( 21 )押し付けられた契約
フィリップスから依頼されている魔法使いのベリィ。ホウキに乗って町から訪問。もちろん、セレナに会う為に。
ジャングルに居るはずの第2王子の小隊を見つけて降りて行く。でも、何だか様子が変。それに、セレナが見えないのだ。
「こんにちは。セレナさんは、何処ですか?」
兵士に声をかけたなら、慌てた様子で離れた場所に連れていかれてしまった。嫌な予感。
「大きな声で言うなよ、あの子の名前!」
「え?セレナさんが、どうかしたんですか?」
「神殿に入ったら、餌食になって。王子さまが、責任感じてしまって大変なんだ。」
聞けば、神殿に住む魔物にセレナは捕まってしまったという。それを、王子が救いに行こうとするので交代で見張っているとか。
ベリィは、大変な事になったと後悔した。迂闊だった。ここを離れるべきでは無かったのだ。
(フィリップスさまが聞かれたら、お嘆きになる事だろう。)
今も、セレナの事を案じて寝込むくらいなのに。どうにかして、見つけなければ。そう、決心していた。
ベリィは、警戒しながら地下道の入り口へと近づいた。チェックして、眉を寄せる。
(良くないな、どうしよう。悪魔の匂いがする!)
もともと、セレナを探しに来た時に悪魔の気配があった。それが、今は2人に増えている。
(だけど、神殿の霊気が無くなった。消えたといってもいいくらいに。セレナさんと関係あるんだろうか?)
試しに地下道へ足を踏み入れても、何の反応も無い。戻る前には、何かの居る気配はあった。
ここには、セレナさんは居ない。魔力の足跡も感じない。何処かへ連れ去られたのか。
神殿から出たベリィは、呼び止められて驚いた。
「探し物は、見つかりましたか。ベリィ・カーチスさん?」
ヒョロリとした痩せた男が、笑顔を向けてくる。親しげな態度。銀色の長髪に整った顔。美男子だ。
ベリィは、強ばった顔になるのを止められない。その理由は、悪魔だからだ。
「いいえ、見つかりませんでした。あなたは、何かご存知ですか?」
「はい、知っていますよ。フィリップスのお友達さん。」
「フィリップス・・!?何が、目的です?」
動揺するベリィに、男はニヤリとする。
「目的は、明白でしょう。あなたですよ。」
「私?どういう事ですか。」
「あなた、野望を持ってますね。叶えたくないですか。私なら、できますよ。簡単にね。」
野望?成功させたい夢は、確かにある。簡単には、出来ない理由もある。だけど、諦めたくない。
「私と契約してくれれば、お手伝いします。セレナちゃんの居どころも、教えてあげましょう。」
「契約の代償は、命か?」
「そんなに簡単に差し出さないで。あなたは、20歳じゃないですか。若い若い。約束するだけで、結構。ただし。」
「ただし?」
「その後、あなたは私との契約を忘れてしまう。私と話をした事も。」
忘れてしまったら、契約にならないではないか。訳の分からない事を言う悪魔だ。信用して良いのか、判断しにくい。
「なら、考えさせて下さい。」
「もう、遅い。」
「え?』
「契約は、成されました。あなたは、すでに忘れてしまおうとしています。ありがとうございました。」
琥珀色の瞳が、可笑しそうに見つめている。戸惑いながら、ベリィは見返すばかり。
悪魔の言う通りに、契約は実行されようとしていた。
ベリィは、気がつくと町に立っていた。何時、町へ戻ったのかも分からない。何かが、変だ。
(まるで、誰かの魔法に捕まったみたいだ。)
仕掛けられた魔法から逃れる為には、呪文を解かなくては。懸命に解毒魔法の呪文を唱えていると、女が話かけてくる。
「そんな事くらいで、あいつの魔力から逃げられないわよ。諦めるのね。」
ベリィは警戒しながら、近づいて来る相手を見た。赤毛の美人だった。自分を魔法にかけた者の仲間か。
「やめてよね、攻撃するのは。私は、あんたと仕事をする為に来たの。用が済んだら、消えてあげるわ。ベリィさん。」
「仕事?何の仕事だ。」
「あら、知ってるくせに。悪魔は、あんたに仕事を言ったはずよ。行きましょう。」
背中を向けて歩き出した女を、ベリィは追いかけた。自分の意思では無い。勝手に足が動くのだ。
『お前の仕事は、・・・だ!』
今は、理解できた。「・・・」という空白は、何でも入れられる枠。自分は、悪魔の言いなりなのだ。
何処で、そんな契約を交わした?覚えてない。
「あなたも、魔法使いですか?名前は?」
「そうよ、魔法使いよ。名前は、リリィ。さあ、着いたわ。やって。」
「やる、何を?」
「私の仕事は、案内するだけ。後は、あんたの仕事よ。」
仕事?ああ、思い出した。ベリィは、1人で店へ入って行く。古道具屋の店の中で、店員に言った。
「ここで、呪いをしてもらえると聞いたのですが。」
表向きは、「古道具屋」。実は、「呪い屋」。最近は評判が良くて稼いでるらしい。奥の部屋には、老婆が座っていた。
「どんな呪いをお望みですか、お客様?」
ベリィは、無言で立っている。部屋の中を風が吹いた。そして、黒い羽根が部屋の中を飛び回る。
『人を呪わば、呪い返しは3倍返しーー!』
老婆は蒼白になり、お守りを握りしめて祈った。
呪術師は魔物と契約するのだが、それは複数にも及ぶ。その魔物たちが姿を見せてベリィを襲った。
だが、ベリィに触れる事さえできない。悪魔に守られているからだ。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ。
音が近づいて来る。次々に床から出て来る骸骨。老婆は震える。
骸骨の集団は、部屋の中を探し回る。老婆を迎えに来たのだ。ベリィは、呪文を唱えた。
「死神よ、来たれ。この者の寿命は終わっている。神の定めし生を守らぬ者を引き渡す!」
ベリィの魔力は弓となり、老婆の手のお守りを打ち落とす。老婆は、叫び声を上げた。
守りの無くなった老婆を骸骨たちが捕まえて連れて行く。地獄へと。アグアニエベが現れて、送り伝票を投げた。
「閻魔さま、送りました。年齢141歳、呪った者は大多数です。宜しく!」
投げられた伝票は、床に落ちる前に突き出た腕に捕まれて消えた。どうやら、受け取られたらしい。
静かになった部屋で、アグアニエベは上機嫌でベリィの肩を叩く。
「ご苦労様、助かったよ。あの婆さんの魔除けが凄くて、手が出せなかったんだ。これで、仕事が何件も片付いた!」
ベリィは、ボンヤリと見返すばかり。操られている時は、考える事ができないのだ。
「ベリィ、帰っていいですよ。さあ、忘れて。思い出さなくていいから。」
ベリィの姿は。消えた。ジャングルへ戻されたのだ。アグアニエベは、チェックリストに丸をつけていく。
「これも、あれも、終わりましたね。あー、第2王子への呪いもありましたか。良かった!」
第2王子にかけられた呪い。王子と付き合った女性の不幸と王子が好きになった女性から嫌われる事。
これで、普通に恋ができるでしょう。これ以前に始まった恋があるとしたら、呪いは完全には消えないかもしれません。
その相手を、好きになっていたとしたら?




