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5章-4.共鳴(1) 2021.12.10

 本日の午前中はシュンレイとの体術での手合わせの予定である。ユミは少し早めに運動場に来て準備運動を行う。隣にはモミジがおり、ユミの準備運動をニコニコしながら真似っ子していた。モミジは鼻歌も一緒に歌っており、たまにハモっている。

 即興のメロディにハモるのはそこそこ難しいことだと思うが、モミジは綺麗に音程とメロディを合わせているようだ。


 モミジは最近よく眠れているらしい。ユミはたまにモミジの部屋に行き鼻歌を歌って一緒にお昼寝をしたりするようにしているが、ユミがいない時でもモミジは自分で鼻歌を歌って眠れるようになったそうだ。特に鼻歌に耐性が付くということも無く、上手くいっているようだ。目の下のクマもすっかり無くなり、元気いっぱいでよく笑う子になった。


「お待たせしましタ」


 運動場の扉が開いてシュンレイが入ってきた。モミジはびっくりしたような顔をして瞬時にユミの影に隠れた。


「モミジちゃん、大丈夫だよ。シュンレイさんが来ただけだから」


 モミジはそれでも首を横にブンブンと振りユミの影から出てこない。どうしたのだろうか。


「ユミさん以上に本能的に感じ取るタイプなのでしょウ」


 特に殺気を出していないシュンレイに対してここまで怯えているという事は、シュンレイの強さを見抜き、感じ取っているという事のようだ。


「えっと……。ごめんなさい……」


 モミジはユミの影から少し顔を出し、小さい声で謝罪する。


「えぇ。構いませン。ユミさん、少し歌ってあげてくださイ。きっと落ち着くと思いますかラ」

「へ?」

「モミジさんは()()に優れた子だとザクロさんから聞いていまス。ユミさんが落ち着いていルことが分かれば安心するでしょウ」


 どういう仕組みか全く分からないが、とりあえず歌えば良いらしい。ユミはモミジが落ち着けるようなメロディを奏でてみた。

 するとモミジは目を閉じその歌に合わせて横揺れしている。メロディを取り込んでいるような感じだろうか。暫くそのまま歌っていると怯えて強ばっていた体が少し緩んだように見えた。そして、次第にモミジはユミのメロディにハモるように音を重ねて揺れる。完全に怯えは無くなったようだった。


「面白イ……」


 ふとシュンレイの方を見ると、瞼が少し開き金色の瞳でモミジをじっと見ていた。一体何を考えているのやら。

 ユミには分からないが、きっとこの後突拍子もないような事を言うのだろう。そんな気がする。大抵瞼が少し開いた状態で思考している時はとんでもない事を考えていたりすると最近では分かってきた。シュンレイが策をめぐらせていたり深く思考する時の様子なのだろうと思う。


「モミジさん。一緒に手合わせしましょうカ」

「てあわ……せ……?」

「えぇ。ユミさんと一緒に私に向かってきて下さイ」

「ユミちゃんと一緒……?」


 モミジは不安そうにユミを見上げている。一体どうしろと言うのだろうか。


「ユミさんの動きに合わせて向かって来てくださイ。ユミさんは歌いながらいつも通りで問題ありませン」

「えぇと……」


 問題なくはないと思うのだが。いつも通り歌いながらという事は、殺気がバチバチにぶつかり合うという事だ。そんな所にモミジを置いておくのは抵抗がある。先程あんなに怯えていたのだ。シュンレイの殺気なんて感じたら泣いてしまうのではないだろうか。


「ユミさん。いきますヨ。早く歌ってあげないとモミジさんが呼吸出来なくなってしまいまス。いいんですカ?」


 全然良くない。

 モミジを殺す気かッ!?

 

 相変わらずめちゃくちゃな事を考える人だ。

 言われた通りいつも通り歌って突っ込んでいけばいいのだろう。


「♪♪〜♪〜♪♪♪〜♪〜♪♪♪〜〜♪〜♪♪〜〜♪〜」


 ユミは歌い地を蹴った。その瞬間シュンレイからいつも通りの鋭すぎる殺気が放たれる。


「あははっ! 滅茶苦茶ですねっ!」

「えぇ」


 ビリビリと肌が痺れるほどの殺気を浴びる。相棒が狂喜乱舞しているようだ。高揚感が溢れ出して止まらない。

 先日教えてもらった緩急を付ける戦術はほぼマスターした。あとはバリエーションを増やしたいところだ。あらゆる方向や角度から打ち込み、練度を高めていく。

 

 今日の手合わせではどんな風に攻めようか。挑戦してみたい動きは沢山ある。

 ユミはイメージを歌に乗せる。すると体がふわりと軽くなって、その動きが出来そうな気がしてくる。

 

 と、その時だった。突然なんの前触れもなく、ユミの背後にぶわっと大きな気配が生じた。

 鋭く重く、そして慣れ親しんだような気配。まるで相棒のような気配が。


「来ましたカ」


 戦いながらも振り返って見てみれば、その強烈な気配はモミジだった。まるで相棒が具現化したかのような気配を放っていた。

 モミジはユミと同じように鼻歌を歌っている。いつものようにハモる様に音を重ねている。その音からモミジの気持ちが伝わってくるようだった。


『モミジもユミちゃんと一緒に戦う!』


 そんな声が聞こえた気がした。

 

 次の瞬間、モミジは一気に動き出した。ユミの攻撃の合間を綺麗に埋めるように攻撃を繰り出し始めた。

 パワーやスピードはまだまだ至らない部分が多いがタイミングや位置取りが非常に優れている。まさにユミが欲しいと思う所にいるのだ。


 これは楽しい。鼻歌のテンポや旋律でやりたい事が出来てしまう。

 言葉なんて不要だった。また、モミジのハモリの様子からもモミジが見て感じたものが感覚的に分かる。視点が2つあって、同時に見る事が出来るような感覚である。

 非常に不思議な感覚だ。これであれば別角度からの同時攻撃も可能だ。そんな攻撃をしたらシュンレイは一体どんな動きをするのだろう。気になって仕方がない。


 ユミは旋律を変える。気になったらやるしかない。


「ユミさん。何か面白い事を考えていますネ?」

「あははっ! バレました?」


 ユミは一気にシュンレイとの距離を詰める。既にモミジは背後に回り込んで拳を振り上げている。

 

 これならいけるかもしれない!


「成程。いいでしょウ。やるじゃないですカ」


 攻撃が当たる瞬間、シュンレイはそんな事を言って突然消えた。

 そのためユミとモミジの攻撃は空を切る。


 一体何処だ!?

 上か? 下か? それとも背後?


「とても良い攻撃でス。もっと精度を高めれば、SSランクすら簡単に狩り取れるでしょウ」

「あれ……?」


 背後からシュンレイの声が聞こえたと同時に、ガシリと着ていた服の背中を掴まれている感覚がする。

 これは嫌な予感しかしない。

 そして次の瞬間にはユミとモミジは、ポイと投げられ宙を舞っていた。


 2人で派手に床を転がる。モミジは大丈夫だろうか。ふと横を見るとモミジは痛みで顔を歪めてはいるが何とか立ち上がろうとしている。こんなに小さい身体でもガッツが凄いなと思う。ユミも負けていられない。ユミはスっと立ち上がり、モミジを持ち上げて立たせる。


「モミジさん。アナタの戦いをしっかりユミさんに伝えなさイ。真似っ子だけしていてモ、永遠にユミさんの劣化版にしかなれませン」

「はい……」


 モミジの戦い方か。一体どんなものなのだろうか。

 すると、モミジは鼻歌を歌い始めた。そしてユミよりも前に出て、一気にシュンレイへと向かっていく。


「そういう事か……」


 ユミは何となく感じ取る。モミジがやりたい事、得意な事が旋律から何となくではあるが伝わってきた。それであれば自分のアプローチの仕方は決まった。ユミはモミジの旋律に自分の旋律を重ねる。別々のメロディが綺麗に噛み合い呼応するように音楽になる。


 ユミはユミの得意なやり方で、モミジと連携しながら攻撃を打ち込む。モミジは小柄な体格を生かし多段攻撃を繰り出していた。また小回りも利くようで、手数の多さは凄まじかった。その手数の多さはユミの大胆な切り込みを綺麗に補強していく。非常にやりやすい。大振りな攻撃を反撃を恐れずに繰り出すことが出来る。楽しくてたまらない。

 だが、それでもシュンレイには届かない。何がどう転んでも圧倒的な力量差は覆る事はなかった。2人で連携しても全く届かないとなると、本当に果てしなく遠い存在なのだと改めて思わされる。


 ユミとモミジは何度も何度も投げ飛ばされ床を転がった。当然痛いのだが、それでもモミジは、ユミと同じように笑っていた。楽しんでいるのだろうと思う。様々な戦略を試し続けると連携の精度がより一層高まった気がした。フェイクすら連携して繰り出すことが出来る。

 こころなしか、シュンレイも楽しんでいるように見えた。


***

 

「はい。そこまででス」


 バンッと凄まじい音がなり、ユミは首と背中に激しい痛みを感じた。いつものやつだ。首を捕まれ床に背中から打ち付けられたのだろう。

 ふと横を見ると、ゼハゼハと息を荒らげたモミジが同じように床に打ち付けられていた。


「2人ともエネルギー切れでしょウ。ご飯にしましょうカ」


 ユミもモミジも返事すら出来ない。荒れた呼吸音が2つ運動場に響くだけだ。

 2人はシュンレイに担がれる。ユミは右肩に、モミジは左肩に。


「いつもすみません……」

「ごめんなさいです……」

「えぇ。構いませン」


 そして、担がれた状態で運動場を後にしbarへと向かった。

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