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掌編~短編集  作者: MolI
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もう勉強なんてしない

疲れたら「休む!」と宣言するといいよ、という話。

 数学が全く分からない。テスト当日まで三日を切っているのにも関わらず、だ。おかしい。何かおかしい。いつもと何かが違う。一体何が違うのだろう。そうだ、昨日は後輩のAに勉強を教えていたんだった。あいつ人に教えておいてもらいながら例も言わなかった。常識のない奴だ。むかむかとしてきた。駄目だ集中できない。

 僕はペンを机の上に放り投げ、椅子を立った。勢いが強くて椅子が倒れた。ガタンと大きな音が鳴る。うるさいな。ああ、イラつく。椅子をつま先で蹴ると、思いの外痛かった。舌打ちする。脚をひこひこさせながら階段を下りる。

 台所では母さんが昼飯を作ってくれていた。音と匂いから察するに、今日は焼き飯だ。冷蔵庫を開け、麦茶の入ったでかい容器を取り出して、ふたを捻って開ける。コップに勢いよく注ぐと、テーブルの上に少しあふれ出た。僕はテーブルに口をくっつけ、こぼした麦茶をすする。コップに注いだ方にも口を付けた。ごくごくと飲み込んで、ぷはぁ、とやる。夏はやっぱり、この瞬間が一番だと思う。飲み終わったら、麦茶を冷蔵庫に戻して、台所を出た。

 よし、一息ついたしもうひと頑張りするか、そう思い、勉強に戻る――と、そこで僕のやる気は消失した。面倒くさくなった。勉強は分からないときが一番つらい。ただただ面倒くさい。やる気が出ない。もうあと三日しかないのだ。間に合うかどうか分からない。でも、やるのが面倒くさい。もっと早くやっておけばよかった。なんでもっと早くやらなかった。後でも間に合うと思っていた。甘い、甘い。そんなことじゃ、全然ダメじゃないか。今まで何度も同じようなことをくりかえしてきたのに、まったく学習しないのかこのクソ脳みそが。別のに取り換えるぞこのカス。 

 むかむかがよみがえってくる。ああ、つらい。テストのせいだ。僕が早く手を付けなかったせいだ。僕は手のひらで何度も何度も何度も自分の頭を叩いた。叩きまくった。叩くとすっきりしたけれど、それ以上にむかむかとしてきた。イライラが頭いっぱいに膨らんでいく。はち切れそうなくらい膨らんで、頭が痛い。この、くそが。心の中で唱えながら、自分の頭を叩く。誰でも、何でもいいから、打ち負かしたくなった。ふるっても許される暴力で、一方通行の正義で、自分より弱い何者かを徹底的に叩き潰したくなった。踏みつぶしたくなった。蹴倒したくなった。引きちぎりたくなった。ぐちゃぐちゃにすりつぶして涙を踏みにじってやりたくなった。

 僕は自分の手のひらを握り締めた。血が出そうなくらい、強く、強く握りしめた。このままでは勉強なんて手に付かない。そう思ってベッドに倒れ込んだ。

 よし、決めた。

 もう、今日は夜まで勉強なんてしない。何もしない。ゲームやろう。放置ゲーのコインが相当溜まっているはずだ。僕は封印していたスマホの電源を付けた。

 赤熱していた鉄が黒く冷めて来たみたいに、イライラが少しずつ収まってきた。

 ゲームのコインを回収し終わった僕は、スマホを机の上に放り投げた。ゴトンと音が鳴って、スマホが勉強道具の上に着地した。僕は枕元にある目覚まし時計を午後五時にセットした。薄手の布団を胸までかぶり、目を閉じる。風が部屋を通り抜けていくのを、肌で感じた。

 少しすると眼球の裏から湧き出て来た眠気に包み込まれて、僕は眠りに落ちていった。


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