オープンチュートリアルー2
開とスミレがファミレスで晩飯にありついている時、竜胆とジェイソン、そして夏季崖は大学地下で戦闘訓練という名のデータ測量が行われていた。
そしてこの町にはニゲラウイルスによる成果で得られるような力を持ち者たちの組織がもう一組あった。
その組織は国家権力の一つであり、世間一般に対しては当たり前のように秘匿されている組織、第無課である。
この組織こそ夏季崖を監視するために竜胆を差し向けた人物が所属している場所であり、ニゲラウイルスの適合者たちが最も多く集まり、最も強力な軍団となっている
「あらまぁ、華ちゃんが夏季崖の手に落ちちゃったかぁ」
「そんなにのんびりしている場合か!」
ネットカフェに二人組の男がいた。外見は一般人を装っているが、第無課の一員である。
一人は入口の壁を背もたれに緊張感なくつぶやいているが、もう一人はネットカフェのパソコンを自分仕様に作り変え、大学のネット環境をハッキングすることで現状を把握していた。
のんびり話している男の健康的な顔とは違って、ハッキングをしている男はヘッドホンをして目の下に不健康な隈を作っている。
「全く、夏季崖め、やつのサイバーバリアを破壊するまでにこんなに時間食っちまった。大学が実験に使われたのは約五時間前、ほぼ全滅だ」
「そりゃあ抗体も打ってなければ死ぬのが常識でしょ、生きてたらそら化け物だ。ま、華ちゃんは化け物だったわけだけど」
ハッキングした画面には大学の当時の状況が映し出されている。
一人の男が名前をいう竜胆が立ち上がっている数分前の画面には一人の少年が走って大学を抜けていくところが映っている。
二人の興味と警戒はその一人の男に向かっていた。
「何者だろうね、この子」
「知らねぇよ! ニゲラウイルスに適合した挙句、契約者になっている可能性も高い。そんな化け物、第無課の長官に知られれば実験動物行きだ」
「ははっ。長官に見つかったら即処刑だろうよ。その前に確保し、俺たちの協力者に引き入れるか、夏季崖側の人間として報告するかの二択だねぇ」
へらへらと笑みを浮かべながら挑発的な目でハッカーをみる男の名は竜泉 裁、第無課の中で放浪者として疑念と尊敬を集めている男だ。第無課の中でも屈指の実力を持ちながらその行動が怠惰的であることが多いことから皮肉として放浪者として呼ばれている。
「適合者が契約を結んだ前例はない。夏季崖の実験が不十分で、適合者になっていない可能性の方が高いが、契約を結んだのは確定だろう。幸いデータに一致する契約者はいないかった。竜泉の実力なら捕獲はたやすいだろう」
「なんだかなぁ、きな臭くないか郷宮? 夏季崖の派手な動きしかり、契約者がその場にいたことしかり。ここまでの状況が一気に出来上がる。その場所に俺らが前もって派遣された。長官の狙いは分からないが、タイミングが良すぎるとは思えないか?」
郷宮と呼ばれたハッカーは目をつむり少し考え込む。
「……あれか。長官クラスの上官共が隠れて探している聖槍」
「それがこの日本に? あれはキリスト教が生み出した産物だろう?」
「ただの聖遺物だったら長官たちも放っておいただろう。俺らみたいな平社員にはもちろん情報は開示されていないが、俺の手にかかれば秘匿情報を盗み見ることくらいはできる。聖槍は完全支配能力を持った聖遺物だ。自然現象、人工物、人の精神でさえも完全に掌握するチートアイテムだ」
パソコンには古びた槍や、汚れ一つない槍など、数本の槍の画像が映し出されいる。
秘匿情報の中には槍の出現場所と時期が書かれている。
「……それはいいな」
「何を考えている?」
その話を聞いて悪い顔をする男がいた。
「そんなものがあるならちまちまと適合者を殺す必要はなくなる。まさか国を守る組織の上層部が国盗り兵器を探しているなんてな」
「もう一度聞くぞ竜泉。何を考えている?」
「先に手に入れるぞ聖槍を。適合者や夏季崖なんて聖槍を手に入れれば何も問題はない」
聖槍を手に入れれば第無課の中でくすぶる必要もなくなる。
そして、おそらく聖槍を狙う組織は第無課以外にもあるだろう。
上層部は他組織に対抗するために第無課を作った可能性もある。
「やっと面白くなってきやがった」
心底から笑顔になったことなんて初めてかもしれない。
いびつな笑顔を浮かべ、竜泉は駅前のネットカフェから出た。
聖槍の出現は明日の正午、例の大学。
刑事っていうのは張り込みをするものなのだ。
◇
ファミレスで満足気にあくびをする二人組がいた。
「明日、私は用がある。開は病院に行くのだろう?」
「ああ。用事って何なんだ?」
チキングリルセットはお気に召したようで、ふんすとでも言いそうな表情をしている。
「私が契約者になった理由はあるものの破壊なんだ。明日、それを壊しに行ってくる」
「何時くらいに出るんだ?」
「正午前かな」
「ならコンビニで朝飯だけ買って帰るか」
まるで学校に行く時間を聞いてる母と子の会話のような雰囲気で明日の話をしている。
しかし、開はスミレが戦闘になることを前提で動いているとは思ってもいない。
ファミレスの会計を済まし、家への帰路の途中にあるコンビニに入る。
「いらっしゃいませー、契約者一名と適合者一名入ります」
「開っ!」
コンビニ店員の鋭い蹴りが襲い掛かる。
俺とコンビニ店員の脚の間にスミレの身体が差し込まれ、二人まとまって、コンビニの外に蹴りだされる。
「まさか夏季崖のジェイソンみたいな化け物か!?」
「いや、これは、聖槍の浸食だ! 来るぞ!」
スミレに手を引かれ、再び蹴りかかってきたコンビニ店員の攻撃を避ける。
「聖槍に関しては後で説明する。ちょうどいい機会だ、戦ってみろ。これくらいの相手ならけがすることもないだろう」
「そんな、戦ったことなんて」
戦ったことなんてない、と言おうとしたが、腹への衝撃で言葉が出なかった。
「痛って」
コンビニ店員が足を振りぬくと、俺の身体は簡単に吹っ飛び、駐車されていたトラックにぶつかり、勢いが止まる。
「まずは動体視力と、身体能力の向上を感じ、慣れろ。そして、自分の起源を自覚するんだ。武器の具現化までやってみろ」
「スパルタすぎだろ!?」
真夜中のコンビニの店前でいきなり戦闘が始まった。
ここで細工 開は数分で武器の具現化を成功させることになる。