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5章-5.聖夜(3) 2021.12.24

「私達も何かたべよ! ローストビーフとかおいしそうだったよね!」

「はい! もりもり食べましょう!」


 ユミは取り皿を用意し、適当に食べ物を盛りつける。モミジとアヤメも一緒に食べられるように多めに盛りつけた。ユミは割りばしを二人に渡し、取り皿からつまんでもらう。

 モミジは美味しそうにローストビーフをもぐもぐと食べ、アヤメは唐揚げにかぶりついていた。ユミもフライドポテトをつまむ。どの料理も美味しい。美味しい物は人を笑顔にするなと思う。


 それからしばらくは、アヤメとモミジと楽しく会話をしながら3人で食べたいものを沢山食べた。一通り今日のメニューは制覇しただろう。

 クリスマス効果かもしれないが、やはりチキンは絶品だった。モミジはチキンを食べたことがなかったらしく、食べられるところが分からず苦戦しているようだった。どこにかぶりつけばいいのか分からず戸惑っていたが、かなりお気に召したようで満足そうに笑っていた。


「あ、あの。狂操家キョウソウケのアヤメさんでしょうか……?」

「んー?」


 突然背後から声がし、ユミ達は振り返る。すると背後に一人の少女が立っていた。この少女は六色家の子供達のうちの1人である柚葉ユズハという名の子だ。ユミとはほとんど話したことがない子である。

 身長は150センチメートルくらいでアヤメと同じくらいの体格だ。黒い髪を高めの位置でお団子にしており、深緑色のシュシュで止めている。六色家特有の一重の瞼に赤い瞳を持つ。白いブラウスに深緑色のキャミワンピースを着ていた。確か11歳だったと記憶しているが、年齢の割にとても落ち着きのある子だなという印象だ。


「そうだよ。私がアヤメだよ。えっと……?」

「六色家のユズハです」

「ユズハちゃんね。よろしくね」

「あの、私アヤメさんにずっと憧れていて……。ファンです。仲良くして頂けると凄く嬉しいです!」

「ファン!? ユミちゃんどうしよう。私のファンだって!」

「アヤメさんは綺麗でカッコよくて強くて可愛いんですから、ファンは沢山いると思いますよ!」

「ええ!?」


 アヤメはとても照れているようだ。こんなド直球で言われれば無理もない。照れているアヤメも当然の様に可愛い。


「ユズハちゃん、是非是非仲良くして! そんな期待の眼差しで見られると照れちゃうな」


 やはりアヤメは、この裏社会では有名人のようだ。子供達から憧れの対象となるような人なのだ。本当に凄いなと思う。こんな素敵な人が自分の師匠だなんて贅沢な話である。


「それでは失礼します。モミジ。あなたも一緒に行きますよ。いつまでもユミさんの影に隠れていては迷惑になります」

「はい……」


 ユミの影に隠れていたモミジはしょんぼりした顔でユミを見上げる。

 別に迷惑ではないのだが、六色家の方針もあるだろう。あまり口出しはしない方が良いだろうなと思う。


「ユミちゃん、アヤメちゃん、またね」

「うん。またね」


 ユズハはペコリとお辞儀をすると、モミジを連れて六色家の子供たちが集まっている方へ行ってしまった。


「もうすぐ19時だからアイルが来そうだね。そういえばユミちゃんはアイルに会ったんだよね? しかも手合わせまでしたって聞いたよ!」

「はい。偶然雑貨店の方で会いました。ちょうど武器を試すという事だったので見学させてもらって、そのあと少し手合わせをしました」

「どうだった?」

「凄く強かったです! ナイフの弾幕を避けきるのは難しかったです。あんなに大量のナイフを持ってあんな動きができるっていうのが本当に信じられなかったです!!」


 手合わせをしてもらった時の事を思い出すと興奮してきてしまう。

 あのナイフの弾幕を避けるためにはどんな動きをすればいいだろうか。まだまだ自分のチェーンソーでは届かないと明確に分かるほどの差だ。憧れる気持ちが膨らんでくる。

 

「分かる。意味分かんないよね。どんだけコートに入れてんの? そんなに必要? って」

「確かに一度にそんなに必要なのかは疑問ですね。でもナイフによって形状が全然違くて使い分けているみたいだったので、必要なのかも……?」

 

 多彩な形状のナイフを使い分けていたのを考えれば、アイルにとっては必要な量なのかもしれない。だが、アヤメが言うように、それは理解の範疇を超える量だ。謎である。

 

「あっ! そうだ、アイルさんって、アヤメさんの1番目の弟子って聞きましたよ? どんな感じだったんですか?」

「そうだなー。最初は無口で感じ悪い子だったんだよね。全然コミュニケーション取らずに我が道を行く感じ? 言う事は聞かないしさ。実力はその頃から十分に有ったから、他人の言う事なんて聞くわけないよね」

「なんか今のイメージと違いますね……」

「本当にね。かなり変わったと思う。言う事聞かせるまでが本当に大変でね。シュンレイと一緒にボコボコにしたの!」

「ボコボコ……」


 どうやら武力で分からせたようだ。聞き分けが悪いと武力行使されるらしい。流石だなと思う。


「性格はマシにはなったとは思うんだけど、今やチャラッチャラになっちゃってさ。すぐ街で女の子ナンパするし。なんだかなぁって感じ」

「ナンパですか……。なんだか極端な気がします」

「ねー。本当に変なんだよ。アイルは」


 そんな話をしていると、barの外に気配が現れたのを感じた。きっとアイルが来たのだろうなと思う。ガチャリと音がして扉が開くと、全身黒ずくめのアイルが現れた。


「こんばんは。わぁお。これは凄いねぇ」


 アイルは周囲を見回し驚いているようだった。


「あ。ユミちゃん。今日はお誘いありがとね。嬉しいよ」


 アイルは笑顔でユミ達の所へ来た。


「ちょっとアイル。ユミちゃんに馴れ馴れしくしないでよね。ナンパなんて絶対許さないから」


 アヤメはユミに抱き着きアイルを威嚇する。


「アヤメさん。久しぶり。大丈夫。妹弟子には流石に手を出さないよ。バックに怖い大人達が沢山いるからね。それに六色家の黒の当主様がいるんでしょ? 流石にそこには喧嘩売りたくないからね」

「そっちもそっちで問題なんだけどね……」


 アヤメはそう答えて、深くため息を付いてしまった。しかし、ユミと目が合うと、笑顔を向けて優しくユミの頭を撫でてくれる。こうやって何気ない時も、味方でいてくれるアヤメがいると、本当に安心してしまう。

 ザンゾーとの事は、特に何か言及されたりするわけではないのだが、いつも見守ってくれていて、そして心配してくれているのだと伝わってくる。

 

「アイルさん、こんばんは。お久しぶりです。何飲みますか? お酒……?」

「そうだねぇ。どうしよう。でもまぁどうせ、シュンレイさん飲みたいんでしょ?」


 アイルはbarを見回して、シュンレイの様子を確認しているようだった。この後恐らく、シュンレイの方へも挨拶に行くつもりだろう。

 

「うん。たぶんアイルの事、待ってると思うよ」

「分かった。軽く食べたらビール持って挨拶してくるよ。とりあえずは可愛い妹弟子とジュースで乾杯かな」


 ユミはグラスにリンゴジュースを注ぎアイルに渡す。


「メリークリスマス! ユミちゃんありがとう」

「メリークリスマス! 是非楽しんでいってください!」


 アイルとアヤメと、3人でグラスを鳴らし乾杯する。


「あ! そういえば、六色家の人間が店に所属したんでしょ? もしかしてあの辺にいる子たちかな?」

「そうなの。びっくりだよね!」

「しかも黒の当主もいるんでしょ? もう勢力バランスぶっ壊れてるよ。そろそろひっくり返すつもりかなぁ?」

「さぁね。私はその辺の事は全く分からないから。興味もないし。気になるならシュンレイに聞いてみたら? お酒入れば話してくれるかもよ?」

「いや、ないない。あの人酒強すぎだから。潰れるのはオレだから。絶対口割らないから。むしろアヤメさんが強請った方が言うでしょ」

「えー。どうだろう。流石に言えない事は絶対言わないと思うよ?」


 アヤメとアイルで、何だかとても難しそうな話をしている。勢力バランスなるものがあるらしい。ユミにはあまりピンとこず、首を傾げた。


「むむむ……」


 話について行けずに唸っていると、アイルはそんなユミに気が付いてくれたようだ。ニコリと笑う。そして少し考えた後、口を開いた。

 

「ユミちゃん、簡単に言うとね、1つの店に強いプレイヤーが固まっちゃうとそれだけで脅威になるんだよ。1つの大きな力を持った組織になりえるから、新しくそういう店が出てくると、現状のパワーバランスが崩れてくる可能性がある。今は5大勢力なんて言われていて、互いに牽制しあいながらバランスを取っているんだよね」


 親切にアイルが補足の説明をしてくれる。勢力等というものが有るなど考えた事もなかった。スケールが大きすぎて、説明を聞いてもイマイチピンと来ない。


「5大勢力ってどういうものですか?」

「莫大な資金を持った組織が3つと圧倒的な武力を持った組織が1つかな。そして警察で計5つ。既に圧倒的な武力組織だった六色家が揺らいでいるからそれだけでも変わりそうなんだよね。というか、そのせいでここに六色家の人間がいるんだろうな。いよいよかもしれないね……」

「ちなみに、崩れるとどうなるんですか?」

「うーん。戦争かな?」

「え゛……」

「裏社会全体が荒れるから正直何が起こるか分からないけれど、色々なところで沢山争い事が起きるとは思うよ。プレイヤーは大抵それに巻き込まれるだろうからちょっと嫌だよね」


 なんだかとても難しくて嫌な話を聞いてしまった。このままだと、戦争が起きてしまうのだろうか。


「まぁ、シュンレイさんが色々考えて動いているはずだから、ここにいる人達は大丈夫だよ」


 アイルはそう言って再びニコリと笑った。


「よし。そろそろオレはシュンレイさんに挨拶してくるよ。じゃぁね!」


 アイルはユミ達にひらひらと手を振ると、ビール瓶を持ってシュンレイの方へと向かって行った。

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