( 4 )青の王子さま
お城では、やっと、起きてきた第2王子に待っていた第3王子が皮肉を言う。
「お目覚めですか、兄上。また、恋人が離してくれなかったんですね。」
ブロンドの巻き毛を兄は一瞥する。だが、仲の良い兄弟だから弟は平気だ。
「父上は、カンカンですよ。どうするんですか。兄上を起こして連れて来るようにって、僕がトバッチリじゃないですか。」
「ルーフス(赤)、その口を閉じないのなら、無理矢理に閉じさせるぞ。」
「カエルレウム(青)王子さま、お許しを。罪なき弟に何の仕打ちをなさるのでしょう。あうっー。」
芝居っ気たっぷりに、椅子から床に倒れ込む弟。兄は、苦笑いだ。カエルレウムの着替えをさせている侍従も笑い出す。
愛され王子は、使用人まで味方につけていた。天使のように愛らしい顔。それを縁取りしている金色の巻き毛。愛さずにはいられない甘えん坊。
「弟よ。兄は、愛を求める放浪者なのだ。」
「騙されませんよ。では、マーガレット夫人に本気ではないのですね。父上の耳に入るほど噂は流れています。夫人の夫君と決闘にならなければいいけど。」
「そのような事、あり得ない。昨日、別れ話を済ませた。」
遊び相手としては楽しい相手だったが束縛し始めた。別れ時だ。呆れたよに、ルーフスは肩をすくませる。
「神さま。兄に本気の恋を与えて下さい。」
「勿論、時期になれば良家の姫を迎えるつもりだ。女遊びしているように扱うな、弟よ。」
「へえ、良家の姫ですか。問います、兄上の理想の相手とは?」
「昨日の夜の侍女よりは、ましな女性かな。」
弟王子は、兄を見つめた。兄が女性の悪口を言うのは初めてだからだ。興味深い。
「ましって、どんな?どんな?」
小さな子供と一緒だ。好奇心を押さえられない様に、兄は笑う。
「あの安っぽい香水の匂いが、鼻について。塗りたくった厚化粧やヨレヨレの付け睫。見るに耐えない!」
「何、それ?何、それ?僕、会いたい。会わせて!」
「無理だな、会わない。昨日の家には、行く事は無い。」
昨晩の舞踏会の家は、恋人だったマーガレット夫人の知人であった。彼女と別れたのだから、行く事も無くなる。
だが、運命は、その嫌いな侍女との再会を用意しているたのだが。青の王子は知らなかったのだ。
貴族たちの間で噂のマーガレット夫人は、街へ出かけていた。行きつけの古物商の店へ入り、誰も居ない店内で待った。そして、現れた店主に小声で依頼する。
「頼みたい事があるの。お願いできるかしら?」
「用件によりますが、どのような。」
「呪いをかけてほしい相手がいるのよ。」
店主は、奥の部屋へと案内した。そこには、黒ずくめの老婆が座っている。老婆は、水晶の玉を差し出した。
「願い事を、なんなりと。」
マーガレット夫人は、願いを口に出す。
「ある男に呪いをかけたいの。好きになった女が、その男を嫌うように!」
他の女の物になるなんて、許さないわ。私を捨てた事を後悔させてやる。好きで好きで、たまらないほど、その女は嫌いになるのよ。
「私の気持ちを思い知ればいいのよ!」
マーガレット夫人は、呪いの相手の名を紙に書いて渡す。そこには、「カエルレウム」と第2王子の名があった。
都に住む「何でも屋」魔法使いのジミーさん。昨日までの使い物にならないと言われていた仕事が嘘のよう。
仕事を頼んでいた顧客たちも、驚きの顔。雇われた女の子が来て、家の修理や犬の散歩までやってしまう。
「こんにちは。「何でも屋ジミー」から来ました。」
やって来た黒髪の女の子に、ドアを開けたオバサンは渋い顔。料金が安いから頼んだら、1週間たっても仕事が終わらないからだ。
「うちのニャンコは、居なくなったのは1週間も前なのよ。かわいそうに、お腹すかせてるわ。まだ、見つけてくれないの。遅いわよ!」
「すみません。ニャンコちゃんが好きなオモチャを貸して下さい。見つけますから。」
半信半疑で、オバサンは猫じゃらしを渡した。これを使って、誘き出すのか。まさか。
外へ出た女の子は、猫じゃらしを手に呪文を唱える。
「ニャンコちゃんを見つけて。魔法リサーチ!」
かなり離れた家並みの屋根の上で、「にゃー」と鳴く猫が跳ね上がる。後は、回収するだけだ。
超簡単なお仕事、1つ、終わりました。
「ジミーさん、終わりましたー。」
「え、もう?」
ジミー・ ラックスは、壊れた機械を修理していた手を止めて顔を上げた。間借り人は、笑顔で見返す。
「迷子の猫ちゃん、飼い主に渡しました。代金です!」
「ありがとう。出かけたばかりなのに、早いな。腕のいい魔法使いだ、助かるよ。」
「そうですか?腕がいいのかしら。」
「資格試験は、受けた事がないのかい?」
「はい、田舎に居たから。」
セレナは、暮らしていた事を思い出す。山奥のポツンと建つ修道院。少し離れた場所に小さな村があるくらいで、閉じ込められていたようなものだ。
だけど、乳母が知恵を絞って外出させてくれていた。遠くの町に出かけては社会勉強。おかげで、今、やっていけてる。
「年に1回、試験はおこなわれてる。受けた方がいい。能力が高ければ、パーティーに雇われるしギルドにも入れるから。」
「え、ギルドに?嬉しいー。」
「あの、セレナさん。家出とかじゃないよね。町で君みたいな女の子を探していたらしいけど。」
「えっ、探してる?どうして?(用は無いはずなのに)」
セレナは、狼狽えた。どうしたら、いいのだろう。大怪我はするし、魔力は取られるし、追い出されるし。酷い目に合ったのに。
隣りの国の王女だなんて、言えない。王位継承を争って負けて追放されたなんて。
「セレナさん、落ち着いて。大丈夫だよ、ここには来ないから。」
「ジミーさん。私、追い出されたんです。死ぬかと思うくらいの怪我をした後に!」
「追い出されたのかい?酷いね。分かった、町の外へ出よう。丁度、仕事を頼まれてたから。子供たちと一緒に。」
ジミーさんは、いい人だ。何か事情があると察して、郊外へ連れ出してくれる。セイラは、とりあえず、ホッとした。
町の馬車乗り場では、隣りの国の兵士と思われる軍服の男たちが売り場で尋ねていた。
「黒い髪の十代の女の子?あんた達も、探してるのかい。」
「あんた達もって。俺たちの前に探しに来てたのか?どんな奴だったか、教えてくれ。」
「そっちと、似た感じだったな。どこかの兵士みたいな。」
兵士たちは、直ぐ様、主人に報告する為に国境へと向かった。追放された王女の行方を追いかける別々の目的。
それは、互いの利害に関係していたからだ。




