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01――腹が減っては話はできぬ


 チュンチュンと雀の鳴く声とほんの少しの肌寒さに目が覚める。


 一瞬自分の状況がよくわからなくて少し首を動かすと、こちらを戸惑った表情で見ているヘーゼルの瞳と視線がぶつかった。部屋の中に差し込む太陽の光が、昨日拾ってきた女の子を照らしているからか、キラキラと輝いて見える。


 昨日も思ったけど、やっぱり美少女だよねこの子。ブロンドの髪に真っ白な肌、零れそうなぐらい大きな瞳にさくらんぼみたいに色鮮やかな唇。日本人ではありえない色彩に、言葉が通じるのかが不安になる。日本在住なら見た目は外国人でも日本語しか喋れない子とかもいるらしいけど、この子はどうだろう?


『――――』


 可愛らしい声で何事か呟いた少女だったけれど、残念ながら聞き取る事ができなかった。多分英語ではない、第2外国語はドイツ語を選んだんだけど、それでもなさそう。


「えーと、アイムサナ。ホワットユアネーム?」


 英語じゃないと思いつつ、ソラで言えるのは英語ぐらいしかない。拙いし覚束ない発音のせいで通じないかもしれないけれど、何もしないよりマシだと思った。



 でも残念ながらやっぱり通じなかったみたいで、少女はコテンと小首を傾げた。そこからはヤケクソで各国の挨拶を並べてみたけれど通じたものはなくて、最後の方は肩で息をしながら言ってたから若干女の子は私に怯えているようだった。


 そりゃそうだよね、いきなり知らない場所に連れてこられて言葉も通じない。部屋の中にいた私とは言葉は通じないし意思の疎通はできないし、私が彼女の立場だったら絶望しかないと思う。


 あ、そうだスマホ! 翻訳アプリならどこの国の言葉かわかるかもしれない。お願いだからどこかの言葉が引っかかって、と祈りながら喋るように促すと、彼女は再度何かをポソリと呟いた。


 期待して画面を覗き込んだのだけど、がっかりな事に該当する言語はありませんという無慈悲なメッセージが表示されていた。という事は、登録されている言語の中にはないって事だよね。このアプリは翻訳アプリの中でも大手の会社のものなので、大抵の言語は網羅しているはずなんだけど。アフリカにいる少数民族の言語まで翻訳できるってたまに話題になっていたりするから、これに登録されていないとなるとよっぽどマイナーな言葉か……あるいは地球上に存在しない言語だったり?


 いやー、まさかまさか。そんな事あるはずない、地球上に存在しない言葉なんて、そんなのを話すのは宇宙人ぐらいでしょ。彼女はどう見ても宇宙人には見えないもの。圧倒的に可能性が高いのは最初に思い浮かんだ、マイナーな言語の方だと思う。


 こうなったら原始的だけどジェスチャーだ、ボディランゲージだ。それと名詞を組み合わせれば、もしかしたら意思疎通ができるかもしれない。


「私は佐奈です、あなたは?」


 殊更意識してゆっくりと、自分の名前のところは私自身を指差して、問いかけの部分は手のひらを上に向けて女の子に促す様に向ける。通じろ通じてと心の中で祈りながらしばらく見つめていると、女の子はかすれた声で言葉を発した。


『……ミーナ』


 ただその後ケホケホと咳き込んだので、慌てて立ち上がって冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、コップに水を注いで彼女に渡した。


 最初はちょっと怪訝そうにコップを見つめていた彼女だったけれど、ノドの乾きとイガイガ感を取る方を選んだのかコクコクと飲み始めた。結構多めに入れておいたのに全部飲み干したところを見ると、どうやらかなり喉が乾いていたみたい。


 水を飲んで落ち着いたのか、今度はそのかわいいお腹からくぅーと音が鳴った。ご飯を食べたくなるのはいい事だと思う、ミーナちゃんだっけ? 彼女を家に帰すなり然るべき所に預けるなりするには、何はなくとも元気がなくちゃダメだもんね。私も朝ごはん食べてないから、ふたり分のご飯を準備してこようっと。


 恥ずかしいのか頬を赤くした彼女に身振り手振りでご飯を用意してくる事を告げて、キッチンに移動した。食パンを焼いて、目玉焼きとベーコンにサラダでいいか。サラダは自分用に買ってあるのがしなしなとしてきそうなので、全部使っちゃおう。


 パンにはマーガリンを塗って、たっぷりといちごジャムを載せる。もしかしたらいちごが嫌いかもしれないから、りんごジャムを載せたものも用意した。どちらか好きな方を選んでもらって、残った方を私が食べればいいや。


 お皿を持ってどっちがいいかジェスチャー混じりに聞くと、彼女は真剣な表情で悩んだ後で小さな指でいちごジャムを載せたパンを選んだ。じゃあ私はりんごジャムを自分の席に置いて、床に直に座る。それを見た彼女――ミーナちゃんでいいか、真似するように床にちょこんと座った。


「いただきまーす」


 両手を合わせてそう言って食べ始めると、ミーナちゃんはまるで祈りを捧げるように両手を組み合わせて目を閉じた。小さな口が何やらパクパクと動いているから、何か決まった祝詞みたいなものを言っているのかもしれない。やっぱり外国の人って宗教を大事にしているんだね。もしかしたらミーナちゃんはキリスト教徒なのかも?

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