( 15 )マルガリータ姫の捜索
ジミーの娘は、7歳なのにオムレツが作れます。得意そうに椅子に乗ってフライパンを両手で持つ。
「セレナ姉さん、お皿を持って来て。」
指示されたセレナは皿を差し出して、オムレツを乗せてもらうのだ。小さなコックさんが、朝ごはんを作ってくれました。
セレナには、料理の才能が無い。練習しても無理で諦めている。
「ごめんね、ジェニーちゃん。私が寝坊しちゃったから。」
「セレナ姉さんも、料理できないと。お嫁さんになれないわよ。」
小さな子に説教されてしまう。情けない。でも、オムレツが美味しいので満たされた。
何時もは、ジミーが作ってくれるのだけど。今日は朝早くから出かけている。遠い工場に機械を注文する為に出かけたのだ。
「失礼するよ。ジミーさんは、居ますか?」
こういう時に、お客様だ。立ち上がったセレナが台所から出ると、背の高い男が立っていた。
「いらっしゃっいませ!ジミーさんは、出かけてて。あの・・!」
「やあ、石ころセレナ。久しぶりだね。」
セレナは、固まった。何で、来るの。来なくていいのに。青の王子は、お構い無し。義務用の貼りつけた笑顔で話かけてくるのだ。
「丁度、良かった。君に頼みたかったんだ。」
「私が、勝手に仕事を受けられません。ジミーさんが帰った時に来てください。」
「はあ?石ころセレナ、私は客だぞ。」
「私は、石ころなんて名前じゃないですって!」
「なんと、まあ。女子は養いがたし。軽い冗談だろ。笑って受け流せよ、商売だろ。」
たちまち、言い返した店員に王子の作り物の笑顔が剥がれる。冷ややかな眼差しで、セレナを見下ろした。
(嫌っ、怖い。この人ー!)
寒気がする。ココ国の兵士と同じように、優しさが欠片も無い。
「王子として、命じる。協力が必要だ、付いてこい!」
ほら、人を物としてしか考えてない。セレナも、自分の使用人くらいに考えてる。命令すれば言いなりと考えているのだ。
はねつけて、やりたかった。だけど、ジェニーやジェレミーが見ている。ジミーさんに迷惑はかけられないと飲み込んだ。
馬車に乗せられて、仕事の内容を聞かせられる。驚く話だった。
「ディクソン公爵の次女であるマルガリータ姫が、行方知れずになった。君に探して欲しい。」
「マルガリータさまが?」
「この事は、内密にするんだ。もし、他に漏れたら容赦しないぞ。忘れるな。」
「え?はい(喋らないわよ、私は)」
「公表されてないが、数ヶ月前から貴族の姫が分かっているだけで数人が消えている。」
だから、ただの行方不明では無い。何者かが、貴族の姫を拐って行っているのだ。
「おいでなさいませ、第2王子さま。そのお方は?」
公爵家の執事が、慇懃な態度で出迎えた王子の連れを値踏みする。当然だ、平民の見すぼらしい服とサンダル姿だから。
裏口から入れと言いたそうな顔。見下されていた。
「私の使用人です。マルガリータ姫を知っているので連れて来ました。姫の部屋へ案内して下さい。」
セレナは、爆発しそうになった。何だろ、この人達は。私を踏みつけてるみたい。帰りたくなった。
私だって、好きで来てるわけじゃないのよ!
ムカムカするー。プンプンしながら、セレナは公爵家の廊下を執事の後を付いて歩く。自分の感情で一杯で気がつかなかった。
その後ろを歩く嫌いな男が、笑いをこらえている事を。
(この子は、子供みたいだな。からかいがいが、ある。くっく、くくーー。)
自分がオモチャにされている事を知ったなら、怒りに任せて仕事を放棄していただろう。
執事は、姫の部屋へ客を入れた。貴族の姫としては、質素な部屋だった。王子は、言う。
「さあ、石ころセレナ。姫の行方を探してくれ。」
「探すったって、どうやって?」
「お前は、魔法使いだ。宝石を見つけた時のように、魔法で分かるだろ。」
簡単に言うねえ、このオオカミ王子。犬や猫じゃないのよ。魔法でポンッと引き出せるわけないのに。
(あの顔。やれるのか見てやるって言ってるのと一緒。いいわよ、やってやるから。フフフのフッー♪)
セレナは、隠してる魔法を引き出した。それでも、側にいる執事や王子にわからない程度。
クルクルーと、部屋の中を回った。足を止めて命令する。
「さあ、マルガリータ姫さまは何処?」
こんな、長ったらしい呪文も無い魔法使いを王子は見た事が無い。魔法道具も魔法陣も使わないのだ。
ガタガタガタガターーと、部屋が揺れた。
『あなた達、何を!』『早く、口を塞げ。』『きゃあ、誰か!』
執事が寝台へ走り出した。寝台の上に寝ている夜着の若い娘が、主の娘だったからだ。
「姫さま、お助けします!」
飛び込んだ執事は、誰も居ないのに驚く。寝台の上に現れた人の姿は、実態の無い映像だった。
セレナは、文句を言う。邪魔されたからだ。
「魔法で起こった事を再現してるの。消えちゃったじゃない!」
「あ、申し訳ございません。マルガリータ姫さまのお姿を見たら、つい。お邪魔しません、続けてください!」
しょうがないわね、と再開。クルクル回って魔法をかける。すると、先ほどの映像が再現された。
『大事な生け贄だぞ、傷つけるな!』
『テムプルムに着くまで眠らせよう。』
そして、マルガリータ姫は庭へと運ばれて行くのだ。外へ出た男達を最後に、映像は消え失せた。
セレナは、片手を王子に差し出してニッコリする。
「これで、いいでしょうか。王子さま。」
執事は、部屋から走り出た。主人に報告する為だ。セレナは、帰ろうとドアへ歩き出す。すると、呼び止められた。
「家で待っていろ。」
「待つ?ああ、料金ですね。ジミーさんに伝えておきます。」
「何を言っている。お前だ。」
「お前?」
「明日の朝、迎えに行く。」
「迎えにって、何処へ?」
「マルガリータ姫を助けにだ。最後まで付き合ってもらうぞ!」
嘘でしょう、聞いてないし。私には、選ぶ権利は無いの?
空いた口が塞がらない。言いたい事は山ほど。溢れそうになるのに、有りすぎて口に出せない。
「石ころセレナ。みっともないぞ、口が空いている。」
顎を押し上げられて、口を閉じさせられる始末。頭が噴火しそうになってる間に、ジミーの家の前で馬車から降ろされた。
(嫌あああああああ、行きたくない。あんな奴と一緒だなんて!!(爆))
家で狼狽しているセレナをよそに、王子は城へ帰ると捜索隊を編成していた。ギルドに緊急依頼をし、ミッションとする。
短い時間で武器や冒険者を集めて、夜が明けると旅立った。
「テムプルム」は、この国から山を越えた場所にある。本来なら、旅慣れてない娘を連れては行けないのだが。
(あれは、本当は何者なのだ?)
馬車の中で広げた地図を見ながら、王子は考える。
あの娘は、いとも簡単に、起きた事を見せてくれた。
それは、かなりの魔法使いが使う高度な魔法だぞ。自分も、聞いた事はあるが見たのは始めてだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「王子の記憶にある宝石を探した時」
部屋の中をクルリと回る。ウルサイのが小馬鹿にした。
『呪文は、使えないのか。我流だな。』
『はい、学校で勉強、し、て、ま、せ、ん、から。ウフフーのフッ。』
セレナは、ゆっくりと身体を向けて手の上の物を見せた。
『どうしたんでしょう、飛んで来ました。王子さま?』
あの時、王子は見惚れてしまっていた。セレナの頭や身体にまといつく光の粒。それは、使用した魔法の残り屑。
強い魔力を持てば持つほどに、美しく煌めくと称されている。
王子は、「綺麗だー」と思ったのだ。




