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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第七十一話 偽物なのである




 さて、時には『今』よりも大切なことがあるとはどういうことだろうか。


 人生というのは本来『今』の連続である。

 今こうして考えている僕は今の僕なのであって、昨日の僕ではないし、もちろん明日の僕でもない。


 例えば今この瞬間に過去3日間の記憶を喪失したとする。


 今この『僕』の思考は過去3日間に影響されているものである。その記憶がすっぽりとなくなってしまったら『僕』はもう消えてなくなってしまうと言っても過言ではないだろう。


 逆に新しい経験をした僕もそれはもう『僕』じゃない。


 極端な話、今右手にある水を飲んだ時点で水を飲む前の僕とは違う僕になるわけである。つまりさっきまでの『僕』は消えてしまったのである。


 要するに今この瞬間の『僕』は今この瞬間だけのものであり、明日の僕はもう『僕』ではないのである。



 であるならば、今の僕に関係があるのは『今』だけなのであって『今』より大切なことなんてないのではなかろうか。



 遠征に無理矢理行くという選択をとった結果ラファと仲違いしたところで、そこで困るのは未来の僕であって今の僕ではない。僕がこのプリンを食べた結果として死者がでるとしても、僕がこのプリンを食べることを躊躇わないように、未来の僕の苦労なんて気にせず遠征に行くことも躊躇う必要はなかったのだろうか。



 答えはNOである。



 ついさっき言ったように今の『僕』は過去3日間の行動に影響を受けている。

 つまり『今』というのは『過去』から影響を受けているものであり『未来』に影響を与えるものであるということだ。


 酒やタバコを片手に夜な夜な公園でたむろする中学生を見て『愚かだな』と思うのはそのことに気がついているからである。彼らはきっと『ダチと過ごす今この瞬間がかけがえのない宝物だ!将来のことなんて関係ない!』とでも思っているのだろう。

 『今』の自分にとって未来の自分は関係なくても、未来の自分からしてみれば『今』の自分は『過去』の自分であり、そこに関係性はあるのである。



 人生は当然のように一方通行である。

 一方的に未来に進むだけであって決して過去に戻ることはできない。


 だからこそ今やるべきなのは『今しかできないこと』なのである。



 とはならないわけである。



 大人『タバコを吸うだとか酒を飲むだとか、夜な夜な公園で遊ぶなんてのは大学生になったらいつでもできるんだから今は勉強しておけ!』

 子供『勉強こそ一生いつでもできるだろ!今のダチと遊べるのは今だけなんだよ!!』


 どちらが正しいかなんてのは言うまでもない。


 確かに今の友達と多感な思春期に軽犯罪を犯しながら遊ぶなんてのは今しかできない。だが似たような、あるいはもっと楽しいことが合法的に大学生や社会人になればいくらでもできる。

 ただし、いい大学に通うことや良い企業に就職することといった限られた選択肢というのは基本的に中学時代ある程度真面目に過ごした人にのみ開かれる。



『いやいや待ってくれ、将来のために今我慢するのと、今の結果として将来苦労するのってプラマイゼロじゃね?なら今遊べばよくね?別に将来苦労するって決まってるわけじゃないし』



 この疑問の答えこそが今回の問題の総合的な解答である。



 そう。今の行動を選択する上で最も重要なファクターは、リターンに対するリスクの大きさである。


 『今の楽しさ』と『将来苦労する可能性』を天秤にかけて行動する。この天秤の正確性が重要なのだ。


 例えば今看病に疲れて横の椅子で寝ているラファを抱きしめるとしよう。


 天秤にかけるのは『今妹へ衝動的な愛情を解放することでの幸せ』と『その結果として妹に嫌われるリスク』である。


 我慢する選択肢を取ると、今、それからラファが起きるまでの数分、あるいは数時間悶々とした気持ちで過ごさなければならない。これは非常に良くない。

 我慢しない選択肢を取ると、照れたラファに嫌われる可能性が……これが多分ない。この3日間でそこそこ仲直りしたし、多少怒られたとしても多分数時間不機嫌になる程度だろう。


 それならば『今』我慢せずに抱きしめたほうが吉である。


「……んん?どうしたの?」


「んー?もう完全に体調治ったから自分の部屋でゆっくり寝て良いよ」


 正しい答えは『全く怒らない』だった。


 つまり、今回は我慢しなかった僕の選択が正しかったということであり、僕の天秤は概ね間違っていなかったということだ。


 そしてラファの髪はサラサラで気持ちいいのである。



 …こほん、さっきの中学生の件に戻る。


 『今、大学生や社会人になってからできることの下位互換をする楽しさ』と『将来の選択肢を潰すリスク』という側面を比べてみれば、誰のどんな天秤だろうとリターンに対してリスクが大きすぎることがわかる。


 であるならば、今のうちに少しの苦労をしておいて将来の選択肢を拡げておくという選択が吉であるというのが答えだ。


「じゃあ帰るから離してよ」


「……毎日欠かさずしてる剣の稽古を休んでまで看病してくれてありがと。タオル変えたり体拭いたり、作ったこともなかったのにお粥作ってくれたりしてありがと。熱で悪夢を見てた時そばで手を握ってくれてありがと。お姉ちゃんは本当にラファのことが大好きだよ。――だから、もうちょっとだけこのまま……だめ?」


「…………はぁ、今日まで特別だから」



 ラファとこの関係性になれたのは、あの時僕が遠征に行かないという選択肢を取ったからなのである。



 あの時僕は『今これからみんなと遠征に行く楽しさ』と『ラファと致命的な仲違いをするリスク』を天秤にかけた。


 確かに僕はみんなと遠征に行きたかった。

 それに中学1年生の夏休みの部活の遠征は一生で一度しかない。間違いなく『今しかできないこと』と言える。


 だが、別に似たようなことならこれからいくらでもできる。

 今回のメンバーだって僕がわがままを言えばこの冬にでも一緒に旅行に行ってくれるだろうし、もっと大きくなってから別の友達と旅行に行くことは何度もあるだろう。それにそうなれば万全の体調で旅行にのぞめる。


 対してリスクの方はどうだろうか。


 ラファはせっかく看病してくれようとしてたのに、そんな妹の気持ちも考えず無理矢理遠征に行った姉をどう思っただろうか。

 まず確実にこうして抱きしめることはむこう5年はできなかっただろう。5、6年経ってお互い成長した頃にあの時は馬鹿だったねと笑い合える可能性が少しある程度だ。

 そしてその可能性も限りなく低い。あの時点でラファにはかなり嫌われていたし、その火に油を注いでしまったら一生軽蔑されたままという可能性の方が高い。


 そこまで考えて僕は『今』ではなく『未来』を取ることにした。



 それこそが時には『今』よりも大切なことがある。の答えなのである。



「……本当はね、お姉ちゃんに嫉妬してたの」



「………うん」


「私が欲しいもの全部持ってるのに、それを適当に投げ捨ててるみたいで、悔しくて、羨ましくて、妬ましかった」


「…うん」


「でもお姉ちゃんからしたら私が欲しいものってそんなに大切なものじゃなくて、もっと大切なものがあって、人によって価値観なんて違うのに私はそれに気がつけなくて…」


「…うん」


「……ずっとひどい態度とってごめんね。それから……生意気で嫌な妹だったのずっと大切にしてくれてありがとう」


「…私の方こそラファと仲良くしたかったのに、ラファに嫌われような事ばっかりしてごめんね。ラファのことを何度も失望させてごめんね。……でもね、もう大丈夫」






「武闘祭必ず見に来てね。かっこいいとこ見せるから」













 ラファは僕の手を解くと、ベッドの中に入ってきた。

 感動で泣きそうだし、嬉しさで発狂しそうである。





――――――――――――――――――――――――――




 さて、気がつけば9月。2学期初日なのである。


 暑い夏を乗り切るための休みが夏休みだというのであれば、何日までかという期限を決めないで、気温によって臨機応変に休みの日程を決めるべきだと思う。


 ある目的のために作られたものが、時間が経つに連れて形骸化していくのはよくあることだ。

 みんなで楽しく食事するためのマナーが食事を窮屈にするものになったり、生徒の健康を祈る式典が熱中症を多発させる地獄になったり。


 何が言いたいかといえば、まだまだ暑いのである。


「おはよアーニャ」


「おはよー」


 サリアと登校するのは約1ヶ月半ぶりだ。

 夏の部活の間は人によって部室に行く時間がその日によるし、合流してから行くということはなかった。


「昨日うちのクラスだけで2人も熱中症で倒れたよ」


「トゥリーから聞いた。今年なんか異常に暑いよねー」


「年々暑くなってる気がするよね」


 毎年毎年暑いから『去年より暑くない?』と思ってしまうが、実は意外とそうでもなかったりする。

 涼しい秋、寒い冬、涼しい春を経て夏に戻るせいで、去年の暑かった記憶が薄れてしまうのだ。

 辛いものを食べた後に水を飲むと余計辛くなるのと同じ原理である。


「週末にはもう遠足だし、もう少し涼しくなって欲しいよね」


「てかうちの班どうしよう」


「?別に何の問題もないでしょ。まあ問題があったら私が何とかしてあげるよ」


 ドイツトリオとカユとサリア。目的地である『鶯の森』はこのメンツでどうにもならないような所ってほどではない。多少厳しい魔物も出てくるかもしれないが僕と先生がいればそれも問題ない。


「えー。でも他の班に比べて弱くない?」


「大丈夫だよ。だって2組の子たちも行くんだよ?他の2つの班が過剰戦力なだけで、うちの班だって十二分に強いよ」


 流石に2組の生徒と全く同じルートは行かないだろうが、森自体の難易度は深層部にでも行かない限り、それほど場所による差はない。


 今回の目的地である『鶯の森』に出る魔物は基本的に3種類。『水吸蟲(すいすいむし)』『鋭黒狼(えいこくろう)』『童悪鬼(どうあっき)』だ。ガポル村と違うのはヒル(水吸蟲)がいるのと、小鬼(童悪鬼)が群れで生活しているということくらいだ。


 ただ、それが意外と大きな差になる。


 単体だと黒犬(鋭黒狼)と同じくらいの危険度の小鬼だが、群れを作ると危険度が一気に増す。

 魔力濃度が一定以上ある森に生息する小鬼の知能レベルは5歳児と同程度と言われており、群れを形成するようになる。そして群れを作った小鬼は簡素ではあるが罠を作ったり、隠密行動をしたりしてハンターに襲いかかってくる。新人ハンターの死因第1位は小鬼なのである。

 まあだからこそ、うちの学校は生徒と小鬼の群れを戦わせたいのだろう。大人が同行している間に経験を積ませたいのだ。


 あとヒルの方もそこそこ危険だ。

 水吸蟲は体調約1m、色が周りに合わせて変化するヒルみたいな見た目のやつだ。自分が踏まれるその時まで全く動きがないため、索敵系のハンターなしでは見つけるのが難しい。

 踏まれると足に吸い付き一気に水分を吸う。剥がすのが10秒以上かかってしまったらその場で即死だ。まあ複数人で行動していたら1、2秒で簡単に剥がせるので、死の危険性は基本的にない。

 何度も何度も踏む運の悪いやつがいたらもしかしたら死ぬかもしれないというレベルだ。



 基本的なハンターパーティーの人数が3人なのは1人の補助魔術でサポートできる人数が2人までだからだ。

 だから別に前衛職だけのパーティーなら大人数で行けば行くだけ安全なのだが、『ハンターパーティーは3人』というのが何となく慣習的に決まっているせいで9割のパーティーは3人で構成されている。


 まあ人が多ければ多いほど安全ではあるが、成功報酬や入手素材の分割などを考えるとあまり多いのも困りものだ。

 それに人が多いとそれだけトラブルが起こりやすい。新しい森に挑戦するときに2パーティー合同で行くなどはよくある話だが、そこでトラブルがおきて死人が出るというのも稀によくある話だ。

 だから安全性以外を考慮すると3人くらいがベストなのかもしれない。



 何が言いたいかというと、先生の指導のもと報酬や素材に興味のない学生が森に行くのであれば、人数は多ければ多いだけ良いということなのである。


「ま、本当に大丈夫だよ。何かあってもサリアだけは守ってあげるから」


「えーー!!?なにそれ告白!?結婚でもなんでもアーニャの好きにして!!」


「うちの国は同性婚認められていません」


「2人の愛の力で乗り越えよう!」


「私の方には愛がないから超えられないよ」


「嘘つき。私の乙女心を弄んだんだね」


「サリアにだけは嘘つきなんて言われたくない」


 サリアなんて発言の9割嘘のくせに、どの口で人に嘘つきなんて言ってんだ。


 大体勝手に誤解しただけじゃないか。




――――




「うふふ、おはようハレアちゃん。体調はもう大丈夫なのかしら??1日でスッと治る風邪なんて珍しいわね??」


「おはようございますムナー先生。長期休み前と後1日だけ風邪をひきやすい体質なんです…」


「あと入学式と卒業式かしら??」


「えと…ごめんなさい。風邪は引いてないんですけど、式典とかで長く立っているのが苦手で…」


 両手の人差し指を合わせてモジモジしながら小首を傾げて上目遣い。古典的なぶりっ子技だが、古典的なコテコテオネエには効くはずだ。


「んもうっ!しかたない子ねほんと!」


「自分の卒業式くらいは行けたら行きますっ!」


 きゃぴきゅるん!


 僕の精一杯の笑顔がかわいすぎてムナーちゃんが固まってしまった。

 それもそのはず。いまのきゃぴきゅるん笑顔は1年に1度見せるか見せないか程度の大技だ。この場に居合わせたサリアとムナーちゃんは今年1番の幸せものである。



「……この子何とかできないのローラムちゃん?」


「アーニャは初学校の頃からほとんど式典には参加しませんでした。体が弱いのは本当ですので許してあげてください」


 おや思ったより反応が悪い。


 まあとりあえず始業式をサボったことは無罪放免となったので自分の席に着くとしよう。


 6月に席替えしてから僕の席は窓際最後方の席となった。

 隣はララ、前はニシド。週末には遠足だし朝のHRが始まるまではニシドと交流でも深めるとするのである。


 席に向かう途中で1番前の席に座っていたクロハ・キタカと目が合う。立ち話するほどの仲でもないけど目があったのにスルーというのも何とも気まずい。


「おはようクロハ。夏休みの宿題は大丈夫?」


「おはようございますハレアちゃん。タイグドさんに確認してもらったので大丈夫です!」


「そっかそれなら安全だね」


「はい安全です!」


 クロハはドジだから心配だったのだが、ボスが見てくれているのなら安心だ。流石はボスなのである。


 そういえばボスが絡んでこない。

 ああ、ラファに乗り換えたから僕のことなんてどうでもいいのか。顔だけしか見てないクソ男だったのを忘れていたのである。


「よおアーニャ。久しぶりだな」


「あ、丁度いまボスのことを考え……ん?」


 ボスだと思った人物が座っているのは僕の前の席。


「んん?」


 髪の色も髪型も制服の着こなしも態度もボスと一緒。

 でもよく見るとボスよりひと回り小柄だし、目は完全な赤じゃなくて赤茶だし、顔もちょっと芋っぽい。


「なんだ?俺の顔になんかついてんのか?」


「……………目指すってそういう方向?」


「はっ!とりあえずは形からってやつだ」


 休み前は茶髪のサラサラマッシュだったのに…。

 イメチェンとかそんなかわいいもんじゃない。


「ムナー先生、染髪って学校的にはokなんですか?」


「まあそっとしておいてあげるのが1番ね。男の子は一度は通る道だから」


 憧れのスポーツ選手と同じ靴を買うとかそういうのの延長と考えればそこまでおかしくもないのか…?


「タイグドを超えるのが目標ってのは100歩譲っていいとして、それがどうしてタイグドになりきるのに繋がるのかな?」


「超えるためには並ぶ必要があるだろ?」


「ニシドはニシドとして並ばないとじゃない?」


「名前で呼べよ。お前は俺の彼女だろ?」


「いや違いますけど」


「はっ!照れてるところもかわいいな!」


「ねえきもいんだけど」


「馬鹿は無視しとくのが1番よ」


 ララは頬杖をつきながら疲れ切った目をしている。

 この態度からして、夏休み中もニシドはこんな感じだったのだろう。


 ララはネトト村の子たちの中でも特にボスのことを崇拝している。ボスを差し置いてエディーが学年代表だったことにブチギレたのも、今となってはいい思い出だ。

 未だにエディーとはとてつもなく仲が悪いけど。


 そんなララがこんなボスの猿真似男を簡単に受け入れるとは思えない。夏休み中に一悶着があったはずなのである。


「おいララ、いい加減機嫌なおせよ」


「……」


「え、無視ってそのレベル?」


「相手するだけストレス溜まるから。あんたも早く席について関わらないのが1番よ」


「でも私これと同じ班なんだけど」


「そ。ご愁傷様」


 ララにぷいっと目を逸らされる。

 

 行き場のなくなった視線をもう一度ニシドに戻す。


 まじまじと見るとやっぱりボスとは似てない。

 別にニシドも不細工なわけではないのだが、ボスだから赤髪の短髪が似合うのであって、ニシドには全く似合ってないのである。

 真似して整えた眉もニシドの顔に合ってないし、表情もなんか気持ち悪いし。どうしてニシドの元の顔でこんな不細工に仕上がるのか、逆に才能を感じるのである。


 これどうすんのさ。


「お姉ちゃん、どうかしたの?」


「!いいところに義妹よ!」


 救世主の登場である。

 持つべきものは不親切な隣人より親切な家族である。


「お兄ちゃんまたなんかしたの?」


「別になんもしてねえのにこいつらが騒いでるだけだ」


「いや何でヨアはニシドに付き合ってあげて…………は?」


 これまたよく見るとヨアじゃない。


 髪は確かに赤のスーパーロング。目も確かに綺麗なエメラルドグリーン。声も限りなく似てる。


 でも顔の造形が違う。

 ヨアの顔を100点とすると85点だ。


 ニシドと違ってこれはこれで良いと思えるかわいさがあるのだが、確実にヨアではない。


 そう。キシリア・ベルンである。

 彼女の瞳はもともとエメラルドだから完成度が高い。


 予想するべきだった。

 ニシドとずっと一緒にいるやつが影響を受けないはずがない。ボスの偽物がいるならヨアの偽物がいてもおかしくない。


「お姉ちゃん、どうかした?」


「どうかしてるのは私なの?」


「はっ!アーニャがどうかしてるのなんていつものことだろ!」


「え、どうかしてるのは君たちだと思うんだけど。ねえララ」


「……」


「何で私まで無視するの!」


「……あーもうっ!!あたしはもうそれと関わりたくないの!」


「わ、私だって関わりたくないよ!でも私はこの人たちと同じ班だから少なくとも遠足までは関わらないといけないの!助けてよ!」


「知らないわよ!自分でなんとかしなさい!」


 自分でなんとかって!だって何言っても僕がおかしいみたいな反応されるだけじゃないか!


 暖簾に腕押し泥に灸、豆腐に(かすがい)障子に目ありである。

 最後は違うけど。


「そ、そうだ!ヨア!助けてヨア!」


「?」


「違うお前じゃない!!」


「お姉ちゃん口が悪くなってるよ」


「あーもうややこしい!!ヨア!本物のヨア・レグディティア!たすけて!」


「レグディティア兄妹は欠席よ。家族旅行の帰り道の橋が崩落したからまだ帰ってきてないわ」


「え!?それ大丈夫なの!?」


 橋が崩落!?僕のかわいい義妹は無事なの!?


「橋が崩落したのは2人が帰る前日。幸い崩落した時に橋に人はいなかったらしいわ」


「よかったぁ……いや、じゃあこの2人どうやって解決すんのさ」


「あたしは知らないって言ってるじゃない。明日か明後日には2人が帰ってくるけど、あの2人ももう諦めてるから頼るだけ無駄よ」


「そ、そんな……。そうだ!ヒガシド!ヒガシドじゃないルーンは!?この2人とずっと一緒にいるし!」


 教室を見回す。確か東ドイツの席は僕と真反対、廊下側最前列だったはずだ。



 あ、目があったのに逸らされた。



「はぁ…。だから言ってるじゃない、さっさと席に着いて無視するのが1番よ」


「うん。そうだね。ありがとララ」


 ネトト村の中ではもう無視が定着しているようだ。

 僕もそれに倣わせてもらうとしよう…。



「お姉ちゃん。ヨア寂しい」


「「……」」

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