5章-5.聖夜(1) 2021.12.24
季節はすっかり冬になった。息は白くなり、指先もかじかむ。モコモコのダウンにマフラーを巻いてはいても、やはり寒い。特に顔面は寒い。持ってきたホッカイロで顔や指先を温めながらユミは周囲を何となく見回した。
「そっか……。明日がクリスマスか」
ユミは活気に溢れた街を見て呟く。サンタクロースの格好をしてケーキを売るお姉さんや笑顔の家族を横目に、仕事終わりのユミとアヤメは淡々と街中を歩いていく。
「クリスマスって、結局何するのか私知らないんだよね……」
隣を歩くアヤメは苦笑いしながらそう言った。アヤメの家ではそういう文化がないのだろう。話を少し聞く限りでも、アヤメの実家はとても殺伐としていて怖いところだ。とてもじゃないがクリスマスなどで浮かれたりはしないだろうと容易に想像できる。
「内容聞いたらきっと、アヤメさんやりたくなると思いますよ?」
「え? そうなの!? ユミちゃん教えて!」
「私の家での話ですが、クリスマスイブに家族でチキン等のご馳走を食べてケーキも食べて、翌日のクリスマスにプレゼントを両親に貰いました。今晩やります? クリスマスパーティ」
アヤメの顔がパァっと明るくなる。
「やるやる! 何準備すればいいかな?」
「プレゼントはさすがに今からは厳しそうなので、美味しいものを皆で食べながら、クリスマスイブを祝えるといいですね!」
「うん!」
「戻ったらシュンレイさんに相談してみましょう!」
「賛成!」
浮かれた街に、笑顔のアヤメがいる。それを見るだけでほっこりする。アヤメに喜んでもらいたいなと心から思う。きっと初めてのクリスマスパーティになるのだから、最高の思い出にして欲しいと思う。
たとえ他にメンバーが揃わなくても、アヤメと二人で部屋でケーキを食べるだけでもいいかもしれない。それでもアヤメと一緒ならきっと楽しい。そう思える。
***
「クリスマスパーティですカ……」
barに戻るとすぐにシュンレイに相談をしてみる。
「皆で美味しいもの食べながら楽しめたらなって思うんですが、どうでしょう?」
「成程」
シュンレイは考えているようだ。
「何が食べたいですカ?」
「チキンとケーキ!!」
アヤメが即答する。
「それらは今から準備して作るのは厳しいので、買ってしまいましょウ。14時に再集合でお願いしまス」
「はーい!」
ユミ達は一旦解散し、14時に再集合となった。
ユミは部屋に戻りチェーンソーのメンテナンスや、シャワーと着替えを済ませる。最近では返り血はほとんど浴びる事はない。洗濯も随分楽になった。一方で、チェーンソーはかなり複雑になりメンテナンスが大変になった。シュンレイによるカスタマイズで使いやすくはなったが、機能が増えた分チェックしなければならないことも多い。
ユミは丁寧に分解し清掃し組み立て直す。随分この作業も慣れた。もう1年以上もチェーンソーで戦っているのだ。慣れない方がおかしいかとも思う。
チェーンソーの細かいメンテナンスをしていると、時間はあっという間に過ぎ、再集合の時間が近づいた。ユミはお出かけ用のカバンを持ち靴を履く。
「行ってきます」
誰もいない部屋にそう告げて、ユミは玄関から外に出た。雑貨店前に行くと、シュンレイとアヤメとカサネが待っていた。シュンレイは私服だ。安定の着こなしを見せつけられる。アヤメもふわふわの白いコートを着ており可愛らしい。カサネはピンクのフリルが沢山付いたコートを着ていた。きっとアヤメの趣味だろう。可愛くて失神しそうだ。
「すみません! お待たせしました!」
「いえ、時間通りでス。行きましょうカ」
「はい!」
どうやら大きな駅に隣接するデパートへ行くようだ。そこでなら、ケーキもチキンもその他美味しいものが全て揃うだろう。
「メンバーですが、フクジュとシエスタと六色家の子供達が参加できそうでス。アイルも顔を出せたら出すそうでス。ザンゾーは今日は外に出てしまっていて参加できないとのことでしタ」
「あら残念。あいつ悔しがってそうだねー」
「えぇ。電話で発狂してましタ」
発狂するほどパーティをしたかったのだろうか。そんなにパーティ好きだったとは知らなかった。ちょっと可哀想だなと思う。
「それにしても賑やかだねー! なんかユミちゃんが来てから本当、人がどんどん集まって、最近は楽しいなぁ!」
「確かに人が増えましタ。賑やかなのも悪く無いでス」
確かに最近人が増えたなと思う。六色家のメンバーが一気に増えたのが大きいだろう。気軽に交流できる人がいると、楽しいなと感じる。特に、モミジやワサビとはよく運動場で会うため交流しており、仲良くなれたと感じている。
ワサビとも運動をしながら日常会話をしており、随分コミュニケーションが取れるようになってきた。
ワサビは最近ではザンゾーに稽古をつけてもらっているらしく、精神的にも肉多的にもボコボコにされていると苦笑しながら話してくれた。生傷が絶えないらしくフクジュの所へ良く通っているとも言っていた。稽古は一体どんな内容なのか気になるところだ。
ワサビはだんだんとユミには気さくに話かけてくれるようになり、最初に会った頃より親しみやすく明るい印象だ。また、以前に比べて自信に満ちているように見える。ザンゾーとの稽古によるものかもしれないと感じた。
モミジとワサビについてはそれなりに知ることができたのだが、他の子供達とは未だに交流できず、あまり把握ができていない。まだまだ未知の状態だ。今日のパーティーに来るというので少しでも交流できたらいいなと思う。とはいえ、自分から元気に話かける勇気があるかというとちょっと微妙だ。受け身であるのも良くないと分かっていても、こればかりは難しい。
同じ話題を探すのも難しい上、相手の事を知らなすぎるのも問題かもしれない。また、相手が自分に興味を持ってくれなかったら迷惑になるかもしれない等と考えてしまう。
だが、弱気になってはダメだ。折角の機会なのだから、少しでも交流がしたい。この気持ちに嘘は無い。
自然に機会が出来たらいいなと。そんな事を考え、ユミは少しドキドキしながら、デパートへ向かって歩いて行った。