( 19 )罠を仕掛けた人たち
アネモネが、道の変更を申し出る。鉄鋼カバが出たからだ。
「もっと、モンスターが現れるかもしれません。魔法使いが住み着いて魔法で魔モンスターに変え出してから危険度が高くなりました。この道は、変えた方が良いと思います。」
第2王子は、話に同意した。小隊を危険に晒したくない。遠回りでも、安全な裏道に変える事にした。
皆がニコニコ、上機嫌。報酬以上の獲物を手に入れたからだ。アネモネは、くたびれた様子で座っているセレナに話かける。
「あの、セレナさん。教えてください。王子さまと親しいようですけど。もしかして、昔からの知り合いとか?」
「えー、私が?無い無い、最近だもの。あの人、うちのお店の客だから。」
「お客?何のお店ですか?」
「何でも屋。家出した猫を探したりするの。」
「家出ですか。私も、頼めます?」
丁度、家出したのがいますから。お願いしてみました。その夜、2人のテントでセレナは探してくれた。
「アネモネさん家のオスマン・・。ごめんなさい、名前をもう一回。」
「いいんです、難しい名前だから。お祖父さんがつけたので。オスマントウスです。」
「お祖父さんが?血統書のある凄い猫なのかしら。オスマントウスちゃんは、何処?」
セレナの上げた手の前に現れた2メートル四方の地図。それは、ジャングルを表していた。
驚いたのは、セレナだ。迷子の猫は、ジャングルに居たのか。
「私は会った事が無いから、細かい捜査はできないみたい。でも、ここらへんに居るらしいわ。」
地図の一角に、矢印が点いて光っています。アネモネは、礼を言った。冷や汗を流しながら。
(本当に見つけたわ。凄い、この子の魔法。でも、バレなくて良かった!)
ジャングルに居るオスマントウスちゃん。実は、人間なのだった。それも、この人たちには深い関わりのある。
マルガリータ姫は、男たちに牢から連れ出されていた。夜になって何かをしたいらしい。
「ほら、出番だ。さっさと歩け!」
「オスマントウスさん、生け贄に傷つけていいんですか。やるなって言ってたのに。」
「今夜で終わりだからだよ。生け贄になれば、用なしだ。」
オスマントウスは、自分を探している者が近くまで来ている事を知らなかった。マルガリータを連れて地下道へ入ると、目的地へ向かう。
カビた匂いのする古い地下道を松明の明かりを頼りに歩く一行。その後を付いて行く人影あり。
(やっと、本番か。いったい、何をしてくれるんでしょうねえ。楽しみです。)
アグアニエベは、後ろを振り向いて指を動かす。パチパチと、大昔のランプの跡が灯り通路を照らし出す。
それは、第2王子たちを招き入れる為だ。明かりは、隠されていた入り口の外まで続く。ついでに、姫の指輪も置いておいた。
「王子さま、指輪が枝に!」
兵士が持って来た指輪を第2王子は見る。公爵家の紋だ、間違いない。姫が目印に置いて行ったのだ。
「私が地図を見ながら、先に行くから。きゃっ!」
目の前を飛んで行くコウモリに、セレナが叫ぶ。第2王子は笑いながら、ひき止めた。
「石ころセレナ、後ろを歩け。何か出る度に悲鳴をあげられると、うるさい。」
「ちょっと、驚いただけじゃない。そんな言い方しないでよ!」
第2王子は、ニヤリとする。片手を肩に置かれて、セレナは飛び上がった。
「何するのよ?(ひいー!)」
「女の子は、おとなしくしていろ。行くぞ。」
ドキドキするのは、ウサギの心臓。嫌みなオオカミ王子が、からかうから。脅かしたりするからよ。プンプンー。
まるで、第2王子たちを待っていたかのように明かりの灯っている地下道。埃の上を歩いて行った足跡が奥に続いている。
アネモネは、この場所を説明した。
「ここは、昔、神殿でした。この奥に祭壇のある広間が有ります。そこへ行ったのでは。」
アネモネの表情が陰る。認めたくない事実。それを証明するように、拐った姫を連れて祭壇へ向かっている。
(こんな事、やめさせなくては!)
あの時、悩む少女の前に現れた男は囁いた。契約を持ちかけて。
『古のテムプルムの一族の末裔の娘よ。あなたの願いを叶えてあげよう。だが、無報酬とはいかないね。何を、私に差し出すかな?』
銀色の長い髪を風に揺らし、琥珀色の瞳を細めて微笑む美男子。アネモネは、見た。その背に大きな黒い翼が有るのを。
かっては、ジャングルに有る場所に栄えていたテムプルムの神殿。
アネモネは、それを守る王族の子孫。人で無い者の姿を見破る力を持っていた。
「本当に私の願いを叶えてくれるなら、あなたの花嫁になってもいいわ!兄のオスマントウスの計画を止めさせて!」
悪魔は、おかしそうに笑う。
『自分を代償にするとは、兄弟思いの妹だ。素晴らしいー。だけどね、オジサンはグラマラスな女性が好み。別の契約をしてもらうよ。』
好みではないと断られて、少しだけ自尊心が傷ついた。これでも、村では求婚者が何人もいるのに。
でも、兄を救う為だ。悪魔の言いなりにでもなる覚悟だった。そして、悪魔の命令に従い第2王子の道案内になったのだ。
セレナは、王子の後ろを歩くアネモネの様子に気がついていた。ここへ入ってから元気が無い。
(どうしたの。嫌な事でも、あった?)
アネモネは、手首に付けている何かの絵を彫り込んだ皮の御守りを握って神に願う。
(神殿の神よ。我が願いを聞き届けたまえ。生け贄を救って下さい!)
アネモネの兄は、自分の願いを叶える為に生け贄を捧げるつもりなのだ。これが、始めてでは無い。
乙女たちを拐っては、ここへ連れて来ていたらしい。人の命を神殿が求めた事は無いのに。兄は、おかしくなっている。
(ここは、信仰の場所なのよ。神は、生け贄なんか求めてないわ!)
地下通路を歩いていた一行は、広間に辿り着く。かがり火に照らされた祭壇の上には、マルガリータ姫が横たわっていた。
オスマントウスは、入って来た者達の前にいる少女を見て驚く。よく、知っている人間だったからだ。
「アネモネ、裏切ったのか。実の兄を!」
犯人はアネモネの兄だったのだ。動揺する第2王子の小隊。アネモネを信頼して良いのか分からなくなる。
アネモネは、兄に訴えた。
「兄さん、お姫様を帰してあげて。もう、やめて!」
「これは、一族の為なんだぞ。俺たちは、この神殿を守ってきた王家の末裔なんだ。生け贄と引き換えに、国を再建する。何が、悪い!」
「神は、生け贄なんか求めてないわ。ここを捨てたのは、私達の先祖よ。今さら、何をしても無駄よ!」
その時、女の声が響いた。
『その通り。ここを捨て去ったのは、あなた達です!』
まばゆい光に包まれた人の姿が、広間の中央に出現する。オスマントウスは、跪いて願った。
「俺は、神託を受けた。神殿に聖女を連れて来いと。ほら、聖女だ。少しだが、光魔法が使える。光魔法を使える女は少ないんだ。俺を、王にしてくれ!」
光の人は、ゆっくりと祭壇に歩み寄る。そして、片手を姫の上にかざした。
次の瞬間、マルガリータ姫は氷の岩に閉じ込められてしまった。
「私は、聖女を求めたのだ。この者は、聖女では無い。だが、招き入れたのだから認めてやろう!」
光の人が天を仰ぐと、光が天井から降りて来る。それは扉となり、ゆっくりと音を立てて開いた。
その中には、同じ神殿の広間があった。大勢の人々が、花を手に参拝している。そこには、王族とみられる者達も居た。
『さあ、行くがいい。お前の先祖だ、仲間に加われ。そして、望み通りに王族として暮らせ。褒美だ!』
オスマントウスは、拒否した。
「俺は、今の世で王になるんだ。騙したな!」
そう、怒った。だが、フラフラと扉に足が動いていく。アネモネが気がついて、兄の手を捕まえた。
だが、一緒になって扉の中へ入ろうとしている。見ていられずに、セレナは魔力を使った。
「あの扉を壊して。ON、魔力解放!」
光が炸裂して、扉は消滅する。アネモネと兄は吸い込まれずに済んだ。光の人は、何故かセレナを見つめている。
『待っていた、聖女のお帰りを。今、この時を!』
聖女?何を言ってるのか分からない。戸惑いながらも、セレナは本能的に危険を感じた。この相手から逃げなければ。
ガタガタ、ガタガタガタガターー。
広間が、揺れる。そして、いきなり、壁から大蛇が飛び出す。積み石で造られた大蛇の胴体は20メートルはあるかと思う大きさ。
「きゃあああー、来ないで!」
巨大な相手に、セレナは後退る。そして、気がつかなかった。床に穴が空いていた事を。
落ちるショックで隙ができた。その隙を突いて、セレナは氷の岩に閉じ込められてしまうのだ。
「・・・・・・・・!」
叫びながら、セレナの身体は穴に落ちていく。




