私とペットたちの日常
私は、動物が大好きである。そんな私の家には犬が一匹、猫が一匹、ハムスターが三匹に、さらにはゾウまで一緒に暮らしている。これは私とペットたちが繰り広げるほんのちょっとした日常である。
「ふぁ~、みんなおはよう。」
私はあくびを噛み殺しながらペットたちに挨拶をする。私の朝はいつも早い。なぜならペットたちに起こされるからである。今日も犬のコーヒーが私をベッドまで起こしに来てくれた。コーヒーは、一番のしっかり者で皆をまとめてくれる頼れるリーダーだ。だけどたまにこんがらがってドジをする時がある。その時の申し訳ないような表情がギャップ萌えするんだよなー
窓際にあるキャットタワーの頂上でクッションに包まっているのが猫のシロである。シロはクールで、撫でようとしてもすぐ逃げるし、ねこじゃらしで一緒に遊ぼうとしても三往復くらいしたら飽きたと言わんばかりにどこかへ行ってしまう。まるで私が弄ばれてるみたい…
でもシロは決して構ってほしくないと思っている、一匹オオカミというわけではない。(猫なのに狼っておかしいね)
実際、私がずっと構ってあげてないと自ら体を擦り寄せてきたり、膝の上に載ってきて撫でてと要求して来たりするし。単純にシロはツンデレさんなのだろう。私がメロメロになるのは自然の摂理でしょう?
私はシロを撫でようとして逃げられた後、部屋を出てリビングへ向かう。扉を開くとなんと前には青い大きな壁が立ち塞がっていた。壁の中央をよく見ると小さな可愛らしい尻尾が左右に動いているのが見えたので、これが壁などではなく大きなお尻なのだと理解する。この大きなお尻の持ち主はこの家に一頭しかいない。ゾウのエレンである。
「もー、エレン。家に入ってきたら駄目じゃないか!お前の部屋は庭に作ってあげたろう?」
エレンは小さいころから部屋の中で飼っていたが、最近大きくなりすぎて、小回りが利かなくなってきたことから、庭に新しく部屋を作ってあげたのだ。しかし当の本人は長年住んだ家が居心地良いらしく、朝になると巨大な壁が出来上がってしまうのだ。やれやれ
「ほらエレン、そこにいると通れないでしょ。」
私がエレンのお尻をぺしっと叩くとその巨体をのそっと起こさせ、ゆっくりな足取りでと庭へと帰っていく。庭に出るとき、ちらっと何か言いたげな表情で私を見たが、たぶん自分一人だけ外なのがさみしいのだろう。私も何とかしてやりたいが、エレンももう子供じゃないんだから甘えん坊を卒業してほしいものだ。
リビングに入るとカラカラカラという心地よい音が聞こえる。その正体は、ハムスターのカイ、ライ、マイの三兄妹が車輪を転がし走っている音だった。よくこんな朝から元気でいられるもんだと感心するのと同時に、これを見ると笑顔になれて良い一日を送れるような気がする。
「今日も仲良しだなー君らは。」
仲良し三兄妹に元気を分けてもらった後、ペットたちのご飯を用意する。自分のことなど全部後回しにしてペット最優先で考えてしまうのは、自分でもつくづく親バカならぬペットバカだな~と思う。
「さあ、みんなご飯にしようか」
私が、みんなに声をかけるとワン、ニャー、パオーン、キュッと四者四様に鳴いた。
ペットたちのおいしそうに食べている姿をしばらく堪能した後、ようやく自分の支度を始める。窓の外から差し込むすべてを包み込むような穏やかな日差しが、今日も楽しくて幸せな一日になることを匂わせていた。
お昼ご飯を食べ終わり、満腹感と温かい日差しに照らされ、私はソファでまどろみの中を彷徨っていた。このまま眠気に抵抗しなければ一瞬で夢の世界へ旅立てそうだ。そして、私は流されるままに夢の中で羊をもふもふしようとして………しかし、最悪のタイミングでピンポーンというインターホンの音により幸せ空間は霧散した。私はこの幸せ空間を壊した相手を少し恨みながら、お返しとばかりに居留守を使うことを決め、もう一回寝ようと思った。のだが、それもその音を聞いたコーヒーが私のお腹に乗ってくるという雑な形で阻まれてしまったので、私は渋々モニターを確認することにした。そこに映っていたのは『〇猫の宅急便』の制服に身を包んだ20代くらいの好青年で、手には中くらいのダンボールを持っていた。ここで私は先日興味本位で通販で買った商品があったことを思い出した。
「すいませーん玄関の前に置いといてくださーい」
居留守を決め込もうとしていた手前、出にくかった私は置き配してもらうことを選択した。そもそも動物は好きだけど人と関わるのは苦手なんだよね…
すると、「かしこまりました!」という元気な声で返され、ちょっと申し訳ない気持ちになった。だがそれはそれとして、しっかりと宅配業者の車が走り去るのを見届けてから、私は商品を入手した。
テーブルに置いて、早速中を開けてみると、そこには文字を打つコマンドと小さな画面を併せ持つ機械、いわば昔の携帯のような形をしたものが入っていた。
「ついつい気になって買っちゃった、【ペットの気持ち翻訳機】…か…」
説明書にはそう商品名が書かれていた。さらには、【どんな動物の言葉も人間語へ変換できる!】とも…
ペットたちとは長年一緒にいるので言葉は通じずとも意思疎通はできていると思う。だからといって人間の言葉で会話ができるという、またとない機会を動物愛好家であるこの私が見逃す訳がない!もしもこれが偽で間違っていたとしても、それこそ私たちの絆が飼い主とペットという次元を超越しているという証明になるのだから、どっちに転んでも面白いなと思った。
「ふふ、お手並み拝見といこうかな。」
私はまず近くで寝ていたコーヒーに使ってみた。
「ほら、寝てないで少し鳴いてみてくれない?」
そう言って機械をかざしてみると、意図を汲み取ってくれたのか「ワン、ワン、ワウーン?。」と鳴いてくれた。
「さて、なんてしゃべったのかなー」
ワクワクしながら早速画面を見てみると、そこには……
「なにそれ?また主が変なことしてる…」
と表示されていた。
「変なこととはなんだ!てか『また』って…。いつも変なことしてるって思ってたの?……」
私は衝撃な事実にショックを受けながらも、この機械が本物かもしれないという可能性に胸が高鳴るのを感じた。
「協力してくれてありがと。」
私が感謝を込めてコーヒーの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに「アウーン」(気持ちいい!)と鳴いて、また眠りに落ちていった。
次にキャットタワーで丸くなっていたシロに使ってみた。いつもクールで雪魄氷姿のシロ、一体どんなことを話してくれるのか…ただ、このまま翻訳機を隠さずにいっても確実に警戒されてしまいそうなので、袖の中に隠しつつ、絶妙な距離を保ってシロの方を見ていると…それに気づいたシロが無表情に「……………ニャー…」とだけ鳴いた。
「それだけ?」
あまりの短さに私は内心落胆する。実はこの翻訳機を買って一番楽しみにしていたのがシロとの会話なのである。他のペットたちと比べ甘えることも少なく、私から触りに行っても逃げることが多い。本当は私のことをどう思っているか知りたい!そんな一心だったが…さっきは本物に間違いないと思ったこの機械も、こんな短さじゃ翻訳できないだろうなと半ば諦めて、画面を見てみると…
「ご主人様大好き、撫でてーーー」
と表示されていた。
…見てはいけないものを見た気がする。今までのシロのイメージが崩壊した。いや、ちょ、ちょっと待って!さっきの一鳴きにこんなに言葉が詰まってたの?普通に考えてありえない。だってあのシロだよ?いつもどこか冷めていて、高嶺の花だったシロがこんなに私のことを…!
しばし時間が経ち平静を取り戻した私は、でももしこれが本当だったらいいなという一縷の望みにかけて、ある検証をしてみることにした。
私はまずこの離れている距離をどうにかすることにした。いつもはこの距離から互いの駆け引きが始まり、逃げるな~シロ~と呪文のように唱えながら近づくものなのだが…(結局は逃げられる)。今回は翻訳機があるとはいえ、慎重には慎重を重ね中腰で1メートルを3分かけて近づく。シロがその間変な人を見る目でこちらをずっと見てきたが、正直心が折れそうだったがなんのそのである。私は手で触れられる位置まで来ると一旦心を落ち着かせた。
私はふと思う。これほど誰かのために神経をすり減らして考えたことも、ちょっとした変化で喜びを感じて笑顔になったことも今まであっただろうか?いや、ない!たぶん恋愛の駆け引きよりも緻密で繊細で濃密な時間をこの子らと共に過ごしてきた。だからこそ、私は今のこの瞬間がとても幸せだ。
そして、私は決心し手を伸ばす。シロは警戒心の無い様子で逃げない!残り30センチ………20センチ……10センチ………このわずかな距離が程遠く感じたがようやく…ふさふさ、なでなで………ついにシロのあごの下を撫でることに成功した!純白の毛並みは想像通りにふわふわで、ほんのりと体温が伝わってくる。
…ゴロゴロゴロ(気持ちいい~それにしてもご主人様はいつもタイミングが悪いんだよな~)
シロは気持ちよさそうに目を細め、幸せそうにしている。私は今までシロの気持ちをちゃんと読んであげられてなかったんだな~タイミングさえ合っていれば撫でさせてくれていたという事実に飼い主失敗だなと反省する。ペットたちにも感情があって、個性がある。彼らの気持ちを読み取ってあげるのも飼い主の務めだと思った。
翻訳機への信頼がMAXになった私は、次にハムスター三兄妹に試してみた…のだが残念なことに翻訳機は反応しなかった。「キュッキュッ」と鳴いてはくれたが、ハムスターはさすがに対象外だったらしい。コーヒーやシロは私への気持ちなどが知れたが、カイとライ、マイは三兄妹ならではの会話が展開されると思った。まさしく私には想像もできないような領域だったために私は肩を落とした。一方そんなことは知らないとばかりに、ゲージ中でカイとライは追いかけっこを、マイはエサをほっぺいっぱいに蓄えていた。
「ねぇ~?君たちの会話が知りたいよ~」
「キュキュッ?」
私はひざを折りゲージにそっと触れ切望する。こんなに近いのに、されど遠い三兄妹は、一瞬こちらを向き何か伝えたかと思うと、また仲よく遊び始めた。
↓
気を取り直してゾウのエレンに使ってみた。
…パオーン
「何で外に出されたんだろう、どうやったら中に入れてもらえるの。諦めちゃでめよエレン。ドア壊しちゃおっかな♪」
正直怖い。パオーンでここまで訳すのもそうだし、この機械が偽物だと思っててもここまでリアルなことを書かれると信じざるをえないし、ゾウがこんな頭いいのも恐いし…ドア壊すって何?
この翻訳機はそれ以来封印することにした。この翻訳機のせいでいろんなことを知って、それがうれしかったり、その逆だったり。
とりあえず、エレンは家の中でもみんなと暮らせるように善処しようと思う。
これは動物好きの私とそのペットたちのほんのちょっとした日常である。