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私は少女を飼う  作者: 雪の降る冬
9/9

少女を買う8

 私には借金がある。

 父親に頼み込んで借りた200万。

 返済期限無し、利子無し。

 ただし、条件として私は父親の駒になること。


 当時、私はどうしてもお金が必要だった。

 現金を用意する必要があり、私にはお金を集めるほどの力はなかった。

 だからこそ、私は必死に頭を回転させた。

 そして出た答えが組長として父親に懇願した。

 自分を売り込み、将来性を示した上で、私を自由にする権利を商品にした。

 結果、200万と100万が私に入って来た。


 200万は私の借金で、+100万は支払う必要のないお金。

 私への投資金とのことだった。

 つまり、私自身は私を200万の価値があると見ていたが、父親には300万の価値があると判断したらしい。

 そのおかげで私は今でも父親の言いなりだ。

 

 ただし、私はいつでもお金を返せる。

 投資として受け取った100万を適当に宝くじと競馬に投げ込めば、100倍近くになった。

 当時の私はすごく運が良かったみたいだ。

 結果、投資金で増えたお金を使えば返せる。

 

 しかし、私はそれをしない。

 今はまだ、それを一つの手段として手元に置いているだけだ。

 一番としての理由は、稼いだお金ではないからだ。

 投資として渡されたお金、本来ならそれを元手にさせるために渡したはずだ。

 本来描いた道筋では、私が適当に賭博で溶かしておいて、事業を起こそうとして失敗したと言う体にするはずだった。

 しかし、私は失敗した。

 投げ捨てた分だけ倍になってしまった。

 しかも、当時の年齢的に下っ端に代行をさせていたため、その代行が大当たりを当てたと馬鹿正直に騒いだ。

 父親にもきっとその話を聞いていたはずだ。

 結果、事業で成功した金という言い訳もできなくなり、元々の計画が甘かったと思い知らされた。


 父親に自分の将来性をアピールした手前、賭博で増やしたお金では許されはしないだろう。

 だからこそ、このお金は最後の手段だ。

 本当に渡せなくなった時のものだ。


「紫、お前のた……」

「親父!」


 父親が口を開くと、襖を勢いよく開き、声が響く。

 その時、父親の目が鋭く睨みつけるような目をしていたのを私は見逃さなかった。


「家族の会話中だ。」

「き、緊急です!マル暴の奴らが来ました!」

「何?……別の日と聞いているが……」

「分かりませんが、親父を出せと言ってます!」

「……お前はここにいろ。」


 重たい腰を持ち上げるように立ち上がった。

 私は父親の言葉を従うようにその場にとどまった。

 父親の目と言葉は、殺気を放っていた。

 きっと、私が従わなければ、後がなかったかもしれない。


 10分程度他の部屋が騒がしくなる。

 まるで部屋が強盗に荒らされているかのような騒音。

 私たちの部屋がマル暴によって荒らされているのだろう。

 ここで反抗すれば、何か隠し持っていると思われるから、誰も抵抗しない。

 ここでは、正義と悪が逆転した政界を拝める。


 マル暴が暴れ回り、騒音が徐々に近づいてくる。

 きっとこの部屋にも来るだろう。

 私は隠れたほうがいいだろうか。

 いや、隠れでもして、変な疑いを持たれる方がアウト。

 ここは素直に座っていよう。

 隠すことなんて、何一つとしてないのだから。


「こっちの部屋も調べさせてもらうぞ。」


 部屋の外から声が聞こえた。

 襖が勢いよく開き、大勢のいかつい男が立っていた。

 その中でも、取り分け異彩を放つ大人に目を向ける。


 驚く姿を見せず、当たり前であるかのように佇む。

 本職のヤクザと変わり映えしない風貌に顔が引き攣りそう。


「嬢ちゃん、肝が座ってんな。」


 その男に声をかけられる。

 ドスの効いた低い音からは、思いの外優しい言葉が出て来た。

 私は静かに頭を下げ、その場に鎮座した。


 異彩を放つ男は周りに指示を煽り、部屋の中を散策する。

 ただ、先ほどまでは荒々しかった動きとは違い、妙に落ち着いた動きとなっていた。

 もしかしたら、私のような小娘を脅かせないようにとしているのかもしれない。

 しかし、異彩を放つ男だけは、変わらずだった。


 数分の嵐が去ると、何事もなかったかのようにマル暴は撤収していった。

 元々モノがあるとは思っていないから、形だけをとりに来たのかもしれない。

 こちらとしては傍迷惑だけど、向こうの面子に関わる話なのかもしれない。


「マル暴の対応、お疲れさまです。」


 部屋に戻って来た父親に一応労いの言葉をかける。

 私でも、今回のような嵐にあうことには同情する。


「安い言葉は良い。」

「それより、そろそろ時間だろう。」


 時計に目を向ける。

 確かにそろそろ移動をした方がいい時間ではあるが、余裕はある。

 ただ、言葉の裏を考えるに、さっきの片付けで忙しくなるから早々に帰れと言うことだろう。


 私もお邪魔になるためにここは居たいと思わない。

 ゆっくりと帰路に着こう。


「おい、どこに行く気だ。」

「時間ですから、帰ろうかと。」

「車を用意するから少し待て。」

「いえ、今から人手はいるでしょうから、私は歩いて戻ります。」

「はぁ……。」


 父親は頭を抱えるようにため息をつく。

 あまり拝むことのない顔に珍しさを覚える。


「おい、誰か車の手配をしろ。」


 父親は部下に働きかける。

 いつにもない顔つきに困惑を覚えながらも、指示に従い、部下の人間に運転を任せる。

 

 空が暗く、星のように輝く町を眺めつつ父親の思惑を思考する。

 まさか、娘だからと心配するようなタマでもないし、何を考えているのか。

 やはり、恩を打っているつもりなのだろうか?


 そうなると、何かしなければいけない。

 恩を返さなければ、それを理由に何かさせられるかもしれない。


「……は?」


 本当に一瞬。

 景色を楽しんでいただけだった。

 私の目に、見覚えのあるシルエットを見つけた。


 見間違えかもしれない。

 なんせ、月日が経っている。

 朧げな記憶が正しいとは限らない。


「今すぐ車を止めて!外に出るわよ!」

 

 ただ、最悪の想定をして動かなければならないと口が動いた。

 怒鳴りつけるように部下の人間に声をかける。


 急いで駐車させ、男のいた場所へ走り込む。

 移動していることを考慮して、さらに先へ進む。

 そして路地裏に逃げ込んでいないか確認しながら早歩きで人を追い越していく。


「……、見つけた。」


 思っていたように路地裏を歩いている。

 怒りを内に秘め、毅然とした態度をとる。

 部下の人間には裏から回ってもらい、私は前から動いた。


「あなた、そこで何をしているのかしら?」

「……ひっひっ。」


 薄気味の悪い顔を浮かべ、こちらへ顔を向ける。

 吐き気がするような、記憶にある顔が視界に入る。

 私は、こいつのことが本当に嫌いなようだ。


「お嬢さんから声をかけてくるとはな……。元気にしてたか?」

「元気に?良くそんなことが言えたわね?今ここで私を不機嫌にさせるのも大概なさい?その首、あっという間に飛ぶわよ?」

「おー、怖い怖い。流石、組の人間。やる事、なす事、最低だね。法に裁かれないのかい?」


 相手の言葉に意識を傾けるな。

 あくまでも、文字として受け取れる。

 深く考えるな。

 客観的に、傍観者として話せ。

 これは私との会話ではない。


「法ぐらい、あなたのした事に比べれば問題ないわ。」

「いやいや、俺のやったことって、何もしてねえって。……あんたが止めさからさ。」

 「なら、過去にしようとしたこと、これからしようとした事と訂正しようかしら?」

「過去は時効、今は何もしてねえって。」


 その言葉に信憑性があるわけない。

 裏に部下の人間が回ったのを確認した。

 このまま、押さえ込んで…………ちっ。

 やっぱりいたか。


「嬢ちゃん、顔が引き攣ってるぜ?どうした?」

「わざとに決まってるでしょ?……お迎えね。」

「そうみたいだな。じゃ、行かしてもらうぜ。」


 私の横を通り過ぎるように、男は歩く。

 まるでこちらを煽るかのようにだ。


 比べて私は部下の人間の愚行に腹を立てていた。

 そして、情報を手にした事で、ギリギリ怒りを抑え込めていた。


「お嬢、良かったのですか?」

「お前がそれを言うのか?」

「はい?」

「私の後ろに2人、お前の裏に1人、スナイパーが1人。」

「え?」


 本当に気づいていなかったかのように辺りを見渡す。

 使えない部下だ。

 だからこそ、問題が起きるはずがない運転手として選ばれたのだろう。


「他の組との癒着を確認。何かしらの取引により身柄を保護してもらっている。この言葉をお父様に伝えておいて、それからこれを。」

 

 私はペンと紙を取り出し、文字を書く。

 そして、手紙を預ける。


「ここからは1人で歩いて帰るわ。」

「いや、ですが……」

「伝言が優先に決まってるでしょ?……あなたの失態を帳消しにしてあげてるの。早く動きなさい。」


 睨みを効かせる。

 10ぐらいの差がある少女に、男は体をこばわらせた。

 私は静かに動くと、部下の人間も走って行ってしまった。

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