

「チョコをお願いします」

「僕は白いショートケーキで」


 ユミはそれぞれの皿にケーキを盛り付けて手渡した。


「ユミさんって、彼氏いるんすか?」

「へ?」

「おい、アサギやめとけ。ザンゾーさんに殺されるって」

「いやでも、気になるじゃん。ユミさん可愛いし」

「仮に彼氏がいたとして、既に死んでるだろ」

「あぁ、それもそうか。ザンゾーさんが生かしておくわけないか。失礼しました」

「えっと……?」


 一体何だったのだろうか。アサギとチグサはぺこりと会釈するとそのまま行ってしまった。


「チョコお願い!」

「俺もチョコで」


 次に取りに来たのはシエスタとフードの少年だった。


「ユミちゃん彼氏について聞かれてたの?」

「えっと、そうみたいです。なんか勝手に納得して行っちゃったみたいですが……」

「あはは。ユミちゃんはモテるねぇ」

「え? そういう事?」


 まさか先ほどの質問はそういう意味での質問だったというのだろうか。全く気が付かなかった。

 

「他にないじゃん。お姉さん鈍感すぎない?」

「えぇぇ」


 フードの少年にまで茶化される。こういう時になんて答えるのが正しいのか分からない。ただ、こうして何も答えられずにテンパっているのは誠にカッコよくない。それだけは分かる。

 

「顔赤くなってる。可愛いね」

「ちょっとシエスタさんも! からかわないでください!」

「あはは」


 シエスタと少年にチョコレートケーキの皿を渡すと2人はニヤニヤしながら去っていった。

 ユミはふぅーっと息を吐いて心を落ち着かせた。本当に勘弁してほしい限りだ。でも、とても楽しい。彼らとこんなフランクに交流できる機会があるのは本当にありがたいなと感じる。


「さてと。最後は……」


 最後尾に並んでいた2人へと視線を向けて、ユミは微笑んだ。

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