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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第70話 帰路




 遠征は本当にあっという間に終わってしまった。

 3日目は午前中観光して昼には馬車に乗って出発なので、ほとんどあってないようなものだ。


 まあ、俺には本当になかったのだが。


「楽しかった?」


「楽しかったよ。すごく」


「えドMじゃん」


「トゥリー君は遠征全体のことを言ってるんじゃないですか?」


 帰りの馬車のメンバーは俺、リーシャ、サリア、ヨーグ先生。テタとドルモンドがいないことに一抹の寂しさは覚えるが、今生の別れというわけではないしいつかまた会える。


 馬車の窓から見える景色は行きと変わらずつまらない緑1色。行きと違ってワクワク感もないし退屈に感じてしまうのは当たり前のことだ。


「観光はどこへ?」


「普通に名所巡りといった感じですよ。とは言っても1番の名所はやっぱりパークス家のお屋敷ですし、市全体をぐるっと見回っただけとも言えますね」


「楽しかった?」


「私はトゥリーがいないから寂しかったよ」


「私は普通に自由行動がよかったなー。馬鹿な男子とか下品な先輩とか抜きでせんせーとデートしたかったのに。まあほんといえばアーニャとデートしたかったけど」


「帰ったらハレアさんに土産話をしてあげてください」


「下手に今回のこと触れない方がいいと思いますよ。アーニャ割と嫉妬深いんで」


 触らぬ神になんとやら。

 あれだけ楽しみにしてた遠征に置いてけぼりにされたアーニャが、アーニャ抜きで楽しんできた俺らに対して何も思ってないわけがない。


「い、意外と気にしてなかったりすることは?」


「まあ、なくもないですけど…いや、ないですね。たぶん帰って早々『どうだった?私抜きで行った遠征は?――ふーん随分楽しんだみたいだね、私が寝込んでる間に』とか言い出しますよ」


「そこまでアーニャ卑屈じゃ……いや、どうだろ」


「アーニャなら言いそうな気もするね…」


 唯一の希望はラファがアーニャの機嫌を取ってくれていることだが、ラファはそんなことする子じゃない。

 つまり希望はないということだ。


「触れない方がいいのに向こうから触れてくる場合ってどうすればいいんでしょうね…」


「適当にはいはいつらかったねーって言っとけばいいですよ。夏休み明けて遠足とか武闘祭とか始まればすぐ忘れるんで」


「そんなもんですか」


「そんなもんです」


 そんなもんだ。


「そういえばトゥリーは武闘祭に向けて順調?」


 サリアが思い出したように聞いてくる。

 サリアにはなんかの機会で俺の武闘祭での目標を話ししたので、それが何かを知っている。


「まあ順調といえば順調だよ」


「トゥリー目標順位とかあるの?私は実はベスト8を目指してたりするのです」


「リーシャがベスト8か」


「む、無謀かな?」


「上からアーニャ、タイグド、ヨア、エディーは確定として、ノロ、ベス、クロハの3人も試合となれば強力だろうし、そこに私とトゥリーが加わるから、まあ厳しそうだね」


「そうでもないんじゃない?決勝トーナメントはベスト16からだから1勝すればいいだけだよ」


 武闘祭のルールは成績順にABC3つのグループに分けられ、Aグループ8名は決勝トーナメント直行。

Cグループ16名はグループ内トーナメントの上位2名がBグループステージ進出。

Bグループ14名とCグループトーナメント上位2名を合わせた16名が成績順でB1位vsC2位、B2位vsC1位、B3位vsB14位、B4位vsB13位……という形で試合をして、勝利した8名が決勝トーナメント進出となる。


 例年決勝トーナメントのほとんどは1組の生徒でうまるらしい。ちなみに全校生徒と保護者の前で試合を行うのは決勝トーナメントからだ。

 1、2年の1回戦計16試合が1日目、3年の1回戦と1、2年の2回戦計16試合が2日目、3年の2回戦、1、2、3年の準決勝の計10試合が3日目、そして最終日は一般客にも公開して各学年の決勝戦となる。

 決勝トーナメント期間中は出店などが出て、文化祭の側面も兼ねている。準備のほとんどは決勝トーナメントに上がれなかった生徒が行うものであり、決勝トーナメントに上がれなかった生徒が楽しむためのイベントとなっている。


「そのだけが難しいのです」


 しょぼんとリーシャの耳が垂れる。


「でもそのくらいの目標じゃないとつまらないしね」


「まあ成績的にリーシャの配属がAになるかBになるかにもよるよね。B2位とかでC1位と当たるのが1番やばそう」


「その辺は気にしても仕方ないね」


「てかそんなことよりも先に遠足じゃない??うちの班かなりやばいんだけどそっち2つはどう?」


「うちはもう全く問題ないけど」


 俺らの班は俺、レグディティア兄妹、レノ、ドミンド、キタカの6人。レノドミンドの仲良しコンビはレグディティア兄に調教されているし、キタカはドジだけど悪い子じゃないし、実力的にも問題ない。

 ド安定のメンバーだ。ホームルームで話し合ってた感じも悪くない。


「私のところはどうだろ、ベスがしきってるしたぶんなんとかなると思うかな。メンバーは苦手な子が多くてちょっといやだけど」


 リーシャの班はリーシャ、ベスとノロのコンビ、エディー、カラム、ララ。リーシャはベスとノロが苦手だし、ララも苦手だし、なんならエディーも苦手だ。カラムはいい子だけど空気だから頼りにはならない。

 でも実力だけで言えば安定感はある。後衛はリーシャで十分だし前衛はベスとノロのコンビだけで十分だ。そこに加えてエディーまでいる。


「やっぱうちだけ明らかにおかしくない?」


 サリアのところはサリアとアーニャ、カテロンとアラアシとベルンのトリオに加えてカユ。

 カユは補助専門だしカテロンとアラアシとベルンの3人は前衛だが実力にはやや不安がある。基本的にはアーニャがいればなんとかなるとも思うのだが、アーニャはカユのことが大嫌いだからそこが不安だ。


「まあアーニャにかかってると思うんだけど…アーニャって本当に強いの?」


「は?最強に決まってんじゃん」


「リーシャはアーニャがまじで強かった頃のこと知らないし、本気出してるとこ見たことないもんね」


 とはいうもののアーニャの能力に不安があるのは確かだ。

 新しい戦闘スタイル開発中とか言い出してから数年が経ったけど未だに見せてもらえてないし、本当に強いのかどうかは実は定かではない。

 神隠しを解決した時の何かしらかの隠し技はあるから本気を出せば間違いなく強い。ただ、絶対に隠し技を出すことはないと思うからやっぱり不安はある。


「でもサリアちゃんもアーニャに不安があるから遠足が不安なんじゃないの?」


「ちがくて、アーニャはカユがいるとちょっとその…調子が狂うというか」


「まあアーニャカユのこと毛嫌いしてるしね」


「え!?そ、そうなの?私2人とも友達だからちょっと複雑だなあ」


 寂しそうにリーシャの耳がシュンと下がる。俺としても2人とも友達だから複雑だが。リーシャにあえて隠す話でもない。


「べ、別に嫌いってわけじゃないと思うんだけど…難しいんだよね」


「え?嫌いでしょ。絶対に嫌いだよ」


「え?私はてっきりアラネーに似てるから避けてるのかと」


 カユがアラネーに似てる?

 たしかに似てなくもない気がするけど、ちょっと違う気もする。

 カユは『出来る人はうらやましいなあ』で終わるタイプだ。

 アーニャはカユみたいな『能力はあるのに中途半端に上ばかり見て自分を卑下するタイプ』が大嫌いだからカユのことが嫌いなんだと思う。

 アラネーはその点『出来る人はうらやましいなあ』の後に『出来ないことは仕方ないから他をがんばろう』が続くタイプだ。アーニャはそこが大好きだと言っていた。


「まあでも確かにそれもあるのかもね。アーニャはアラネーのことが大好きだったから」


「…うん。私でもアラネーを思い出すと苦しくなるもん」


「まあとにかくサリアの班は大変そうだね。夏休み明けたらすぐ遠足だし、先生がいるから大丈夫だとは思うんだけどサリアがしっかりしとかないとね」


「ねー。てか引率の先生誰なんだろう?あ!もしかしてせんせーだったり!?」


「非常に残念ですが僕もレラーザ先生も2組のほうの担当でした。1組はギシムナード先生とアゲハ先生とガードナー先生でしたかね」


「あーデルヌーとガードナー先生かー。デルヌー引いたら最悪だなぁ」


「な、なんでですか!アゲハ先生はとっても優しくて素敵な方ですよ!」


「だってアーニャがデルヌーのこと嫌いだもん」


「ま、まったく。ハレアさんは好き嫌いが多いですね…」


 ちなみに陸上競技部顧問のガードナー・トレイル先生は数学担当の鬼親父として有名だ。厳しすぎて授業中に泣き出す女子生徒もいる。だが、アーニャのことがめちゃくちゃお気に入りだ。

 てかたぶんアーニャの班に来ると思う。ベテランだからそのくらいの権限はある。


「リーシャはどの先生がいいとかある?」


「……くぅ」


「あ、また寝落ちしてるこの狐」


「まあ怒涛の3日間でしたからね。お2人も寝ていいですからね。特にトゥリーくんはお疲れでしょう」


「そうですね。たぶん寝ようと思ったらすぐに寝られちゃうと思います」


「私も寝ようと思ったらすぐ寝られると思うんだけど、寝たら終わりだと思うと寂しくて。せんせーは寂しくないの?」


「え、えと、まあ寂しいですね。たしかに、はい」


 珍しくサリアが少しかわいいことを言う。こんな表情でこんなこと言われてたじろがない男はいない。ヨーグ先生もたじだじだ。


「とかいいつつ、15分後にはサリア寝ちゃってそうだよね」


「えーじゃあ誰が長く起きてられるか勝負しよ!」


「あ、僕もですか?」


「当たり前じゃん!あ、もしかしてせんせー眠いの?ばぶちゃんでちゅねー!」


「ぐふふ、いいでしょう。その喧嘩買ってあげますよ」


「前から思ってたんですけど先生の笑い方キモいですよね」


「あ!私も思ってた!」


「え!?き、きもいですか!」


「きもい!デルヌーの前でその笑い方したら一瞬で嫌われちゃうよ!」


「べ、別に僕はアゲハ先生のこと…」


「またまたー。もうばればれだからそういうのいいって」


「ご、ごほん。まあその話は置いとくとして、問題は僕の笑い方についてですよ」


「まあそう簡単に治せるものじゃなくない?」


「意図的に治していこうにも、笑う時ってそんなこと考えてられませんしね」


「笑う時にそう言うの考えてると、逆にぎこちなくなってつまらない男って思われそう」


「じゃあどうしたらいいんでしょう…?」


「まあきもいって思われちゃうのもありじゃない?他を好きにさせれば、キモさも可愛いって思ってもらえるよ」


「うーん…それはそれでむずかしそうですね…」


「デルヌーをおとそうとするならそのくらいはがんばらないと」


「うぇ、そ、そこらへんのあどばいすは……」


「いいとししてちゅうがくせいにれんあいそうだん……」


「いや…だって…………すか?」


「……た……です……よ」


「…………………」


「……」














「……ふふっ、おやすみトゥリー」


これにて遠征終了となります。


更新が止まっていたこともあって恐ろしく長い遠征になってしまいました。


遠征はトゥリーとアリシア視点でお送りさせて頂きました。実は落ち着いていて真面目なアリシアの内面とかをお届けできて楽しかった反面、どこか2人の視点では物足りなさを感じる自分もいました。一体なぜなのでしょう。


ところで皆さん、アーニャ・ハレアという人物を覚えていてくださるでしょうか。

彼女が最後に登場したのは去年の10月です。

作中では3日間ですが、実際には9ヶ月も登場していません。


実はこの作品の主人公はトゥリーでもアリシアでもなく彼女だったりします。


と、いうことで本作は再び彼女の視点へと戻ります。

物語全体が少しずつ動いていく3章第2部、もうしばらくお待ちください。


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