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( 2 )新しいお家

闇を照らす満月。その下で、遠吠えをあげる獣。それは、銀色に光ったオオカミだった。



「オオカミなんて、嫌いーー!」



セレナは叫びながら跳ね起きた。そして、部屋の中を見回して安全を確認する。間借りしてる小さな部屋が、今のセレナには安全な場所だった。


キラッーー。


庭に建つ物置小屋の小さな部屋。家具つきのテーブルの上で銀貨ジス(この国の通貨、レートで1万円)が2枚も光っていた。


1枚は、侍女の仕事の報酬。もう1枚は、オオカミ男のくれた口止め料。目にしただけで寒気がする。



「嫌だ、思い出したくない。そうだ、使っちゃおう!」



好きな物に変えてしまおう。セレナは急いで着替えると、部屋から飛び出した。町の屋台で買えるだけ食べ物を買い込む。



パクパク、パクパクーー。



山のように積み上げたお菓子を口に入れて、さすがにお腹いっぱい。食べきれない。



(どうしょう、これ。買いすぎたかな。ん?)



誰かに見られてるよな。セレナは見回して、ビックリ。窓から誰かが覗いてる。それも、赤い頭が2つ。だから、目が4つ。子供たちだ。



「あの、こんにちは。食べきれないの、食べてくれない?」



そう言うと、部屋に飛び込んで来る。飛びつくようにして、嬉しそうに食べ出した。



「ありがとう、お姉さん。パパがお金ないから、お菓子は買ってくれないの。」



お菓子を口に入れて礼を言う女の子。食べる事に熱中している幼い男の子。2人は兄弟のようだ。よく、似ている。



「あたしは、ジェニー。弟は、ジェレミー。パパは、ジミーよ。新しい間借り人のセレナさんね。パパは、魔法使いの仕事してるの。ね、どうして。何かのお祝い?どうして、こんなにお菓子があるの?」



セレナは、笑顔になる。おませな女の子。口いっぱいにお菓子を入れて喋り続ける。「どうしてさん」と、乳母も言っていた。

小さな王女も、何でも知りたがりで乳母を困らせていたのだ。



「お菓子はね。オオカミからお金をもらったからなの。怖いから、いい事に変えたのよ。」

「オオカミが、お金を?そんな事、無いもん。オオカミが、くれないもん。どんなオオカミだったの?」

「どんなって、青い服だった。」



弟のジェレミーが、お菓子のクリームのついた両手を振り上げて叫ぶ。



「僕、知ってるう。青い服は、王子ちゃまだよー!」



そのまま、ピョンピョンはねる弟に大人の真似をする姉が叱った。



「ダメでしょ、ジェレミー。自分の家じゃないのよ。おとなしくするの!」



すっかり、嫌な気分の失せたセレナ。でも、気になって聞いてみた。



「青い服は、王子さまなの。ジェーン?」

「そうよ。この国の王子さまは、3人。1番目は、黄色。2番目が、青。3番目が、赤。お呼ばれの時は、着る決まりなの。そんな事も、知らないの?」

「うん、知らなかった。お姉さん、この国に来たばかりだから。ありがとう。」



礼を言われて、得意そうなジェーン。その後も、色々と知ってる事を教えてくれるのだ。それを聞きながら、セレナは頭の中で考える。



(その青い服の王子さまは、舞踏会のオオカミとは別人よね。王子さまは、女性に優しいはずだもの。)



王位継承権試合が決まり、呼び戻されたお城で紹介された兄王子や弟王子たち。初めての顔合わせだったけど、皆が礼儀正しかった。


二度と、会う事は無いだろうけど。


グワングワン、ドッカーーン!


何かの爆発する音と共に小屋が揺れた。転がる子供たちをセレナは魔法で浮き上がらせる。怪我をさせない為に。


庭から灰色の煙がモクモクと小屋に入ってくるではないか。床に降ろされたジェーンが声を上げた。


「パパ、パパを助けて!」


慌てて、セレナは子供たちの父親を助けに飛び出した。咳き込みながら、庭中に広がっている煙を魔法で消し去る。



「お姉さん・・、魔女だったの?」



小屋の中から、ジェーンが呆気に取られて見ていた。モクモクしていた煙は、黒髪の娘の前に道を開ける。恐れをなして姿を消したようだ。



「大丈夫ですか?」

「ああ、何とか。私は、ダメ魔法使いだから。失敗してしまったよ。」



頭から真っ黒に灰を浴びて座り込んでいる男は、そう言うと泣き出した。



「もう、おしまいだ。回復ドリンクを造る機械が、壊れてしまった。あれだけが、金の入る物だったのに!」



ジェーンとジェレミーの父親は、ダメ魔法使いらしい。隣り近所から、怒った隣人たちが来て罵り出した。こんな事は、しょっちゅうらしい。






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