( 13 )ジミーさんの奥さんの話
紹介所を出たセレナは、1人でぶつぶつとボヤキながら歩いていたのだけど。
「あら、セレナちゃん!いい仕事があるのよ。」
明るい声に、セレナは振り向いた。栗色の髪の美人が笑顔で駆けよって来る。あの時、紹介所でメイドの仕事を仲介してくれた女性だった。
「リリースさん、こんにちは。あの時は、間借りの部屋まで紹介してもらって助かりました。」
「いいのよ。ジミーさんのとこの貸し部屋が空いてたのを知ってたから。丁度、良かったの。」
「丁度って?」
「ねえ、お茶でも飲みましょう。話もしたいし。ね?」
と、強引に誘われてしまって。セレナは気がついていないけど、断れない性格なのだ。
2人はお茶屋の椅子に座り、セレナはギルドパーティーの事故の話をしていた。誰かに聞いて欲しかったのだ。
「へえ、あなたって強いのね。」
「それほどでも、ないんです。仮免許だから。」
「ハイエナを19匹っていうと、害獣退治だから1匹が2銅貨ジス(レート:2千円)ね。というと、3銅貨ジス8粒銀ジス(レート:3万8千円)か。大したお金には、ならなかったわねえ。」
「だけど、ジミーさんに受け取って欲しいんですけど。」
「あの人は、受け取らない。そうでしょ?」
そうなのだ。だから、困ってる。「何でも屋」としての仕事は、暮らしていくのがやっとなのに。
リリーは、紅茶を飲むと話だした。
「あのね、ジミーさんの奥さんが亡くなったのはギルドの仕事でなの。ダンジョンでモンスターにやられたのよ。」
知らなかった事実にセレナは驚かされた。だから、ギルドの仕事を反対してるのだ。
「ジミーさんの奥さんは、チームに所属してたわ。腕の立つ魔法使いとして、稼いでたの。だけど、予想外のモンスターが現れて。」
「そうだったんですか。私、何も知らなくて。」
「当然よ、気にしないで。町の者なら知ってるだけよ。子供が2人。ジェニーは、7歳。ジェレミーは、5歳。そういう事くらいはね。」
セレナは、なついてくれてる子供たちを思って涙が溢れた。小さな子達を残していった母親は、どんな気持ちだったんだろう。
「ほら、泣かないの。あなたって、優しい子なのね。」
「私・・、私、親と暮らして無かったの。今は、会いたいとも思わないけど。あんな、いい子達なら。お母さんが愛してたのが分かるから。」
「そうよ。ジミーの奥さんは、家族を大事にしていたわ。だから、家族の為に自分が働いてたのよ。」
「私、何とかしてあげたい。ジミーさんには、家族みたいにしてもらってるから。」
「あなた、1人ぼっちなのね。大丈夫よ。ジミーさんも、子供たちもいるじゃない。」
家族。大きくなるまでは、乳母だけがセレナの家族だった。
乳母から父親と母親の事を聞かされながら育って、会える日を夢見ていた日々。でも、迎えが来て会ったら直ぐにお別れ。
(私が、継承権を勝ち取れ無かったから。試合に負けたから。次の王様になれないって分かったから。見送りにも、来てくれなかった人達。)
私は、役に立たないから。捨てられたのー。
その事は、セレナの胸の奥に傷として残っている。1度も会いに来てくれなかったし。お城に連れて来られても、会見の間で挨拶しただけ。
「私、頑張る。もっと、頑張るから。ジミーさん達の為に!」
もう、怖いからって逃げない。だから、今だけは泣かせて。
バイトリーダーが気合いを入れる。女性たちは、彼女の周りに集まった。
「くれぐれも、失敗の無いように。相手は、貴族さまよ。お誘いは、笑顔でかわす。いいわね!」
皆で声を揃えて、「はーい」のお返事。今夜だけ集められた人達とは思えない。その中にセレナも居た。
(大丈夫、魔法かけてきたから。守ってくれるわ。)
自分で自分に守護の魔法をかけて来ました。悪い人から守ってくれます。
今夜も貴族の館で舞踏会が始まる。日が沈むと、次々に馬車が集まって来るのだ。毎日のように行われるダンス会やパーティー。
代わり映えのしない顔ぶれに飽き飽きしている面々が、今夜は話に華を咲かせていた。
「ご覧になりました?青の王子を。」
「はい、今夜は同伴されておりました。」
「あれは、どこのお嬢様でしょう。お見かけした事も、ありませんのよ。」
「田舎貴族ゆえ、お招きもされなかったとか。知らなくて、当然ですわ。」
「そのような方を、よもや、花嫁候補になどされませんわね。オホホホ。」
ザワついている、貴族の女達が。怖い怖い。嫉妬や妬みに蹴落としてやりたいという気構え100%ー!
あっちでも、こっちでも、言いたい放題。それを耳にして、セレナは青の王子の連れている姫で無くて良かったと思う。
(村で育ったから、とても、こんな世界で暮らせない。嫌よ、絶対!)
両親や兄弟の居るカカ国のお城には、いい思い出なんて無い。だから、同情したのかもしれなかった。
「まあ、何だか変な匂いがしませんとこと?」
「そうですわね、田舎の匂いに似てますわ。」
化粧室に居合わせた貴族の女達が、わざとらしく声を張り上げて言い合う。その意地悪な視線にさらされているのは、小柄な貴族の娘だった。
何も言えずに俯いたまま、椅子に座っている。付き添いの侍女も居ないようだ。家が裕福では無いのだろう。
「お嬢様、メークをなおしましょうか。」
そう、声をかけた見知らぬ侍女を娘は驚いた顔で見上げる。だけど、次には笑顔になって返事をした。
「はい、お願いします。」
ブルネットの髪にスミレ色の瞳。小さな顔はお人形のよう。可愛いらしい姫さまだった。
使用人の世話され慣れた人達は、無防備に身を任せる。その通りに、娘は侍女のされるままになっていた。
「髪をお治ししますね。失礼します。」
「あの?」
「はい?」
「あなたのお名前を教えて下さいますか。私は、マルガリータです。」
「お嬢様、私は「セレナ」と呼んで下さいませ。」
名前は聞かなくても、知っています。皆で噂してたので。
青の王子のエスコートした相手。ディクソン公爵の次女で18歳の未婚。婚約者なし。この年齢で婚約者が決まっていないのは、まれですから。




