第七十八話 スタートライン
――蛙が鮫に勝てないと決まっているわけではない。
―――――――――――――――――――――――
「トゥリーは必殺技を用意した方がいい」
「ひっさつわざ！？なにそれ！ラファもそれほしい！」
「ひっさつわざ？なんかすごいわざ？おれにそんなのできるかな」
「難しく考える必要はないよ。必殺技って言っても普通の技だよ。言っちゃ悪いけどトゥリーは才能がないからさ、そういう場合は勝つために１つの『答え』があった方がわかりやすい」
「？」
「んーと、つまり、決着をつけるパターンを１つに決めるの。自分にとって最高の技、最速の剣。それを決めるために戦いを組み立てて、相手をそこまで誘導する」
「？？？」
「ま、いいからいいから。いつかわかるよ。とりあえず、完成度が高い最高の技を１つ身につければいいさ」
「わかった。おれにひっさつわざをおしえてくれ」
―――――――――――――――――――――――
「おれに教えられるのはここまでかな。主要な炎魔術は大概教えたし、あとはタイグドくんのオリジナル魔術とかコンボへの対処になると思うけど、その辺はもう戦ってく中でなんとかするしかない」
「俺にそこまで耐えられますかね」
「大丈夫！最初から切り札を出すやつはいないさ！少しずつ癖とかを見つけつつ、何とかしてけばいいさ。ある程度予想できる範囲なら教えたしね」
「本当にありがとうございました」
「助かったのはおれの方さ！いつもいつも仕事手伝ってもらって悪いね！」
―――――――――――――――――――――――
「うーん…流石に私よりは剣も魔術も遅いとは思うけど、反応速度に不安は残るかなー」
「あいつが戦うところは何度か見てますし、ある程度は予測で動けると思います」
「試合の序盤は守備に徹して相手の動きを観察した方がいいよ。予測の精度を高めて、しっかり対応できるように。『試合』ってことを活かさないとね」
「相手も殺す気で攻めることはできないですからね」
「そうそう！そういこうと！」
「ありがとうございました。本当に勉強になりました」
「いいえー！それじゃ、また遠征で！」
―――――――――――――――――――――――
「これで『トリスマー式体術』初級編はざっと終わりかな。残念だけど初級編までが限界だねえ。僕としてはまだまだ叩き込みたいことは山ほどあるんだけど、いささか時間がねえ」
「無理矢理複数詰め込むよりは初級編だけの方が俺には合ってますね」
「そうだねえ。ま、君の熱望するお相手くんも僕のトリスマー式体術にいきなり対応するのは無理だろうさ。それに君には『とっておき』もあるしねえ。いやはや面白い技だ。君にとっての切り札って言えるかねえ」
「『これ』も『トリスマー式体術』も手段の１つですよ。切り札はちゃんと他に持っています」
「それは素晴らしいねえ。遠くから、ま、それほど遠くもないけれど、吉報を待っているよ。テナス嬢とともにねえ」
―――――――――――――――――――――――
「…無茶はしないでね」
「大丈夫ちゃんと勝つよ」
「…鎧全部使えばいいのに」
「そうなんだけどね。ま、大丈夫だよ」
「…大丈夫しか言わない…」
「うーん。ま、大丈夫だよ」
「…もうっ！」
「たまにはかっこつけさせてよ」
「…トゥリーはいつもかっこいいもん」
「じゃ、もっとかっこいいとこ見せてあげるよ」
―――――――――――――――――――――――
天気はいい。風もない。
今はもう観客の声も聞こえない。
「がっかりだな。昨日の鎧なんでつけてこねえんだよ」
装備しているのは普段使いの鎧。
籠手だけは純白の7番魔鋼製。
結局譲れなかった。
身の丈に合わない全身鎧でくることを許せなかった。
「いいんだよ。これが今の俺の最強装備なんだ」
「プライドなんか優先してテメェが俺に勝てるとでも？」
「矜持を捨てたらパフォーマンスが下がるからな。これが1番力を出せると思ったからこれできた。少しも慢心なんてしてない」
「ハッ！上等じゃねえか！俺が勝ったらボロ雑巾になるまでズタズタにしてやるよ！！」
「俺が勝ったら…いや、別になんでもいいか。お前に勝てればそれでいい」
今はもうクラスだとか、村だとか他人のことなんてどうでもいい。
ただ、こいつに勝ちたい。
「ハッ！！上等じゃねえかカス野郎が！！格の違いを教えてやるよ！！！！」
あの時の続きを今ここで。
次回『蛙vs鮫なのである②』
①から実に26ヶ月。とても長かった。
…ほとんど更新してなかっただけです。
誠に申し訳ございません。
